第5話 目覚めの余波

「友達……?」

「俺と、か?」

 それぞれに同じことを言ったとは思えないくらいに戸惑って、お互い顔を見合わせる顕生あきおあおい


 互いに宿敵として浅からぬ因縁を抱えた者同士ということもあるが、何よりもお互い、自分からそういう関係を作る言葉を発したことがなかったのである。


 顕生の方は幼馴染の恋佳れんかがいつの間にか作っていた輪の中に巻き込まれる形でコミュニケーションをしていたし。

 葵はというと、自分から構っていかなくても相手方から自然とコミュニケーションをとってもらえて、その輪に入ればよかっただけだった。


 つまり、お互い初めて自分から友達を作ろうと思い立って行動したのである。


「えっと、念の為に理由みたいの訊いていいかな……? だって、ぼくは、その……、昔君のことを、」

「関係ねぇんだよな、あんまり」

 え、と問いたげに、伏せられた顔を上げる葵。


 顕生は、縋るように見つめてくるその顔に少しだけ気恥ずかしさを覚えて、少し早口になってまくしたてる。こういうことは早く言い切ってしまうに限る。

 じゃないと、たぶん気持ちが持たない。


「そういうのはお互い様?だし、何より俺はいま、ゼルファーディスじゃなくて瀬尾せお顕生だしさ。お前だって、今はただの空川そらかわだろ?」


 そこまで言って照れくさそうに顔を背けた顕生に、思わず吹き出す葵。

「ちょっ、笑うことねぇだろ!?」

「あ、ごめんね。何か、思ってたより話しやすくて、可愛い人だったから」

「かわ……っ、」

「あ、もっと赤くなった~✩」

 おかしげに、からかうように笑う葵。

 ったく、『あのとき』世界を救ってみせた勇者様ってのはこんなやつだったのか……!? 


 非難がましい気持ちで、思わず「遠い過去」を振り返りながら覗き見た葵の笑い方が、本当に安心したようなものに見えて。

 その様子に相手も自分と同じだったのだ、と親近感めいたものを覚えて。

「空川だって、想像よりずっと普通なやつじゃねぇか」

 思わず呟いていたその言葉は、もちろん葵の耳に入っていた。



「ったく……、えらいイジられた……」

「『でも、まぁ悪い気はしねぇかもな』。ふーん?」

「はっ!?」

 教室に帰る道中、思わず出た独り言に背後から聞こえてきた声に悪寒とともに振り返ると、そこにいたのは不自然なくらいの笑顔を貼り付かせている恋佳がいて。

「………………っ!!」

「勇者だとかそういうの以前に何か気に入らないんだけど」

「…………っ!?」

 顕生がよくわからない理由で恋佳から言葉責めをされて、一方の葵も「友達だと……!? 葵が自分で作った初めての、いやしかし……!」と複雑そうに頭を抱える夕輝ゆうきを見てうろたえている頃。


 ある場所で、不穏な会話が始まっていた。


「魔王さまが復活なされた」

「これで、またこの地に我らの勢力を広げられる……」

「ただの人間の下で頭ばかり下げる人生もここまでだ」

「給料だって上がる!」

「あ、そっちも苦労してるのか」

「そうなんよ~、ちょっとこのあと飲める?」

「おぉ、飲もう飲もう。愚痴……じゃなくて祝い酒だ、者共!」

「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」」」


 ………………。

 とにかく、顕生と葵の日常に、新たな影が迫ろうとしていた……。

 

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