―EXTRA STAGE― それぞれの明日

EXTRA1 火星圏の未来継ぐ者達



 ヒュビネット戦役より半月が経つ頃。

 覚醒の楽園アル・カンデで、大規模修繕が行われる禁忌の聖剣キャリバーンを後にし、Ωオメガフォース……二階級特進のクリュッフェル・バンハーロー少佐は、小惑星帯へと出向。

 数日後中央評議会にて、叩き上げ議長ハーネスンとの今後の協議を行っていた。


 さらにはそこへ、今回の大戦に於ける影の立役者でもある新生アンタレス・ニードルが招かれ、現在復興の只中にある火星評議会の代理としての会談を成していた。


「現在アレッサ連合率いる、独裁に加担した国家の大半を解体……若しくは降伏の元にマルス星王国の再興へ尽力させる方向としている。我が中央評議会からもSUDスペース・ユニオン・ディフェンダーを向かわせ、当面の支援と防衛に当たる腹積もりだ。」


「はい、カベラール議長閣下。これほどまでの支援には、我ら火星圏陣営も言葉にならぬ感謝を抱いている所……本当にありがとうございます。」


「今はその感謝の意も痛い所だ。あらゆる事態が絡み、対応が先送りになっていたなど言い訳にもならぬ。そんな火星圏の混乱を、今の今まで押し留めてくれていた君達にこそ、私は感謝したいのだ。星王国の誇りを胸に抱きし志士達よ。」


 準惑星セレスを一望できる評議会施設の一室で、互いに感謝を交わすは叩き上げ議長とサソリ隊の頭目となったアサシンシスターヨン

 当然そこには、彼女を初めとしたサソリ隊……ユーテリス・フォリジンにブリュンヒルデ・クォルファーとデイチェ・バローニが居並んでいた。


 謝意を苦笑で返した議長の想いを、首肯で確認しあったジェミニ・アンタレス。

 彼女達はその会談の後、火星圏へと帰還し復興支援へ尽力する手筈となっていた。


「議長閣下、彼女達が火星圏へ戻る頃には我らが英雄殿も駆け付ける算段。大改修を終え次第、月読つくよみ准将指揮のもとキャリバーンも向かうはずかと。」


「ああ、慌ただしい事だ。君達クロノセイバーにも、どれほど感謝をして良いか分からぬ所。時にバンハーロー少佐……すでに新しい部隊の指揮を任された旨は本当かな? それならばこの中央評議会が、あの部隊へ君達を推薦した甲斐もあると言うものだ。」


「お戯れを……我らは仕事を熟したまで。次に着く任務もその範疇に過ぎません。その上次は、あのエイワス・ヒュビネットが残した数々の記録調査が主任務。今まで以上に重責のかかる所……手放しでは喜べません。」


 新生サソリ隊アンタレス・ニードルの会談を待ち口を開いた鉄仮面少佐クリュッフェル

 かの大戦を終結させた、救世艦隊クロノセイバーに所属する軍部に民間の隊員は漏れなく、その史上稀に見る成果を讃えられ二階級特進を言い渡されていた。

 されどそれは、これより訪れる未来を守護し続けると言う過酷極まる任務を予見させるモノ。


 少佐のとの言葉は、部隊全員の実情を加味してのものでもあった。


 苦笑で答える鉄仮面少佐へ労りの視線を贈りつつ、その側に居並ぶ評議会が誇るエリート隊員全員へ、議長閣下よりの勅命が下される事となる。


「ではこの中央評議会を代表するエリート達よ……大戦終結後のこの宇宙人そらびと社会をより良いものとするため、今一度クロノセイバーでの任務とし、彼女達 新生アンタレス・ニードルのエスコートを任せる事とする。」


