全てがクソに見えるこんな世界で

トカゲ

こんなクソだらけの世の中なんて


 田中 栄太さんについてのレポート


 田中 栄太さんは精神病の患者として私の元を訪れたが、日常生活は問題なく送れるし会話も普通にできている。

 変な言動や行動も見られないので、彼の言葉を聞くまでは冷やかしとすら思ったほどだ。


 何でも彼は生きている生物の顔が全て排泄物に見えるらしい。

 例えば人間の場合だと頭の部分がウンコに見えるんだとか。

 彼の話を信じるのならば、それはかなりの地獄だと言えるだろう。


 そうなった原因は分からないが、中学生辺りからこの症状は出始めたらしい。


 彼は30歳を超えてずっとこのままではいけないと思い精神科の門を叩いたようなのだが、精神科医である私でもどうしたらそれが治るのか見当がつかなかった。


・・・


 世の中はみんなクソだ。


 少なくとも俺の目にはそう映っている。

 人の顔がウンコに見え始めてからどれだけの年月が流れただろうか。


 日を追うごとにそれは酷くなり、今では生きている生物だったら全てウンコに見えるようになった。


 これじゃ電車にも乗れやしない。もしかしたら潔癖症の人達もこんな感じなんだろうか? まぁ、俺にはそんな潔癖症の人達もウンコに見えてしまうのだけれど。


 こんなんじゃ結婚も出来やしない。唯一の救いは漫画やゲームといった創作物では生き物の顔がウンコにならない事だろうか。

 もう、俺は二次元と結婚するしかないのかもしれない。


 病院の勧めで田舎に療養しに来たが、それはどうやら正解だったようだ。

 人が少ないから気を使わなくて済むのが良い。前に住んでいた所では散歩すらできなかったから。


 誰もいない散歩道を歩いていると、遠くに人影が見えた。

 麦わら帽子を被った髪の長い女性だ。

 彼女は足が不自由なのか、車いすに乗っている。

 

 俺は思わず彼女を二度見してしまった。

 何故なら彼女の顔はウンコになっていなかったからだ。

 もしかしたら俺の病気が回復に向かっているのかもしれない。

 

 「良い天気ですね」

 「そうですね」


 俺は嬉しくなって思わず彼女に声を掛けてしまった。

 最近はあいさつなんてした事がなかったけどウンコ顔じゃない人間に会えたことが嬉しすぎたんだろう。

 俺と彼女はすぐに意気投合して仲良くなった。


 俺は彼女を家に招待した。彼女の車いすを押して家に向かう。

 途中で近所の人がこちらの方を見て驚いていたが、そんなのは気にしない。

 彼らの様なウンコ顔の奴等なんて放っておけばいいのだから。

 

・・・


 田中 栄太さんについてのレポート


 田中 栄太さんの現状について


 彼の病状はどうやら悪化しているようだ。

 現在の彼は犬のフンを人間と認識して一緒に暮らしている。

 このままではいずれ彼の中で人間と排泄物の立場が完全に入れ替わる日も近いだろう。

 

 なんとかしてやりたいが、私にはどうすることも出来ない。

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