第2話それは恋心

(2)


八月中旬。天気は晴れ。


「まーた怒られたよ。今日で何度目だ……」


「おいこの泥棒猫!いつか叩きのめしてやるからな!」


僕の今日は彼らとは違う。


あーあー。


声の調子よし。

ご飯も持った。

髪型もバッチリだ。


会える確証は無いが、昨日と同じ時間に同じ場所にいれば……。


この気持ちはなんだろう。

多分、緊張ってやつかな。


緊張とはとても厄介なものだ。

脈が速くなり、鼓動がうるさい。

体も重いし……。


昨日落としたのはこの辺りだったかな。


ある程度人の通りがあり、商売が盛んな賑やかな場所。極めつけはこの噴水だ。


間違い無い。ここだ。


「あら、やっぱり考えは同じでしたね!」


美しく優しい、且つはっきりと聞こえるこの声の持ち主はただ一人。


また、会えたね。


「今日は特別に、私の家にご招待しますわ!」


わーい!


人の多い商店街から抜け出し、小さなトンネルを潜って坂を上がる。

いつの間にか人の姿は見えなくなり、気付けば僕と彼女の二人だけだ。


そうだ、君の名は……。


「着きましたよ」


全て言い切る前に彼女によって遮られた。


まあいいか。まだチャンスはあるさ。


どれどれ、どんな家に住んでるのかな……って、大きくない!?


街を少し外れた所にこんなに大きなお屋敷が立っているとは……。


「ふふ。驚きました?では、中に入りましょう!」


中も結構な広さだった。白塗りの壁に真紅に染まった屋根が飾られている。


彼女は驚く僕を他所に、「その椅子に座って」と白い木製の椅子を用意していた。


「なんか変な感じね。貴方に座ってなんて」


何がそんなに可笑しいのか、クスクス笑ってこっちを見ている。

人間なら座るのは当たり前のはずだが……まだこの子がよく分からない。


まあ、まだ時間はあるさ。ゆっくり進展させていけばいい。

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