第4話 「僕たちが守るよ!」




「あそこに見える街が、噂のあがってるレーテルよ」


 細い一本道の途中で、城壁に囲まれた丘の上の都市を指して、リアが言った。


「へぇー。あそこに魔王軍が侵攻してくるとか、そういう話なのかな?」

「おそらくそんなところ」

「だったら、まずは酒場とかで情報集めるのがテンプレじゃない?? 早速行って――」

「ううん、それより」


 ラノベ脳の僕の提案を、リアはあっさり取り下げた。


「少し離れたここに召喚したのは、街の人にみられないためっていうのと別に、強さとかスキルの使用感とかを確認してほしいからでもあるの。ひとまず自分たちのステータス、見てみなさい」

「見るって……どうやって?」

「適当に頼めば出てくるはずよ」

「しゃべればいいの??」

「えっ、それすごい! アスカやってみるねっ!!」


 そこで横から割って入ってきたアスカが、スマホに話しかけるのと同じように、見えない誰かに大きな声で話しかけた。


「ステータス、カモォ~ンッ!!」


 すると、ヒュッと軽い音がして、僕たちの目の前に実体のない画面があらわれた。


「おおっ、出た!」

「なんかちょっとハイテクかも??」


 僕とアスカのいろんな情報がずらっと、二人分を横に並べて書いてあった。一通り目を通してみる。




基本情報

名前:キリサキ・ハヤテ

LV:40

種族:人間

性別:男

職業:召喚勇者


能力値

攻撃 428

防御 410

命中 336

敏捷 362

魔法攻撃 525 (×1.25)

魔法防御 500 (×1.25)


チートスキル

①女神から勇者へのエールよ、感謝しなさいっ!:LV40から開始する。

②上昇志向って大事!:魔法攻撃と魔法防御が常時1.25倍になる。

③永遠に繋がっていたいから:召喚前の世界に繋がるドアを出現させる。往復可能。



基本情報

名前:キリサキ・アスカ

LV:40

種族:人間

性別:女

職業:召喚勇者


能力値

攻撃 408

防御 286

命中 654 (×1.5)

敏捷 414

魔法攻撃 352

魔法防御 370


チートスキル

①女神から勇者へのエールよ、感謝しなさいっ!:LV40から開始する。

②ロックオンだよっ!!:命中が常時1.5倍になる。

③心の音がきこえる:一定以上の強い悪意を気配で感じ取れる。詳細な逆探知が可能。



☆女神の気まぐれによるおまけ

完全無欠の魔導書アブソリュート・グリモア】:とにかく最強の魔導書。これに載ってない魔法はない!! さらに特定の魔法は、二種の呪文を二人で分担して唱えれば、魔法攻撃の合計値に応じて威力が大幅UP!!




「ねぇ、リア……もしかして僕たち、すっごく強いんじゃないのっ!? チートスキルって、まず『チート』って書いてある時点で自信ありすぎるけどさ、それが三つもあるし、最後のもどう考えたっておまけってレベルじゃないし!!」

「みてみて、アスカ数字にかたよりあるけど、命中がすんごいことになってる!! これってどんぐらいなのっ??」

「えっと……能力値は500超えてたら、軽く人間やめてるレベル……かしら」

「ええっ、そんなに!?」

「ウソっ! アスカまだちゃんと人間だよねっ!?」


 びっくりした。チート持ちの最強主人公には多少憧れてたけど、まさか最初からここまでとは!


「あれっ、でもこれって、ぜんぶ女神様のリアのお陰なんだよね?? それって充分スゴいことじゃないの? いや、むしろスゴすぎておかしいよ!!」

「そうだよっ!! さっきリアちゃん大したことないって言ってたけど、全然そんなことないよっ!!」


 僕たちは本心でそう言ったつもりだったけれど。

 リアは突然、その場で顔をふさいで静かに泣き始めた。


「……すっ、ずずっ……」

「えっ、どうしたの、リア!」

「それだって……わたし、いろんな人からの信仰を集めて、神の力にしてるんだけどね……あなたたちのそのスキルだって、ちょうど何ヶ月も溜め込んでた分をぜんぶつぎ込んで、それで、それでやっとだったのよっ!! ……あっ、勘違いしないで、もちろんあなたたちのためじゃなくて、危険に晒されてるみんなのためよ……。でもわたし、こっちに来ちゃった! ホントはもう女神のお財布すっからかんで、ぜんぜん力も使えないのにっ!! こっちにはモンスターもいるし、魔王のつくった魔物も出るし、もう、もう……!! ぐすんっ」


 神様がそんなに苦労してたなんて、ぜんぜん知らなかった。

 目の前で涙にぬれるリアが不憫に思えた僕は、いたたまれなくなってリアを正面から抱きしめた。


「ひゅあわっ!? こっ、今度はなにを、ハヤテっ!?」

「ごめん、僕たちが自分勝手だったせいで……。だからさっ、そのかわりって言えるかは分かんないけど、リアは僕たちが責任をもって守るよ! 」

「……えっ??」

「だって僕たち、チート持ちの勇者だからさっ!!」

「でっ、でも……」

「遠慮も強がりもナシ!!」


 まだなんの力も使ってないけど。僕は自信を持って宣言する。


「ああ~、ハヤテだけずるいっ! アスカもくっつく!!」


 僕と二人でリアをサンドイッチするようにして、アスカもリアの背中から抱きついた。


「ちょっ、やめなさいアスカ!! 動けないでしょっ!!」

「ふふ~んっ」

「はっ、ふにゃっ!? こらっ、首すりすりはしな――」

「『ふにゃっ!?』だって!! リアちゃんやっぱりちょーカワイイッ!!」

「ちゃん付け禁止!! あとかわいいって言うなあぁーーっっ!!」


 二度目のリアのまっすぐな叫びは。今度はからっと晴れわたった、真っ青な空の彼方に吸い込まれていった。



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