第281話 オロチを穿つ者達
『各宙域の同胞よ! このふざけた超火力砲の射線から退避せよ! 機関最大出力、なんとしても逃げ延びるんじゃ!!』
すでに
自陣の勢力さえも巻き込む破壊の一撃は、まさに自己で無限に戦力を建造できる殲滅兵装ならではの作戦。
そこに巻き込まれる者にとっては、正気の沙汰ではない事態である。
直前の破天荒皇子の声は、友軍全てへと運ばれるが、時間にしてほんの僅かのタイミングロスはその全員を救うには至らなかった。
そして放たれる閃条は、これまで誰も見た事のないほどに強大な武力。
射線から逸れている
「「「「み、
それをモニターで確認した、各宙域の雄達が同時に悲痛な声を上げる。
しかしそれも杞憂に終わる光景が、各機体の映像へ同時に映り込んだ。
巨大な光翼が渦を巻き、楽園宙域一帯を包んだと思えば、それが衛星ほどに拡大されたリングと半物質化した反射膜を形成。
それが鏡の如く輝くや、超エネルギーの塊を掻き散らす様にあらゆる方向へと弾き飛ばしていたのだ。
「ただのエネルギー放射であれば、これでも少し危ない所おしたが……そこへオロチの力が混ざり込んだのは幸いおす。さすればこの超広域防御障壁は、無制限に力を発揮しますよって――」
「地球は日本国に於ける三神守護宗家の誇る、対オロチ戦・絶対防御の御業〈
民を導く
「行きなはれ、クロノセイバー! あなた方はウチにとっての草薙の剣おす! その力……ヤマトの力持ちて、命の深淵が撒く厄災を打ち払う時おすえ!」
三種の神器の力と、ヤマトの名を冠する融合艦が邂逅する。
かつて日本神話の伝承において、ヤマタノオロチを討伐せしめたのは〈ヤマトタケル〉――
それが奮いし剣の名こそが、草薙の剣と呼び伝わった。
楽園管理者の声援を耳にした
「艦首のミストルザンバー発生機構をパージしろ! それをヤマトへ向け射出だ! 工藤艦長っ!」
『皆まで言わずとも分かっております! このヤマトを、
即座に応答した
そして
それは差し詰め、かのヤマタノオロチ討伐へ草薙の剣携え向かったヤマトタケルの如し。
今、ヤマトの名を冠する合体融合艦が、ミストルフィールドを半物質化させたミストルザンバー備えてオロチ宿る巨大質量へと突撃を敢行する。
『ウォーロック特務大尉、この隊の隊長は君だ! あの巨大なる邪悪を討つ合図は君に委ねる! ヤマトはいつでもいいぞっ!!』
「了解しました、工藤艦長! 姉様……クリシャ・ウォーロック、行きます!」
多くの仲間の声を受け、姉へと凛々しき敬礼を送る妹が吠える。
人類へ仇なす巨大霊災を打ち倒すために。
「ヤマトはこのまま突撃! 武装機隊と各機動兵装でそれを護衛する! 人類の宿敵を穿つぞっ!!」
ヤマトタケル艦隊
》》》》
人類へ仇なす厄災へと変貌を遂げた
少なくとも、生命によって育まれ残る記録でも、人類の生んだ殺戮兵器による凄惨な歴史と、負の巨大霊災が生む悲劇は紛うこ事なき別々の時代線での厄災である。
それが同じ時代で重なり合うこと事態が異常極まるのだ。
詰まる所、人類の歴史が現時点で最悪を極めている事実に他ならなかった。
「敵はオロチに浸蝕されたマーズ・ウォー・アポカリプス! 全軍、突撃ーーーーっっ!!」
その史上最悪の状況へ、居合わせた彼らはまさに奇跡。
巨大霊災と殺戮兵器を同時に相手取る力を与えられた彼らこそ、この時代に於ける
その名は、天の業と人類の業を共に穿つ天業救世の志士。
――クロノセイバー――
ソシャール規模の全高・全幅に加えた巨大質量を持ち、双角の如く伸びる武装ステーションは、その至る所へ全方位対空砲を有する。
そして縦長に伸びた中央へ、星を裂く超々火力火線砲が迫り出し、そこから天頂へ向けて伸びる艦橋とも言えるそこへ総監を行う司令塔が確認できる。