「バンハーロー少佐、ニキタブ准佐、天至ティエンジー准佐。新たな任務部隊配属前だ……この任務を一つの括りとして熟して見せよ。」


「「「イエス、サー!」」」


 凛々しき敬礼で、評議会を代表する男へ決意を返すエリート達。

 彼らは新生サソリ隊をエスコートした後、クロノセイバーの別任務部隊への配属が決定していた。

 特務調査防衛部隊……第二世代型となる新造艦〈カラドボルグ〉を駆り、先の大戦で漆黒が残した世界の真実を知る調査へと赴くのだ。


 そこには、Αアルファフォースに所属した女性を目指す者達に加えた、協力者達も同行する事となる。



 世界は確かに、かの聖者が本当に願った方向へと向い始めていたのだ。



》》》》



 木星圏の防衛軍本部、そして中央評議会で今後の対応が成される同時期。

 火星圏では完全に社会体制が崩壊した事で、早急な新政府発足が急がれていた。


 無政府状態を放置せぬため、臨時に仮政府代表に立つは、言わずと知れた元星王国の騎士団長にして火星宇宙軍を纏めていたミネルヴァ・マーシャル・グランディッタ将軍。

 側近であるアトライ・ハーキュリーと共に、混乱を極める火星圏宙域の支援復興指揮を取っていた。


「マルス星王国が滅びに瀕した際も、貴君らはよくこの社会に民を守り抜いてくれた。それに再び戻った部族の希望も、なかなかに勇ましい事ではないか。なあ?拳聖……フォックス・バーゼラ・アンヘルムよ。」


『その様なお褒め、言葉もありません。閣下のおっしゃる通り……かつてはあの者を、部族の面汚しと破門した手前――』


『それが舞い戻るや、かの皇子殿下直衛の守護拳士となって火星圏守護に尽力するなど……。全く世界とは、分からないものであります。』


 その紅蓮の将軍ミネルヴァが見やるモニターへ映るは、星王国が滅びを迎えたあとも友好の絆を守り続けた、王国の守りの要である部族……バーゼラを代表する拳聖 フォックスである。

 が、さしもの彼もまさか己が破門して叩き出した無法者が、かの皇子お付きとなって舞い戻るや、世界を救って見せた事実には驚愕以外なく――


 己の目が曇っていたのかと、ただただ苦笑を零すに留まっていた。


「ならばもはや、過去のいざこざなど忘れて星王国復興に力を貸せ、拳聖フォックス。守護の力となりそこへ戻った、守護拳士 アーガス・ファーマーと共にな。」


『ありがたきお言葉。それでは我らバーゼラは、マルス星王国復興へ全力を注ぎたいと。ではまた……。』


 未来を噛みしめる拳聖を見送る紅蓮の将軍は、ふぅと息を吐きソファーへと座す。

 そこから彼女も、時間を置かずに火星の地上・宇宙両圏に於ける総括政府 正式再建のため、協力を申し出てくれた救世艦隊クロノセイバー到着までに臨時措置へと向かわなければならなかった。


 戦後復興に於ける難題が山積みも、将軍は満面の笑みで強化窓の外……同胞が手を取り合って救い上げた火星圏の部族ソシャール群を見渡した。


「アトライ……今もこの宙域で、あの巨大小惑星の危機渦中で被害を被った者達のため、かのクロノセイバーが誇る救急救命部隊が活躍していると聞く。ならば我らもそれにならい、……どうだ。」


「はっ……それは願ってもない提案でございます。先の政府がその厄災到来を見過ごしたのは、ただの技術・認識不足などとは考えておりません。即ち、最初からそれに割く施策も準備も持ち合わせていなかった、政府要人の怠慢こそが要因と。ならば――」


「我らが設立する新しき政府は旧体制を反面教師とし、同じ轍を踏まぬ心意気で望むべきかと。火星の民あっての国家……もれなくその件を、クロノセイバーとの協議へ盛り込もうと考えております。」


