最終話 〜託された世界〜
ヒュビネット戦役終結後、
皇王国のある天王星圏での社会安定に対する懸念を初め、各宙域のソシャール生活区画ではあらゆる戦後支援と復興のため、ひっきりなしに航宙艦船が行き来する。
そんな中俺達は、未だ部隊に所属していた手前あらゆる任務へと駆り出され、すでに半月が過ぎ去っていた。
『
通信から響く声は
実のところ部隊所属が継続中の俺は、一時的に軍部から学業へ復帰できる様にとの配慮を受けての今。
けれどそうもいかない実情を鑑み、軍が請け負うアル・カンデ宙域施設の修繕事業に参加していたんだ。
「それはとってもありがたい配慮なんすけど、こんな宙域の状況を放ってはおけないんで。……っと、良太そこ右。重機アームの操縦はもう少し慎重に。」
『うっせ!分かってるよ! ……ちくしょう、とんだスパルタ講師だぜ。けど、やりがいもあるけどな!』
そうして現在、なんと俺はお袋推薦の元に軍部の宇宙建造物修繕課なる部署へ、まさかの職場体験として訪れた友人、あの良太の重機フレーム体験運用講師に選ばれての今。
苦笑しか浮かばないけれど、俺のライバルが同じ学友の中にもいた事実に改めて気が付かされた。
『良太、頑張れよーー!』
『ちょっとケンヤ先輩、通信に勝手に割り込まないで!? 良ちゃん先輩、その区画修繕終了後に一度、別区画修繕用のアーム交換に移って下さい。』
『すご……。ゆず、通信管制が様になってる。』
『も,もう!
さらにはなんと、良太だけではないケンヤにゆずちゃん……そして
ほんとうに俺達は、どこまで行っても友人だったんだなと思う次第で。
重機フレーム扱いのためには、有資格且つ数年以上経験を持つパイロット同乗が必須条件な訳で、俺がなぜか良太の同乗講師をやる羽目に。
それを遠方で見やるは、もはや単独でライジングサン運用を行う事を可能とした
彼女は現時刻から始まる軌道共鳴に合わせた、ライジングサンを活用した超重力安定運用試験の只中だった。
『
『ええ、心得ているわ浅川さん。では――』
«
その超重力安定運用とは、フォース・レイアーの持つ霊力覚醒と禁忌と呼ばれた機体の機能を併用し、木星圏でも極めて危険の伴う三衛星軌道共鳴時の、航宙施設安全航行試験運用を指していた。
果てはその試験結果を研究し、軌道共鳴時の潮汐力減退化による安全航行実現を盛り込んだ……言い換えれば、ライジングサンのシステム平和利用を最終目的とした一大構想――
それを担う中心に、大戦の功績により二階級特進した
ヒュビネット戦役と銘打たれたあの大戦時、
そういった経緯で、彼女の力はこの戦後の社会安定のために使われる事となった。
そう……フォース・レイアーの力は、それこそが本来の用いられ方でもあるんだ。
格闘技による超常の戦場で、俺は主役を譲られた。
だからこそ、これからの社会平和の場では俺が彼女へ主役を譲る。
だって彼女は、あの地球日本国で国民を守る象徴とされた、三神守護宗家は一家を率いていた人なんだから。
「
『おうよ! って、わわわ……機動スラスターってどこを――うおわっ!?』
「バカ、レバーそっちじゃねぇ……ぎゃーーー!?」
『ちゃんとなさいな、講師殿……はぁ。』
愛しき人となった彼女の嘆息と、ライバル友人の操作ミスに翻弄されながら、非常識も苦笑を堪えきれない学友に見守られながら俺は進む。
これから訪れる、俺達で勝ち取った新しい未来を変えて行くために――
》》》》
正式にヒュビネット戦役と改められた大戦。
それは
時にして千年来、これほど大規模な戦乱が存在していなかったオレ達の社会は、勝利を喜べる様な状況ではなかった。
戦役より半月が経過した社会は、今も復興に多大な時間を要し、これまで訪れた
そんな経緯もあり、オレは
そこからほどなく、現在修繕最中の大格納庫施設で見送りを受けるに至っていた。
「この大戦を終結させた立役者にすぐにでも、勲章に祝いの場を与えたい所での急な任務……君には本当に頭があがらないな。二階級特進のクオン・サイガ大佐。」