言うなれば、その嵐の様な対空砲火を超えねば司令塔へ届かぬ地獄の様な戦場。
だが……ミストルザンバーを草薙の剣に
「キャリバーンのミストルフィールドを全開放出! 防衛範囲をヤマトまで伸ばせ! ダメージコントロールもままならんが、この機を逃せば我ら
「了解です! キャリバーン、ミストルフィールドをヤマト含めた宙域へ展開! 機関出力最大!」
討滅の剣構えた
そして追従する両支援隊と協力者達も、追撃に転じる無人自立兵装艦隊を薙ぎ払っていた。
しかしその追撃も、より
『ホロベ、ジンルイ……レンゴクヘ、オチロ。』
もはや深淵の傀儡となる
理知すら存在せぬ破壊の権化の進軍は、すでに意思を持って動く宇宙災害へと変貌を遂げていたのだ。
弾幕、弾幕……留まる所を知らぬ弾幕の大波が救世の志士達へと叩き付けられ、次第に志士達の駆るあらゆる機体へと傷を刻んで行く。
それでも――
『ヴェールヌイ、及びデカブリスト各部で損壊多数! これ以上ダメージを受ければ、融合するための総エネルギー供給に支障がでます!』
「持たせろ、オプチャリスカ! あと少し……あと少しで敵の中枢本丸だ! ヤマト……重力アンカーの準備と同時にサイドスラスターへ出力を回せ! 秋津島流戦闘航宙術で叩き切る!」
『あ、アイ・サーっ!!』
視界には、二射目を放つべくエネルギー充填へと移る
『工藤艦長、これよりミストルフィールド制御を部分的にヤマトへ残して切り離す! 頼んだぞ……我らが同胞!』
「心得ました、
降り注ぐ悪意など物の数ではないと、両艦の艦長が咆哮を上げた。
そして救世の志士達が織りなす、ヤマトタケル艦隊が殲滅兵装の天頂部へ向け舵を取る。
対空砲火も、行かせぬとばかりに天頂への一斉射。
それを各機動兵装達が盾となり、融合艦の進む道を切り開いて行く。
『やらせはせん! エリートの名にかけて!!』
『クリシャ、こっちは……任せなさいっ!!』
『はい! 行きましょう、工藤艦長!ヤマトの一撃を叩き込むために!!』
人類を脅かす巨大霊災眼前へ、救世の意思が終結を見た。
集う心へ、力無き弱者の盾にならんとする、武士に騎士の心が猛々しく輝いていた。
『ジンルイ……ジンルイ……ホロ――』
「滅ぶのは貴様だ! 私達は、業を負うからこそ今滅びる訳にはいかないんだ! ヤマトの邪魔はさせないっ!!」
それこそ、火星圏が誇るエリート家の血統が目覚めたかの獅子奮迅で。
そして全ての準備は整った。
勝機見たりと、
奇しくもそれは、禁忌の聖剣が怪鳥を穿った時と同じ虎の子の戦闘航宙術であった。
「アップトリム取れ! 取舵いっぱいと同時に、重力アンカーを奴の艦橋区画
「全艦、対衝撃防御! ミストルザンバーの攻撃軌道を艦橋区画へ合わせて進め!!」
雷の猛将の咆哮と共に、
そこを支点とし、大きく引っ張られた艦体が上げたトリムと全開にしたサイドスラスターの勢いを乗せ、大きく弧を描いた振り子の如く振り回される。
無重力下で慣性の法則を発生させる手段にて、融合艦が一気に司令部のある艦橋区画目掛けて舞い飛んだ。
さらに艦体が横を向くか否かで全主砲を目標へと定め――
巨大霊災であり、文明を滅ぼす殺戮兵装である悪意を捉えたのだ。
「ヤマト、主砲一斉射! 我ら人類の放つ討滅の一撃を、まとめて持って行け巨大霊災よっ!!」
爆轟から続けざま、刹那に艦体が真横のまま艦橋区画後方を走り抜け……艦首の草薙の剣と化したそれが悪意の権化の一刀両断に成功した。
遂に――
艦橋喪失と主砲斉射の誘爆により、遂に巨大なる悪意の権化が無数の爆轟に包まれる事となったのだ。
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