第3章 梅雨
7日目 中日和
三日間続いた雨が上がった。私は、和人先輩に会いに向かった。
何となく、合えない事は分かっていた。
雨の日にしか会えない人。ただ、動かずにはいられなかった。
いつもの屋上の、いつもの隅の方、屋上に出た扉から丁度反対側に位置する場所。
そこが和人先輩のお気に入りの場所だ。
じめっとした暑さの中、少しばかりの汗を拭きながら、その場所へとたどり着いた私の目には、やはり和人先輩は映らなかった。
「―私は、会って何を聞こうとしていたんだろう。」スポーツの世界では、頭より体が先に動く瞬間があるらしい。そんな経験を自分がするとは思ってもいなかった。
「雨だ。」ぽつぽつと頬に冷たさを感じた。
「―かおりちゃん。」何となくだが、雨を感じた瞬間から和人先輩がいる気配がしたていた。私は声のする方を振り向けなかった。
「見てみなよかおりちゃん。地面のタイルの模様に雨が沿って流れていく。面白いね。」普通なら気にも留めない事を教えてくれる。
「和人先輩は、いまどういう気持ちですか?」私は、精一杯考えてこの言葉を発した。相手が何を思っていて、私に何ができるかを考えたいと思ったからだ。
少しだけの沈黙が永遠に感じた。
雨の音が心地よかった。
「―うん。すこ、し、さみしい気持ちかな。」一呼吸おきながらそう答えた。
「わ、私は和人先輩に何ができます、か?」
まばたきさえ許されない気がしたまま見つめ合った。
「このままは駄目だね。ごめんね。」和人先輩は優しく、私を気遣ってくれている気持ちが分かった。
「かおりちゃんが分かっているとおり、僕は雨の日にしかここにいられないんだ。」
「魂って信じる?僕は信じてた。世界って本当に綺麗で、特に雨の日なんて、世界が洗われた後に、目いっぱいの光を反射して眩いんだ。」
「きっと僕の魂は、場所でもない。人でもない。雨に宿ったんだよ。」
「かおりちゃんに話しかけた時に、まさか返事が返ってくるとは思わなかった。」
「サークルの誰にも僕の声も聞こえていないようだから。」
私は、どこか安堵していた。もっと恐い予想もしていたからだ。
そんな心配もなく、ただ悲しくて。寂しくて。
ただただ、悲しくて、寂しくて。
こんなに胸が痛くなる原因に気づいていたはずだったのに、そう思わないようにしていた。
ただただ、悲しくて、寂しくて。
ただただ、恋しくて。
気付けば、綺麗な太陽が昇っていた。
雨はどこへいったんだろう。
和人先輩はどこへいったんだろう。
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