第278話 復讐を超える絆の戦い
そこからが、
まずは、共にあったエリートとの切磋琢磨で
眼前で未だ復讐の因果から逃れられぬ、地上は元宗家崩れの
「メンフィス! この女は日本国からわざわざ、ウチのお姉さまへ理不尽な復讐を成しに来たサイコパスストーカーよ! だから遠慮なんて、これっぽっちも必要はないからね!」
『何という……あの暁の国家は、人間的に優れた者達が生み出した理想郷だぞ! そこで復讐に駆られ、それだけのために
「分かってるじゃない! けどね……己の誤ちを認めてやり直せるのは、人間として何より重要な素養よ! それをこのおバカ女に、ちゃんと分からせてやらないとね!」
さらにそれを受けた
それにはさしもの怨恨掲げた復讐姫とて、徐々に機体ダメージを重ねて行く結果となっていた。
「なぜだ! なぜお前の様な者が、私を圧倒出来る! 私は漆黒より、復讐成す事叶う武力を与えられたのだぞ!? それが、守る者を背負ったがために弱体化した部隊などに――」
『あーら! そんな事も分からないなんて、不憫な事だわね! 守る者を背負ったから弱くなった!? 寝ぼけるのも大概にしなよあんた!』
思う通りの結果が導けず、苛立ちからモニター越しに煽りかける復讐姫は、
それさえも物ともしない二機の救世兵装が、流れる連携で近接した。
そして――
『背負う者があるから弱くなるってセリフは、ただ強いだけが取り柄の自己チューが、自分の都合よく吐く逃げでしかないのよ! 私は知ってる……数え切れない命を背負い、だからこそ何よりも勝る力で戦い抜いた、太陽系最強の勇者の姿を!』
『あいつはあんたみたいな、自分勝手な言い訳で逃げたりはしなかった! たった一人で、破壊を齎す大艦隊から守るべき命を全て守り切った!これがあんたの、器のちっぽけな言い訳に対する答えよ!!』
四対の腕部強襲など、彼女には通じない。
男の娘大尉が身に付けた武力もまた、彼女が口にする勇者の如く、力なき民を守り抜くために磨き上げられた護りの力であるから。
「メンフィス、合わせて!」
『了解だ! こんな個人のつまらぬ復讐劇など、さっさと終わらせるぞアシュリー!』
『この……私がーーーっっ!!』
流れる様な近接双銃火砲の乱舞が、
『……そんな、ばかな! 私は……私は――』
「悪いわね、お姉さまに会わせてあげられなくて。さあ……チェックメイトよ!」
復讐色に染め上がるストラフレームの、コックピットと動力機関を避けた場所へ、近接銃火砲が突き立てられた。
一人の女性が救えなかった命を、それに救われた命が制する瞬間。
突如として、
しかし、それが誰の仕業か察した復讐姫が怒号を上げる。
すでに戦意喪失寸前の、眉根を寄せた悲痛な双眸のままで。
「なんのつもりだ、カスゥール・エイヴィー! 貴様は私の支援に徹すると――」
『ふむ、それは覚えていた様だな。だが……俺の名はすでに忘れてしまったのだろう。己の復讐ばかりに、頭がいってたのだからな。』
『日本で、お前達御家本丸の崩壊まで支え続けた、
「……っ!? 衛……武、だと!?」
》》》》
復讐の怨嗟に飲まれた女性の戦いは、想定だにしない者のカミングアウトにより幕切れとなる。
システム全てを奪われた
すでに戦いは決したと、異変を悟る
その彼女の機体へ、モニター画像と共に送られるは一人の男の姿。
今まで戦って来た復讐の権化とは異なる、場違いな程に冷ややかな視線を持つ傭兵、カスゥール・エイヴェィーからの通信である。
『戦場で容易く人を殺める力を奮いながらも、決してそれで
「お褒めに預かり恐悦至極、と言いたい所だけどね。ここは戦場よ? せめて現状を鑑み、投降するか否かの返答を先に提示して頂きたいものね。こっちも後がつかえているのよ。」
『やめ、ろ……! 私がこの戦いの勝利者だ! 私はこいつに勝って、あの裏切り者を――』
「負け犬サイコパスは黙ってなさい。」
すでに失意の中で強がるだけの女性を一喝する男の娘大尉は、現状を揺るがす可能性のある冷静な敵へと言葉を向ける。
が、それも杞憂の結末へと導かれる事となる。