「いえ、お気遣いは光栄の至り。ですがフキアヘズ閣下、これほどの大戦が齎した影響は全惑星圏社会へ爪痕を残しており……オレも自分の功績にあぐらをかいている場合ではないとの判断。それは
大格納庫へわざわざ足を運んで下さったフキアヘズ総大将閣下。
そこへ居並ぶは
さらにその護衛として、
そして――
「クオン……ボクは君の調律騎士への推薦報告のため、一旦ムーラ・カナ本国に戻らなければいけない。その間、皇子殿下の護衛を任せられるかい?」
「
なんとオレを調律騎士へ正式昇格させるべく、この盟友カツシが本国へ飛ぶとの事。
恐らくこの
これは殿下とその直属騎士であるカツシの働きかけがあっても、極めて異例の処置でもあった。
けれどそれはオレにとって、あのヒュビネットとの誓いを果たすためにはうってつけでもある。
それを成すためにも、お
「サイガ大佐〜〜お時間です〜〜! 殿下も高速艇の準備、完了なのですよ〜〜! いつでも出られるのです〜〜!」
「おお、シバ! なればクオンもさっさと準備せい! ワシの道中行脚は、
視線でしばしの別れを惜しむオレ達を他所に、今かと殿下が急かして来るには理由がある。
あらゆる事態への対処には、事前の下調べと事態悪化を防ぐ速度が必要であると、宙域を飛び回って来た殿下よりお聞きした。
それを惑星間で成すためには、刹那の時間のロスも惜しい故の急く様な行動であると。
同時に、それほどまでに国家や民を慈しむ皇子殿下の目を欺いて来たヒュビネット大尉は、とてつもな実力を持った革命者と言えた。
「クオン……カツシ。ここからはあなた達の時代おす。ジーナも、クオンをしっかり支えておくれやす。」
急かされたまま機体へ向き直ろうとしたオレ達へ、かかる声は
あの大戦で、アル・カンデの秘匿された禁忌の力を開放したここは、もはや中立区を
彼女にとっての試練が降りかかろうと言う時に、オレ達はその場で支える事ができない。
それでも彼女は気丈に笑顔で送り出してくれる。
彼女の言う通り、ここからの時代はオレ達に託されたんだ。
あの悲しき宿業に翻弄された、漆黒の革命者に。
天才エースパイロットにして、ザガー・カルツを組織し率いた史上最強のライバル……エイワス・ヒュビネットに。
「はい!
彼女のこれからをすでに悟る我がパートナーも、ここよりさらなる苦難に直面する。
それでも上げた声は高らかで、そして気概に満ち溢れたものだった。
ジーナ・メレーデン……引き籠もりのオレを自虐の牢獄から救い出してくれた最愛の少女。
木星圏から飛び出て火星圏……さらには地球圏にまで及ぶ旅路の後に永遠のパートナーとして契りを結ぶ予定である彼女は、もうオレの掛け替えのない存在だ。
「分かりました。
オレ達の出立後、突貫修復が終わり次第キャリバーンも火星圏へと向かう算段。
そこで、オレの
あとには引けないこの戦い……因果の本流に飲まれたオレは、程なく
カタパルトからそのまま飛び出した本機が、
そのモニターの端で、今も修繕の続く小ソシャール群を視界に止めた。
そこではライジングサンを駆る
今はその状況を安心して見送る事ができる。
なぜならそこには、オレの背を守る事の叶う勇者がいるから。
もう後ろを気にする事なく、前を向いて突き進む事ができるから。
「行って来るよ、リリス。あんたにもいろいろ心配かけたな。」
勇者達を見やる思考へ、心が流れ込んで来た。
観測者のリリス……リヴァハ・ロードレス・シャンティアーの心だ。
ああ、オレは今あんたが望む未来への一歩を踏み出す事ができたよ。
だから行く――
止めどない因果渦巻く、この人類社会と言う強大な敵へ挑むために。
―― 天業救世 クロノセイバー 〜完〜 ――
EXTRA STAGE 〜それぞれの明日〜 へ続く――
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