第3話 異世界に女神、連れてきます!!




「もっ、もうわたしの話は終わりよ!! かわいいの話もナシっ!! それより……そうよ。あなたたちはさっさと異世界に行かないといけないの。ほら、はやくこれを飲みなさいっ」


 無理やりに話をそらして、リアはどこからともなく、皿つきの白いコーヒーカップをふたつ取り出した。

 中には南国の海みたいな、宝石のように青い色の液体が。


「えっ、いまどこから出したのっ!?」

「あっ! それアレでしょ、マホウ魔法ってやつでしょっ!! やっぱりリアちゃんメガミさまだから、使えるんだぁ~」

「うーん、魔法とは違うわ。神の特別な力よ」


 僕とアスカの純粋な疑問に、リアは落ち着きはらって答えた。


「それから……アスカだった? お願いだからそのちゃん付けはやめて」

「えっ、どうして?? カワイイのにぃ~」

「それは……はっ、恥ずかしいからよ」

「むぅ~っ、わかった」


 不満そうに口を尖らせながらも、アスカは納得する。

 僕はといえば、なみなみと注がれた透明感のあるその液体を、魅入るように眺めていた。


「きれい……」

「それを飲むだけで、誰でも異世界に行けるわ。……あっ、でも行く前に、大事なことは説明しておかないとよね。あなたたち二人には期間限定で、異世界で勇者として戦ってもらいたいの」

「ゆ、勇者! 僕たちが!!」

「カッコイイやつだよねっ!? アスカ、勇者なりたい!!」


 リアの言葉に、僕とアスカはほとんど反射的に反応した。こんな僕たちでもなれるんだ……勇者に!


「近々異世界のある場所で、魔王軍がなにか大きな動きを見せるかもって噂があるの。あくまで噂だけどね……もしその時は、みんなを救ってくれないかしら」

「やりますやります、喜んで!!」

「りょーかいだよっ!!」

「……ずいぶん理解が早いのね」

「えっ?」

「いや、『どうして僕たち二人なのか』とか、訊いてくるかと思って」

「えっとぉ……それは、リアちゃんがアスカたちのこと気に入ったからでしょっ??」

「はぁっ!? ちっ、違うわよ! ぜんっぜん違うわよっ!!」


 少し口調が女神らしく真剣になったかと思えば、アスカの質問に対しては、例のツンモードに入って必死に取りつくろうリア。

 ならその話にしなきゃいいじゃんとも思うけど、そうやって墓穴掘っちゃうところが余計可愛い!!


「あとちゃん付けナシって言ったでしょ!」

「はぁ~い」


 アスカも全然反省してなくて、むしろからかってるっぽい。


「あなたたちのそのポジティブさは勇者として期待できるから……って、これわたしじゃなくて、もっと上の神様が言ってただけよ!? 勘違いしないでよねっ!!」


 テンプレ台詞いただきました! めちゃくちゃ様になってる!!


「ほら、分かったらもう行くのよ。これ、飲んで?」


 リアはもう面倒くさくなったようにそう言って、カップをすーっと押し出してきた。

 でもそれは、僕とアスカの前に、当然だけど二人分だけ。


 僕はアスカにちらっと目線を送った。その意味が伝わったのか、アスカはうん、と小さく頷く。

 よしっ! 僕は心を決めると、リアの座る椅子の後ろにササッと回りこんで、ぎゅっとその身体を強く抱き押さえた。


「ひゃわぁっ!?」

「よし、いまだよアスカ!!」

「うんっ!!」


 僕がリアの腕の自由を奪っている間に、アスカは片方のカップを持ってリアの正面からゆっくり近づく。


「ちょっ、わっ、あっ……なにするのよ急にっ!? ハヤテっ、離しなさいよっ!!」

「ごめんリア!! ちょっと強引だけど……でも僕たち、リアと一緒に異世界に行きたいんだよ! 仲間が多いほうが安心だし、それに僕は……リアのこと大好きになっちゃったから!!」

「んんんんーーっっ!!」


 必死に上を向いて抵抗するリアの真一文字に結ばれた口を、アスカが頑張って指で開く。そしてその小さなスキマに、不思議な青い液体を――。


「お願いゆるして、メガミさまっ!!」


 ゴクリ。

 ほんのわずかだけど、リアは確かに飲み込んだ。


「えっ、嘘……わたしもう飲んじゃった!? 飲んじゃったよね!! ねえちょっと、どうしてくれるのよっ!! わたし絶対、異世界なんて行きたくなか――」


 スッ、と。

 リアの腕を強く押さえていた感覚が、一瞬にしてなくなった。


「うわあっ、リアちゃん!?」


 リアはもうそこにはいない。


 突然のことだったからかやっぱりびっくりして、素っ頓狂な声をあげるアスカ。

 でも僕は冷静さを失わずに、アスカに向かって大声で言った。


「アスカ、僕たちも早く追いかけるよ!!」

「あっ、そうか、そうだよねっ! じゃあいただきますっ!!」

「いただきますっ!!」


 僕たちも同時に、それぞれカップを逆さにして、勢いよく飲み干した。

 それは初めて体験する味だったけど、レモンに似ててすごく甘酸っぱかった。




「もう、どうして!? 最悪よっ!! わたしはちゃんと本物の女神・アルメリアだけど、みんなすっごく勘違いしてるだけで、ホントは神の力って全然大したことないのっ! 魔力マナがあって、呪文覚えれば誰でも魔法つかえるこの世界じゃ、わたしの力なんかむしろ地味なほう。 チート勇者のあなたたちと比べたら、ただの足でまとい、ポンコツンデレ残念系美少女女神になっちゃうのよっ!! マリス教の信徒のみんなだって、姿が見えないから神様を信じられるわけで、『わたしがアルメリアよっ!』なんて言っても馬鹿にされるだけだし……。ホントにどうしてくれるのよっ!! 責任とってくれるわよね!? ハヤテぇ~~、アスカぁ~~っ!!」


 異世界に着いた僕たちは。

 景色なんか確認してるヒマもなくて、しょっぱなからリアにこっぴどく叱られながら、同時にわんわん泣きつかれた。


「どーもすいませんでしたあああっ!!」

「ホンっトーにごめんねっ!! ゆるしてメガミさまっ!!」



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