心得7:見えぬものには気付けぬ

 これは、防衛歩行の心得を学んでいないか、実践に不安のある、あなたの家族の安全に関わる心得だ。


 時速60キロで走行する自動車の停止距離は44メートルである。

 しかし、これは[]事を前提にしている。

 例えば、5メートルまで接近しないと発見できないような迷彩服を着て、運転手が気付いて止まってくれる事を期待して道路に出る者は、ノーブレーキで衝突され、フロントガラスで頭を強打し、脳みそや目玉を撒き散らして死ぬ。相手が大型トラックだったら、のしイカみたいにタイヤかアスファルトにへばりついて、周囲の市民にトラウマを植え付け、清掃業者を悩ませる事になる。

 もちろん、葬式の棺桶はフタをしたまま、悪ければ空っぽだ。


 そういうわけで[街路樹や周囲の緑に溶けてしまう緑・茶系の色、コンクリートやアスファルトに溶けてしまうグレー系の色]は、ここまで防衛歩行の心得を読んできた用心深いあなたならともかく(だってあなたは、ここまで運転手に期待しない事を学んできたのだ)、何をするかわからない子供や、認知能力が衰え始めた高齢者には着せてはいけない。

 特に子供は体が小さいために、ただでさえ発見が遅れがちである。そのうえ迷彩色で隠すような事をすれば、さらに発見が困難になる。

 どうしても着たがるなら目立つ色の背負いカバンを持たせろと書きかけたが、絶対にその辺にカバンを放り出して飛び出すので、やっぱりダメだ。着せてはいけない。


 また、見えにくい服には、まだ問題がある。

 例えば、ある歩行者が黒い服を来て、強い雨が降る夜に、田畑の合間の道を歩いていたとしよう。そして、車にはねられ、田んぼの中に落ちて転がって、泥にまみれて全身真っ黒になってしまった。

 さて、運転手は強い雨が降る夜闇の中、負傷で身動きできず、田んぼの中で泥と同化してしまった歩行者を発見して救護できるだろうか?

 まったく不可能ではなくとも、確率は確実に下がっているだろう。

 発見されにくい服を着ていることは、事故の予防だけでなく、事故後の対応も困難にしてしまう。


付記

 絶対に注意を怠らず、安全地帯から安全地帯への移動を徹底できるのであれば、迷彩は、殺意を持ってハンドルを握っているような狂人や、ひったくりのような外敵からあなたを守ってくれる。

 しかし、ウサギや紛争地帯の住人ならともかく、さほど治安が悪化しているわけでもない2018年時点の日本国で、どちらの危険が大きいかといえば、迷彩によって生じる危険の方が大きいのではないかと私は思う。

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