3日目 曇りのち雨
買った。ついに買った。
それほど高価なものでは無いが、水玉模様の傘。
今日は、午後から雨らしい。サークルの頃には雨が降っているだろう。
雨の音がする。
肌がじっとりする。
心は少しわくわくしている。
屋上へ早足で向かった。
今日はビニール傘じゃない。
「かわいい傘ね。」香織先輩が声をかけてくれた。
「それなら大丈夫。」ふじき部長が声をかけてくれた。
大丈夫とはどういう事だろうと、思った瞬間、
ザーッと雨の音が今までより大きくなった。
雷が鳴り、ものすごい音が響いた。
「さあ、雨サークルの合図だ。活動開始。」ふじき部長は、校舎下へおりていく。
行き先は、大学近くの丘の上にあるカフェ。
激しい雨は、収まりポツポツと、傘をさすのに心地いい雨だ。
「雨の日は世界が綺麗だよね。」黒くてシックな傘が似合う、和人先輩の声だった。
少し大きめの黒い傘はその人を一段と大人に見させた。
「見て。カエルがおんぶしてる。」
「かわいいですね。」
雨だからできる会話をしながら、香織先輩にもうすぐ着くよと呼ばれた。
丘の上からは、私達の瓜生町を一望でき、雨があがった景色は光が反射され、
世界は雨で洗われてるんだと思えた。
このカフェは、雨サークルにとって大事な場所らしい。
意外と歴史あるサークルである事をその時初めて聞かされた。
カフェの中には交換アルバムがおいてある。
お客さん同士が書きあったり、写真を収めたり、プリクラを貼り付けたりしている。
雨サークルも代々アルバムを置かせてもらっているようだった。綺麗な和傘の写真がサークルの歴史を物語っていた。
雨は写真に動きを与えてくれる。
傘を広げると、雨の線が、人物の周りから消える。
黒くて少し大きな傘をもった被写体はこっちを見て満面の笑みだ。
「和人先輩は絵になりますね。モデルみたい。」ぼそっと呟いた私の言葉に、
サークルの先輩達がハッとした表情で私に視線が集中した。
「なんで、かずとを知っているの。」
サークルの誰かが言った言葉が聞こえるのと同時に、
私の視線は、涙を流している香織先輩を見つけていた。
天気予報では、しばらく雨は振らないらしい。
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