夜と少年

竜胆 苑

第1話夜と少年

少年は小さなベッドの中、ふと目が覚める。8月30日、午前1時。これは彼が自らの目で認めた現在時刻だ。それはさておき、彼はなぜ目が覚めたのか?それから彼は寝ぼけた幼い脳を回転させていく。彼はトイレに行きたかったわけでもない、かといって冷房の寒さで目が冷めたわけでもないのだ。ふと目を瞑って思い出したのは、あの人。

(そういえば今日のお空には綺麗ななにかが浮かぶと言っていたっけ…そうか、それだ、それが見たかったんだった。)

どうやら彼はようやく思い出したようだ。そうと決まると彼は、自室の扉をそっと開けていたずらを映した瞳をあたりにぐるぐると散らしていく。幸運なことに両親はすっかり眠りについているようだ。彼は戸を閉め幼稚園バッグへと視線を集める。中には家の引き出しにスペアとしておいてある鍵とライト。今の彼には事前に用意した何気ない日常用品までもが興奮する材料なのだ。

彼は再び扉を開け視線をばら撒きながら玄関までたどり着くとそっと夜へとつながる戸を開けた。

夜の世界は少年には未知の世界だった。母にちゃんと緑色に変わるまで待ちなさいと言われていた信号も、車が全く通っていないと言っても過言ではない位に利用量が少なかった。こんなにも夜が寂しいものなのかとふと感じ、この先にあるよく星の見える小高い丘に行くと思うと少し足が重たくなったのを感じたが彼は何も感じないことにしたのだった。

_______そうしてこの丘まで来たわけだが正直、期待はずれだった。星たちを隠すように軽く、それでもずしんとした雲がこちらをじっと見ているのだ。これでは鮮明にわかるのは夏の大三角ぐらいなものだ。少年は決して七夕の願いを言いに来るために、夜を…命をかける思いでここまで来た訳では無い。彼は目からこぼれる悔しい雫を雲だけには見せまいと手で頬を擦る。

彼がバッグを持ち、立ち上がった時だ。薄い雲の隙にこちらまで伝わるような光が漏れてきた。何かと思い少年はそこを睨みつける。そして少年は驚いた。ほかの星よりも何よりも大きくあたたかい光を纏った『彼女』が現れたからだ。あの人が言っていたのはこれか、そう彼は確信した。彼女は圧倒的な存在感で彼の視線を強奪する。彼は紅潮した頬を抑えながら視覚を奪われた脳でぼうっとこの思いを整理していく。これは泣いていたせいか、あるいは興奮か、それとも_________。

追いつかない頭の中、彼はふわふわと洗脳されたのか、自分の意志なのかわからないまま口を動かして最初の疑問をぶつける。

「こんばんは。きみはなんていうお名前なの?」

彼が彼女の頬を撫でるように手を伸ばすと、彼女はそっと唇を割った。

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夜と少年 竜胆 苑 @sono_uniuni0125

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