第2話 「好きです!」




 一分で家に帰ると。

 僕がまんま想像してたとおりの、青髪ツインテの死ぬほど可愛い女の子が、ダイニングのテーブルでオレンジジュースを飲んでいた。


「あら、早かったわね。あなたがハヤ――」

「……」

「……どうかしたの?」


 ちょっと上から目線な琥珀色の瞳と、トゲトゲしつつも細い女の子らしい声。

 その攻撃力がハンパなくて、僕は少しだけ硬直。

 でもそれでスイッチが入った僕は、次の瞬間には隣にかけよってしゃがみ、その白く綺麗な手をにぎっていた。


「ひゃっ!?」

「えっと、君がアスカの言ってた、ツンデレで超絶美少女の女神様でしょ?? 絶対にそうだよねっ!! 名前はなんていうの? 女神様でも、カタカナの名前あるでしょ?? 僕はキリサキ・ハヤテ。『霧』を『裂』く『迅』速な『風』って書いて、霧裂きりさき迅風はやて。ついでにあっちは妹のアスカ、『』ける『鳥』で翔鳥あすか。どっちもちょっと珍しい名前だけどさっ。ねえねえ、もしよかったら僕と友達になってくれない?? ……いや、じゃなくてえっと……一目ぼれしました、好きです! 僕のヒロインになってください!! お願いしますっ!!」

「……」


 僕は息もつかずにそこまで一気にまくしたてて、驚きでぽかんとしている女神様のすぐ目の前で、勢いよく頭を下げた。

 さっきはアスカのことをうるさいとか言ったけど、こうなったら僕も大概。


「うわあっ! ハヤテがメガミさまにコクハク告白した!! すっごい大胆!!」


 テーブルの反対側からアスカの興奮した声。


「ちょっ、告白って……わたしに!? あっ、えっ待って、なによいきなり!? 手まで握って……えっと、彼がハヤテなのね? いっつもこうなの??」

「ううん。ハヤテは女の子には目がないけど、そこまでなるのは始めてかなぁ??」

「じゃあ、どうして……」

「それはもちろん、メガミさまがすっごくカワイイからじゃないっ??」

「かっ、かかかっ、可愛い!?」

「うん。アスカもそう思うよ!!」


 頭を下げたままの僕には見えないけど、たぶん女神様は頬を真っ赤に染めて、思いっきり照れてるはず。うううんんん……見たいっ!!


「えっとえっと、どうしようかしら……とっ、とにかくあなた、顔を上げてくれない?? あとこの手、離して」


 と思ってたら、早速本人からお許しが出たから、僕は顔を上げた。

 手のほうはそのままにしておきたかったけど、一応神様だし気高きツンデレだから、言われたとおりにする。


 動揺を必死に隠しているような女神様は、とにかく可愛いとしか言いようがなかった。

 歳は僕と同じか、もしかしたら一個か二個ぐらい上?


「ハヤテ……そうね、まずはさっきの質問。わたしの答えは、もちろんNOごめんなさいよ。わたしは女神、姿かたちは同じでも、あなたたち人間とは違うの。ずっと上の存在。だから、同等の関係を結ぶことはできないわ。……もっ、もちろん、あなた自身にも興味は抱いてないわっ」

「じゃあ、せめて友達からでも!」

「それも無理」

「そっかぁ……」


 確かに考えてみればそうだ。だって神様だもん、僕たちよりずっと偉いはずだもんね。

 僕はしつこいことは言わずに、引き下がることにした。


「あっでも、名前を教えてくれるぐらいならいいでしょ!」

「そういえば、アスカもまだきいてなかった!! ねっねっ、なんていうのっ??」

「そうね、それくらいならいいわよ。……ただし、わたしの信徒になってくれるっていうなら」

「シント?」


 首を小さくかしげて、アスカが質問する。


「そう。マリス教のね」

「マリスキョウ??」

「ええ。人々を導く慈愛の神・アルメリアを崇め奉る宗教……あっ」


 興味津々に訊くアスカに、女神様はちょっとだけ胸をはるようにして説明して――うっかりそれを漏らしたことに気づいて、あわてて口を閉じた。


「アルメリア、それが君の名前なの??」

「すっごくいい名前じゃんっ!!」

「ううっ……」


 軽く下を向いてふさぎ込む、慈愛の女神・アルメリア。

 僕は彼女を元気づけようと思って、明るく提案した。


「じゃあ、メリア! 君のことメリアって呼んでもいいよね!!」

「あっ、ちょっ!? どっ、どうして短くするわけ!?」

「だって、そのほうが可愛くない? 五文字だと長いしさ」

「ねえハヤテっ、それだったらリアのほうがもっとよくない??」


 そこにアスカの意見も。


「リアかぁ……それもいいかも」

「じゃあそうしよ。ヨロシクね、リアちゃん!!」

「ち、ち、ちゃ、『ちゃん』っ!?」

「うん! すっっっごくかわいいよっ!!」

「だからそんなに、かっ、かか、かわいいって言うなあぁーーっっ!!」


 勢い任せの超絶ハイテンションで、すっかり歯止めの効かなくなった僕とアスカに押し切られて。

 ツンデレ美少女の姿をした慈愛の女神様・リアの、どこまでも遠く続いていきそうな叫び声は、僕たちの家の白い天井にこだました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る