第286話 堕ちた聖者…恒星に散る
蒼き激突、ブルーライトニング・スピリットR。
漆黒の衝突、デスクロウズ・ナイアスケイド。
宙域最後の死闘の場が、先の恒星と虚無の深淵とのぶつかり合いの如く輝いていた。
爆散し、ただの巨大なソシャール残骸と化していた
『……ウ、ガガ、ワレハ……オロチ……ワレ――』
その声に気付く者はいない。
その意識が滅しきれていないのに気付いた者は……誰もいない。
否――
それにただ一人気付いていた者……そうなる事を想定していた男だけが――いた――
》》》》
その日は、木星の主衛星の軌道共鳴時間も考慮されたタイミングであり、次の重力干渉まではまだ余裕のある中。
全ては計算され尽くした、誰も経験した事のない長時間に及ぶ消耗戦と言えた。
しかしその中にあって、今も激しい激闘止まぬ宙域はただ一つ……英雄と漆黒の戦いの激しさは群を抜いていた。
「我らは手出しできぬ。否、どうやってあの、禁忌の力が齎す超常の戦いへ水を指す事が叶おうか。」
「殿下に賛同。今は見守る他にないと、ワンビアも思う。」
終わらぬ激突を見定めるは、この戦いの終止符を打つため火星圏より最大規模の援軍を呼び寄せた皇子……
だが彼ですら、視界を占拠する人類史上稀に見る死闘には、語る言葉を選ぶしか無かった。
その
『このような戦いなど望んではおらん……。クオンと同じぐらいに、ヒュビネットも
『
高次意識領域で、
彼女の
それを受けて激しさが最高へと達する両雄の戦い。
双方が、翼を、腕部に脚部を破損させ、機体各所へ損傷を刻みながらも互いの正義を叩き付ける。
果たしてその正義が正しいか否か、誰も出せない答えを手にするために激突を繰り返した。
人類の未来繋ぐため、英雄が――
人類の闇を蔓延らせぬため、漆黒が――
目指す人類安寧のため、真逆のベクトルに於ける義を以って、宙域を激しく照らす激突を繰り出していた。
「……っ、ジーナ! これ以上は機体が持たない! 最後は、君のエクセルテグとのドッキング状態で奴を穿つ! タイミングを合わせるんだ!」
『はい、了解です! 見せてやりましょう……私達が目指す戦いに、彼の行いは全く不要であると! それを背負うために私達がいるのだと!』
長引く戦いも
それを早期に決せねば、すぐにでも訪れる軌道共鳴で、またしても戦況が激変する恐れがあった。
故に今の戦いが、心ある勇士達の勝利で終わらせねばならぬと、
二人の蒼き因果が、禁忌と呼ばれた巨人へ魂を吹き込む。
再びスーパーフレーム形態へとドッキングを成した、
今とばかりに、蒼き巨人もそのウチに宿す
かつてのガソリンエンジンが辿った劇的な復活劇の様に。
それが生まれる以前に被る事となった、悲しき戦禍の二の舞いを辿らせぬ様に。
「ブルーライトニング・スピリットR、シーケンシャル・ツイントランスファー最大可動!
「吼えろ
全ての生命の願いと想い乗せ、
》》》》
オレ達の全てを乗せた
けど、確かに感じた奴の覚醒……それもフォース・レイアーと真逆の深淵の呼び声は、黒き化身へさらなる力を与え
奴の対極覚醒により、オレ達の激突は人知を凌駕したものへ至ってしまった。
それでも敗北など許されない。
オレ達が奴を超える事ができなければ、きっと数多の民の行く末が闇に閉ざされてしまうから。
やっと手にした、力無き民を導くための道標を見失ってしまうから――
「オレ達の力を……スピリットRとこれまで築いた、未来を切り開く力を! 喰らうがいい……エイワス・ヒュビネットーーーーーーっっ!!!」
そこへジーナが完全制御する、ク・ホリンを中心にしたヴァルキリー・ジャベリンの三位一体が齎す突撃と、本機とエクセルテグ両方から襲う曲射迎撃砲群 ヘッジホッグが舞う。
あらゆる砲撃に自立機動兵装の攻撃へ、二対のガンエッジ連射からのビームエッジによる斬撃と、セイバーガーヴの双発式クインテシオンブラスターを刹那の時も置かずに叩き付けて行く。
恐らくそれを凌ぎきれるパイロットに機体など、この
眼前で襲い来る全ての攻撃へ対応する天才でさえ、次第にクラウ・ソラスの端末を撃ち落とされ、機体各所へ損傷を刻み――
腕をもがれ、脚部スラスターを破損させ、遂にはメインカメラが備わるであろう縦二連の六連アイカメラの大半が破壊された。
人生でも出会った事のない、史上最強の存在。
決してオレ一人では太刀打ちできなかった、天才エースパイロット。
きっと出会う形さえ違っていれば同じ道を歩めたかも知れない、民の安寧を願う真の聖者――
オレは……エイワス・ヒュビネットと言う存在を打倒して始めて、それを思い知る事になったんだ。
》》》》
