解決

 「「心理学?」」


 口を揃えて森本と演劇部の女子はこう言った。

 俺は一度森本たちを呼びに行き、その後この教室に戻ってきた。もちろんもうあの化物はいない。俺は今、この幽霊騒動を『心理学』で説明しようとした所だ。


「そう。全ての現象は心理学で説明出来ます」

「どういうことだ倉間っ」

「焦らないで森本。ちゃんと順を追って説明するから」

 森本と演劇部を相手に、俺は説明を始めた。


「まず目の動く肖像画。これは『モナリザ効果』といって、カメラ目線の人物の視線が追いかけてくるように感じる現象です」


「そうなのかっ……」

 森本が目を見開いて俺を見た。気にせず俺は説明を続ける。


「そして窓に映った幽霊。これは『パレイドリア現象』といったもので、雲の形が動物などに見えるのと同じ現象です。演劇部の皆さんが見たのは、窓についたただの汚れでしょう。それを幽霊だと錯覚してしまっただけの話です」


「でも! 私たちはそれを見た途端、みんな倒れちゃったんですよ!」


 演劇部の女子が口を挟む。それと同調するように、周りの部員たちがざわつき始めた。しかし俺は落ち着いて話を進める。


「それも心理学で説明出来ます。『集団ヒステリー』というものです。集団が強い不安や恐怖のストレスにさらされた時、みんなにそれが伝わり失神や呼吸困難を起こすことがあるのです」


「集団、ヒステリー……?」

「ええ。演劇部の皆さんは文化祭のため、今忙しく活動していますよね。そのストレスから集団ヒステリーが起きたのでしょう。騒ぎの原因は幽霊でもなんでもありません」


 こんなのこじつけだ。しかし本当のことを話すわけにもいかない。余計混乱を招くことになる。それに、俺があんな活動をしていることを明かすことは出来ない。


「すっげえな倉間! 見事な推理だなっ!」

「こんなの事件でもなんでもないですよ……」

 目を輝かせている森本を横目に、俺は教室を去ろうとする。


「せ、生徒会長! ありがとうございました!」

「では……これで俺は失礼します。文化祭、良い芝居を期待してますよ」

 演劇部に軽く挨拶をして、俺は教室を出た。森本も後に続いて教室を出る。これでやっと俺は眠りにつくことが出来るのだ。最終下校時刻まで俺は、生徒会室で寝ることを決心した。

 あ、しまった。あの化物のこと本部に報告しないと……ま、いいか、あとでやれば。

 生徒会長、倉間律の暗躍は誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無気力ヒーロー 小花井こなつ @deepsea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