9日目 曇りのち雷

 梅雨の終わりは激しい雨が降るらしい。

雷を伴い、ゴロゴロと空が怒っている。


 私は、この後どうしたらいいんだろう。

こんな、気持ちを普通の人たちはどうやって抑えているんだろう。

私も、和人先輩と同じ様にこの世とは別の存在になる事ができれば、真正面からぶつかれるんだろうか。

雷をともなった大雨を校舎の窓から眺めながら、そんな事をずっと考えていた。

きっと自殺をしようとしている人の表情はこういう表情なのだろうか。


「かおりちゃん。みて、雨の動きが風で横向いてるよ。」横殴りの雨っていう言葉で表現した人はすごいと思った。

私はどうしようもできない気持ちを持ちながらも雨の日には必ず、この屋上に来ている。


「和人先輩は、好きな人はいますか?」驚いた表情の和人先輩を見る事ができた。

当たり前だ。女の子は、この凶悪な突然のパンチを狙って繰り出す事ができるのだ。これは、最近とっても素敵な赤い傘の似合う、大人の女性に実体験で教えてもらったから間違いない。

「—いるよ。かおりちゃんは、ずるいなあ。知ってるくせに。」いじけた表情の和人先輩に私は、そんな事を聞きたかったわけではない。

「じゃあ、実らない恋と分かっている時はどうするんですか?」

「色んな人は、それでも気持ちを伝えるべきとか、諦めるとか。」私は、自分の気持ちの答えが欲しかった。同じ境遇の和人先輩はどう考えているのか気になったから。

「じゃあ、恋のゴールって何だと思う?」和人先輩からの質問の返しに、私は必死に考えた。一般的には、告白は付き合ってもらう為のもの。ゴールといえば結婚なのか、離婚も考えると看取るまでがゴールなのか、ぐるぐると頭の中で思考をめぐらせた。

「僕は、好きになって、付き合って、手をつないで、キスをして、いずれは結婚をして、そういう将来をなんとなく考えていたよ。」私はすごくこの言葉に惹かれた。何となくを何となく過ごしている私にとって、何となくをはっきりとさせる言葉たちだ。

「ただ、違うんだ。多分、人を好きになるっていうのは、その人が楽しそうで、幸せなら、僕は想ってるだけで充分だと思えるようになった。」

「だから、佳織を大切にしてくれる人が現れたなら、僕は幸せそうな佳織を見れて幸せなんだ。少し、寂しい気持ちもあったけどね。」

「相手が好きじゃなかったら、好きになってはいけないと思っていた。だけど、違うんだ。相手が僕の事を好きじゃなくても、僕の中でずっと大切に想っていていいんだと思えたから今は楽しいよ。」私の大好きな優しい笑顔で、私が欲しかった答えを言われた気がした。


 気づけば、経験したことがないくらいの涙が溢れていた。

「じゃあ、好きです。」

「どうすればいいか分からなかった。結婚もできないし、触る事もできないし」

「何度も好きになっちゃいけないと思った。」

「けど、好きでもいいと思えたら、こんなに心が軽くて、嬉しい気持ちになるんですね。」


「私は、和人先輩が大好きです。」すごく嬉しかった。告白って、シチュエーションを考えて、一生懸命、勝負フレーズを考えて、メールにするか、電話にするか、直接会うのか、いっぱい考えるものだと思っていた。

こんなに、自然に気持ちに任せて、相手を想って気持ちを伝える事ができてうれしかった。


「—ありがとう。本当にありがとう。」驚きながらも、少し笑顔で答えてくれた。どうやら幽霊は心が読めないらしい。


梅雨が終わる。

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