第284話 虚無へ誘う者〈ナイアス・トラスター〉
崩壊を始めた
「アーガス・ファーマー、
『承知。今しがた確認した。達者で……。』
「へっ……スカしやがる。ならば俺様は、このまま
巨大なる敵を貫き、黄金の輝き撒いて
「マサカー・ボーエッグ……あんたは俺の人生で戦った中でも最強の存在だった。俺達人類のためにその身を粉にした姿……忘れないよ。」
『……ケッ……それが口にできるならば上等。テメェらの持つカクトウダマシイってのか?は、なかなかに
『俺様達
史上最強とも言える大自然の脅威を見送る
己が今、大自然の
ほどなく戦士への別れと啓示を残した
一方――
狂気の拳から、人類の希望見たりとの言葉を受け取った
『
「それはありがたい事だね、偉大なる神格と同列たる存在。けれどそれは、ボクが出張るまでもなく……ここに集った心ある同志が齎したモノだよ。ボク一人で招来できたなど、驕り高ぶる
『うむ、その意気や良し。さすればワレの役目はここで――』
憤怒の権化と化していた存在が移り変わる様に、菩薩の如き慈愛乗せて語る人類への賛美を、守るべき故郷の大地を背にして受け取る調律騎士。
そこで仏門の化身が全てを終わらせにかかった時、敢えてのお言葉を返す事にした。
「まだ最後の戦いが残ってるけれど、それは見ていく必要はないのかい?仏門の存在よ。」
『……宿命の戦い、か。残念だが、あの堕ちた聖者の求める結末は勝利ではない。それ以上の覚悟を宿して、漆黒はこの戦いへ挑んでいる。そう――』
『宇宙と重なりし者の定めと引き合う様に、奴もまた宇宙の深淵に選ばれたのだ。〈
「……っ!? そうか……彼はその定めに従い、この戦いを。けれどそれはあまりにも……。」
その返しへ、予想だにしない回答が混ぜられ調律騎士も絶句する。
仏門の化身から放たれた言葉は、おおよそ普通の民草に理解できる代物ではなかった。
されど騎士は理解した……せざるを得なかった。
なぜなら彼はすでに、
その覚醒の時より、
故に……仏門の化身の言葉にあった、
やがて戦場の砲火が、
全ての結末となる最後の戦いが、蒼と漆黒の嵐を巻き起こす事となる。
》》》》
先の戦いで猛威を振るったクラウ・ソラスとか言う、攻撃を事前に察するのさえ困難な遠隔機動兵装に続き、
その形振り構わない戦いは、正しく狂気そのものだった。
「ジーナ! 奴の機体は単騎だが、あのクラウ・ソラスの攻撃を回避するのだけでも消耗する! ならこちらは、エクセルテグとの合体分離を駆使して追い込むぞっ!」
『了解です、クオンさん! こちらでも、クラウ・ソラス攻撃パターンに存在するラグをデータ上で計測した所です! これを参考にして下さい!』
「……っ! いいぞ、ジーナ! こんな短期間でよくそれを見つけられた! ならばこのまま押し通る!!」
『はいっ!』
けれどオレが得たのは、それ以上に有利を導くもの。
なんの事はない……狂気そのものである攻撃システムからの隙を探り出す、有能にして最高のパートナーがいる。
今の
こちらの指示へ素早く反応するジーナが、スーパーフレーム形態を成す
こちら側でもナイト・ガーヴシステム展開にて、レビン・ヘッジホッグの曲射ビームの線条を全弾撒き散らす。
中隊規模となるヴァルキリー・ジャベリンに加えたセイバーガーヴからも撒かれる砲火と、ヘッジホッグが形成する針の
それでもその
「これだけの操縦技術と、部隊を選りすぐる組織力……こんなにもあんたは恵まれた力を有するのに! なぜそれを力無き弱者へ向けない、エイワス・ヒュビネット!」
煽り口撃など、漆黒の前には何の役にも立たないと理解してる。
それでも……かつては見えなかった、奴の言動に見え隠れする事実の追求が必須と感じていた。
全ての始まりとなった、ザガー・カルツによるアル・カンデ襲撃の日に誰もが想定した奴の目的と、あの時……オレが落とされた日に聞いた耳を疑う憤怒の真意を。
『余裕だな英雄とやらよ! そんな事を聞いて何になる! 相手を理解して、仲良く停戦への運びか!? お前はそんな事で、この太陽系全土が和平の果て、安寧へと回帰するでも思っているのか!? 思い上がるなよ……人と言う生物を何も知らぬ若輩がっ!!』
「オレが何を知っていると、
互いの十字砲火を寸でで避けつつ、幾度の接敵の中で、国際チャンネルを通じてオレの意思を叩き付ける。
そもそもその回線を受け入れていると言う事は、問答無用を貫くつもりなどないのだろう。
それでも……奴の哲学めいた言葉の羅列は、終始オレの問いと噛み合わない状況が続いた。
エイワス・ヒュビネットと言う男がテロリストでないならば、会話による争いの中断もありえるだろう……しかし奴は、テロリズムからさえも程遠い意思で突き動かされていたんだ。
『世界を知らぬ英雄殿へ教えてやろう! かの地球人類はすでに、己の行動に責任を持つ理知など捨てている! 脳髄が叫ぶ獣の衝動に従い、見えぬ未来を捨て目先の現状へ甘んじる――』
『そしていつしか、成すべき事も忘却して欲望のままに生きるのが奴らよ! その成れの果てが同族同士の、醜悪な血で血を洗う争いだ! 規模の程度など関係ない……
「……ヒュビネット、あんたはっ……!」
それはあまりにも切実にして現実的。
まるで全てを体験してきたかの様な、魂の悲鳴にも似た咆哮。
それこそオレ達が何度も遭遇して来た……生きようとする人類が、理不尽に襲い来る現実へ立ち向かう熾烈なる足掻きの様な。
聴覚へと突き刺さる叫びで、心へ引っかかっていた疑念が少しづつ解きほぐされて行く。
エイワス・ヒュビネット……天才エース・パイロットとの呼び声高き存在が、なぜ世界へ敵対してまで危機的戦禍を引き寄せたのか。
「ヒュビネット……まさかあんたは、それを世界へ――」
幾度と撃ち合い、ビーム粒子の刃により
その中で自身が辿り着いた解を、奴へと問い質そうとした時――
宙域を揺るがす巨大なる高次霊振動を感知した。
『ク、クオンさん……この宙域へ強力な
「マイナスの
同時に響くジーナの声は、直後の事態を予見するに十分な情報となる。
そう……そのマイナスに振り切る力の震源は眼の前、漆黒の搭乗する機体だった。
«我、虚無へ誘う者! 超えて征け、正なる道行く者達よっ!»
その時、オレとジーナの思考へ高次元宇宙から叩き付けられた、
紛う事なきその力は、オレ達フォース・レイアーが覚醒した際に放つ力と同質であり、しかしエネルギーが反転した対極を示すモノだったから。
それを放ちし者が、漆黒の嘲笑 エイワス・ヒュビネットであったから……。
『茶番は終わりだ、英雄とやら! 禁忌の力振るいし者の責務……この俺のデスクロウズ・ナイアスケイドへと叩き付けて見せろっ!!』
そこよりオレ達の戦いは、人類史上でも稀に見る激戦へ変貌を遂げる事となる。
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