機体へ無数の警告アラートを響かせ滞空する
そこへガンエッジを突き付ける
そして双方のコックピットでは、覚悟の勝利をもぎ取った
「もういい、やめてくれヒュビネット! あんたとの戦いは、これ以上何も生まない! 大人しく投降を――」
『なんでも不殺で事がすむと思うな、英雄とやらよ。世界へ銃を向けた時点で、俺の覚悟は決まっている。それが革命と言うものだ。』
戦火へ飛び込みながら、敵の命を奪わぬ不殺に終止する英雄を一蹴する漆黒はすでに、眼前の
否――
残されていたのは、最後の大仕事を成すための余力であった。
それは宙域に存在する、全ての救世の志士達にとっての勝利を意味する。
だが、全て終結と思われた事態が一つのアラートで一変する。
そこへ混じり込んだ音声で、英雄は愚か全ての宙域で戦う志士達が最悪の結末を思考へ過ぎらせる事となったのだ。
『――ザッ、ザー……――オロチ、オロチ……ワレハ、オロチ! セイメイ……スベテ、ホロベ……!!』
「……ま、て! まだMWAが破壊しきれていないのか!? あの文明殲滅砲は生きて――」
戦慄が凍る刃となって、英雄の首筋を撫で上げた。
部隊のあらゆる戦力はすでに訪れた勝利を飲み込む寸前、その事態へ対応できる者などどこにも存在しなかった。
絶対絶命、恐るべき絶望が
ソシャール外郭に司令塔施設はすでに崩壊したものの、文明殲滅兵装砲塔のみが自立起動を開始していたのだ。
しかしそれは、もはや機械設備であった名残さえ存在しない、有機的な生命の様な物体の浸蝕を受け進軍する。
その姿は正しく、人類史上最悪の巨大霊災〈オロチ〉そのものだった。
「……想定は、していた。だが、予想以上に浸蝕が早かったか。どうだ……これはお前達の融和政策など意に介さぬ、愚物が齎した結果だ。これが人類の業……これこそが、我ら同胞が生み出した生命全てを滅し尽くす厄災の本性だ。」
「ここで
『……何を言っている!? ヒュビネット、あんたは一体……!?』
そんなオロチの顕現さえも予見していた漆黒が、朦朧とする意識の中で口にする。
英雄少佐も耳を疑う、彼が描いた壮大な計画の最後を締め括る解を。
――二人の……己を超えた後進を目の前にして――
「クロノセイバー前線指揮官、クオン・サイガ少佐。そして、
『……なに、を……!?』
『……ヒ、ヒュビネット……大尉!?』
「だからこそ、それを導く存在が必要で……同時にそれを闇に葬る犠牲もまた、必須であるという事を覚えておけ。」
驚愕の二人をモニター越しで見やる漆黒は、これほどの戦禍を引き起こした者とは思えぬほどの、深き慈愛と覚悟の微笑みを湛え――
「分かったな、俺を超えし英雄達。未来も定まらぬ世界だが……あとは任せた……。」
響く声音は、全てを二人へ理解させるには十分であった。
彼が何をしてこの戦いを始めたか、その全容は彼の放った最後の言葉へと託されていた。
「……そん、な……!? あなたは……ヒュビネット大尉は……!」
「こんな馬鹿な話があるか……! オレが……オレが一番救わなければならなかったのは……――」
二つの後悔を置き去る様に、
巨大なる霊災へ、本当の意味での引導を渡すために。
漆黒と呼ばれた聖者は、それを最後に巨大霊災へと舞い飛んだのだ。
》》》》
八年の時を超えた壮大な結末は、彼の予想を遥かに超える事態へと進み往く。
それでも、漆黒の嘲笑と呼ばれた天才エースパイロットは後悔のかけらも存在してはいなかった。
『オロチ……ワレハ、オロチーーーーッッ!!』
「見苦しいぞ、フランツィースカ。貴様は今から俺と、そこに宿した数多の生命の闇と共に、恒星のど真ん中へと旅立つんだ。膨大な人の業を焼き尽くすにはお
デスクロウズ・ナイアスケイドの機関出力を無制限に引き上げる、虚無へ導く力は彼が放つ命の咆哮。
それを受けた
「クロノ・サーフィング開始……最後まで付き合えよ?デスクロウズ。そこにグラディウスシリーズの名を冠するならな。」
漆黒の言葉へ答える機体は、悲しくも……しかし彼と最後を共にすると輝きで応答した。
「……さあ、その人の業もろともあの太陽の業火で焼き尽くされようか! あとは全てあいつらに任せてな! すまないな……ラヴェニカ先生に
「生きてお前は、必ず全てを世界へ発信し続けろ……! これが
直後――
クロノ・サーフィングゲート発現と共に、破壊の閃条を放つ寸前の
そこから程なく、太陽系中心に存在する恒星が僅かに明るみを帯び、やがて
それが……ヒュビネット戦役終結を告げる最後の光となったのだ。
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