綺麗事はいらない

笑顔のもと

第1話 落し物

(1)


は~あ。

今日も退屈だ。

何か楽しいことないかな。


眩い光を細めで眺めながらそんなことを考えていた。

嫌でも目に入る街の人々は、疲れきった様子で道を歩いている。


「今日も部長に怒られたよ……」


お前は毎日そう言ってるな。

よく辞めないものだ。


横を見れば猫が魚屋で大暴れをしている。

日によって出てくる猫は違えど、どいつもやることは同じだ。


他のヤツのことを言える立場じゃない。

僕だって、毎日ぶらついて食べて寝るだけ。


何やってんだか。


は~あ。


あっ。


欠伸と共に無意識に背伸びをしていた為に、大切なものを落としてしまった。


拾わなくては。


落としてしまったソレを拾おうとすると、今まで明るかった空が急に暗闇に包まれた。


何事だ!?


僕が顔を上げると、眼前には超絶可愛い女の子がいた。


「あら、貴方も落としてしまったのですか?ふふ。奪おうなんて思わないから大丈夫ですよ」


麦わら帽子に白いワンピース。赤いリボンの留まった、

これは……ああ、ビーチサンダルだっけ。

を履いている。


夏のお祭りでよく見るやつだから思い出せた。


ぱっちり開いたその目からはまだ幼さが感じられ、まだまだ美人になれる可能性を秘めている。


唇は薄く化粧が施されており、少しだけピンクの艶が見られた。


「これ、拾わなくてもいいんですか?」


え?あ、ああ。


僕としたことが。ソレを拾うことすら忘れるなんて。


ありがとう。


そう言うと、少女は少しだけ微笑んだ。


「良かったらご飯、一緒に食べます?」


こ、ここ、これは、デートの誘いか!?


「あそこのベンチで食べましょう!」


し、仕方ないな~!


急な誘いではあったが、大分仲良くなれて暫く二人で会話を弾ませることが出来た。

こんなに会話をしたのはいつぶりだろう。話しながら食べるご飯はいつもより美味しい気がする。


「あ!私、暗くなる前には帰らなくては行けないの!また遊びましょう」


時間が過ぎるのは早い。

また明日、会えるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る