 そうして口にするは、国家の代表として、決して軽んじてはならない案件の提示。

 耳にした屈強な側近アトライも、大いに合意と笑みを浮かべた。


 確かに火星圏を襲った厄災 宇宙災害コズミックハザードは、一時は民へ底しれぬ恐怖と絶望を与えた。

 だがその後、木星圏にまで及んだ自国の紛争拡大に心を痛めた事で、彼らはそれを二度と繰り返さないとの覚悟も宿す事になった。


 そんな紅蓮の将軍が未来を見定めようとする中。

 救世艦隊クロノセイバーより復興支援の元残留した部隊、救急救命の雄である雷電部隊セイバーグロウは休む事無く、復興支援に人命救助にと奔走していた。


「各員、このまま宙域の行方不明リストを確認後、直ちにソシャール残骸群へと向かい捜索に当たれ! 歴史上最悪のコズミックハザードは免れたが、ここでは理不尽な長き圧政で疲弊した民が、今も助けを待っている! 我らの戦場は、未だ消えずと心せよ!」


『『『『イエス、マム!!』』』』


 雷電部隊セイバーグロウ旗艦であるいかづち隊員を中心に、武装救命機マーリスを駆るクリシャ・ウォーロックは二階級特進による少佐への昇格が通告されていた。

 だが敢えて彼女はそれを保留とし、人命救助経験が不足である事から現場前線での活動を宣言していた。


 旗艦指令月読もそれを承諾し、その後まさかの救急救命部隊全員が同じ願いを申告しての今に至る。


「時はやはり、人の成長を促してくれるのだな。君の妹の活躍には、満ちる希望を感じさせられる。そう思わないか?シャーロット中尉。」


「ふ、ふん!まだまだだな! ……だが、私はどこかでそれを否定していた。むしろクリシャの巣立ちを否定したかったのかも知れん。経験が足りぬのは私の方だとつくづく痛感させられたわ。」


 救命隊旗艦艦橋で、雷の猛将俊英姉中尉シャムが苦笑を交わす。

 望まぬ厄災ではあったが、それを経て望むべき後進の成長を招来できた現在を素直に喜ぶ様に。


『しゅんえー、! こっちはだいたい、患者の治療も目星がついたのだ! 私はこれから、出張応急で出るのだ!』


『オプチャリスカ大尉であります。こちらのヴェールヌイで彼女を送り届けますので。』


『むっ……その呼び方はシャーロット中尉に失礼だな。私がいなづま側で残るケアに当たりますので、彼女の出向許可をいただけますか?』


「こちらも成長著しいな。了解した、前線のウォーロック隊長に連絡を回す。しばし待て。」


『りょーかいなのだ!!』


『お心遣い、感謝します。では行きましょう、モアチャイ看護師。』


 さらに響くは熱意滾る小な看護師と、それを支えるマシンアーム治療を物とした名医の声。

 ピチカ・モアチャイ見習い看護師とアレット・リヒテン執刀医である。


 彼女らは医療の未来への大きな一歩を踏み出しており、中でも希望の看護師ピチカの成長速度は群を抜く。

 現場での緊急治療さえも学び取らんとする姿は、輝かしい事この上なかった。


 すでに雷電隊一員となって久しいオプチャリスカの駆る船へ、意気揚々と移って行く医療の星達。

 その感慨深き光景を見やる雷の猛将と姉中尉は首肯しあった。

 彼らにとっての望む未来は、確かにそこへ存在していたから。


「エンセランゼ大尉、貴官が救った希望は今も、多くの命を救い続けているぞ? 誇らしいな……。そして――」


「海の武士道……我が祖先よ、その言葉をこれからもこの宇宙人そらびと社会へと広めさせて頂く。あまねく力無き弱者へ敵味方関わらず、その救いの手を伸ばすと誓おう。」


 雷の猛将の視線の先には、遥かなる蒼き地球が小さく輝く。

 そこで命を懸けて己が使命を全うした祖先へ報いる様に――



 救急救命の志士達は、後に名を轟かせる宇宙自衛小隊コスモ・セルフ・ディフェンダーへの道を歩み始めていた。

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