『改めて名を告げておこう。俺は、地球は日本国の三神守護宗家から、つまらぬ復讐心で宇宙へと飛び出した元分家本丸の愚行を監視する者。末端家に属する
『我が監視対象である者の復讐が、完全に徒労に終わったのを確認した所。加えて、お前達
「……はぁ。なるほど、理解したわ。私達、完全にあんた達の御家騒動に引っ掻き回された感じじゃない。んじゃ、その復讐を豪語する負け犬サイコパスさんは、あんたに預けても大丈夫なワケ?」
戦いの主役であった女性を置き去り進む会話。
そこで、復讐姫の行動が全く意味も成さぬ愚行である事実が突き付けられる。
冷静さを欠いたままであった復讐姫が、眼前の出来事でようやく事態把握に至る頃には、強がる意志さえも枯れ果てていた。
それをモニターで確認した
今まで戦い続けていた女性に、取って代わる様な対応で。
『ザガー・カルツ本隊は兎も角、我らはこの時点で降伏しよう。だが、以降はこちらへの手出し無用に願う。それが受理されるなら、今後一切、クロノセイバーに絡む事象には介入しない事を約束する。』
「正直私が、勝手に事を判断すべきじゃないんだけどね……時が時だけに仕方なしか。いいわ、白旗上げる降伏相手を撃つなんてバカな真似はしない。ただしそちらが、その裏をかく卑劣な外道ならば容赦はしないわよ?」
『こちらも未だ、かの宗家は分家に属する身だ。二言は無い。であれば失礼させて頂く。』
激戦はあっけない幕引きとなり、しかし死傷者もない状況で一先ず胸を撫で下ろす男の娘大尉を、モニターで弄る男がそこにいた。
『全く、驚かせてくれる。この大戦の引き金になった勢力の構成員へ、この様な恩赦を与えるとは。だが――』
「分かってるわよ。でも、ウチの部隊でいるとこれが当たり前に思えて来るの。だからあんたの命も人生も、まるっと救えたわけだし? まあ、それはそれとして。」
『そうね。ここでのんびりなんてしてられないわよ?隊長。まだ各宙域での、無人機群の猛威が収まってないんだから。』
『そうね〜〜。でも〜〜このままじゃジリ貧だし〜〜。いっそ、敵の中枢へ切り込む方がいいと思うわ〜〜。』
緊張から解き放たれた
「さあ、とっととこのくだらない戦いを終わらせましょう! クオンに
そうして一同の視線が集中する先。
今も無人艦隊を吐き出し続ける敵中枢、
程なく……激戦からまた激戦へ、絆繋いだ救世の志士達が気炎撒き飛んでいた。
》》》》
白旗掲げて深淵を彷徨う様に離脱した
機体各所へ痛々しいダメージを負いながらも、搭乗者は無傷のままで敗北の味を噛み締めていた。
「なぜ……黙っていた。」
『ふむ。何故も何も、あなたがもう少し冷静であれば気付けたはずだ。当主 悠葉。』
「……よせ。
『ようやく辿り着いたな。同じなのだよ、あなたの仕出かした事は。しかし彼女……
だが、自身が口走った言葉で理解してしまう。
復讐と言う私情の目的に駆られ、自らも同じ誤ちを踏んでいた現実を。
兵器狂いを装った男はそれを見ていた……見続けていた。
それが本当に、正当性を持つ戦いであるかを。
しかし奇しくもそれは、
彼女が救い上げた命の、正義に溢れた戦いによって。
『もう復讐は終わりにしよう、当主
「……。私は、今まで何をしていたんだ。今までの思いは、いったい何のためにあったんだ。教えてくれ、カスゥール。」
そこへ、同じく敗北の味を痛いほど叩き付けられた声が響いた。
『よう、そっちも盛大にやられてんな。どうだ……機体は動けそうか?』
「なんの心変わりだ? 隊長にしては、やけに雰囲気が丸くなったじゃないか。」
『っ……そりゃこっちのセリフだぜ。復讐オタクが返答するかと思いきや、お前さんが答えるたぁ。まあいいや……船を着ける。とっととずらかるぜ?お仲間さんよ。』
「
『……お前さんが謝罪とか、気持ち悪りぃな(汗)。まあいいか。』
同じく白旗上げて尻尾巻いた
共に敗北の同士として、また彷徨う様に姿を消すのであった。
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