第275話 繋がる想い、星を越えて



 ヒュビネット戦役と呼称される大戦が、救世の志士達の怒涛の巻き返しにより急転して行く中、主戦力であるクロノセイバー各隊での戦況も佳境となっていた。


『いい加減、この私の目の前から消えてなくなれ! この男女がっ!』


「……ったく! この後に及んでその罵倒……あんたがいた日本国では、差別的な行為を廃絶するって言う文化背景はなかったのかしらっ!?」


『黙れっ! ここは宇宙そらだ! 、意味を成す訳がないだろう!』


「はぁ……同じ事言うわね! もっともぉ、その誰かさんはちゃんと己で過ちに気付き、考え直す事ができたんだけどねぇ!」


 戦闘の前線宙域にて。

 炎陽の勇者の戦いを援護するために飛んだ男の娘大尉アシュリーが、復習姫ユウハと渡り合う。

 闘戦姫カーリーの二対の腕部武装による襲撃は確かに驚異ではあるが、それも近接戦闘用に強化された短銃砲の乱舞で相殺されていた。


 近・中距離剣撃に加えた、円形超振動ブレードを休みなく打ち込む攻撃でふところに寄せ付けぬはずが、短銃砲火を危険視するあまり攻め手が緩み、その隙を逃さぬ男の娘大尉の鮮やかな滑り込みがそこを脅かす。


 本来その程度の先読みは、格闘技の達人であるなら容易いはずが、復讐姫彼女へ渦巻く憎悪が本来の力を低減させていた。


 が、華麗な短銃砲捌きを見せる男の娘大尉も決定打を打ち込めぬ状況。

 それは心変わりにより、復讐姫のバックアップに回った兵器狂いカスゥールが操作する、無線誘導式のビームビット・エッジとバックウエポンパックから放たれる長射程火砲支援で長引く戦況へと引き摺り込まれていたのだ。


「ちょっと後ろのバックパック! もしかして、複数で操縦してんじゃないでしょうね! が発狂してる中での、火砲支援が正確無比すぎるわよ!」


『ふむ、この接戦でそれを見抜くとは。こちらもパイロットの練度には目を見張るものがあると。心配には及ばない……契約上、私はあくまでこの娘の支援の立場だ。気にせずやってくれ。』


「って……はあぁ!? この戦場でその言葉を、いったいどういう意味で取りゃいいのよ!」


 そこで男の娘大尉が察した違和感を口にすれば、あまりにも場違いな兵器狂いの通信が飛ぶ。

 さしもの大尉殿も緊張漂う戦場とはちぐはぐが過ぎる男により、動揺の中で攻撃精度低下に見舞われる。


『ちょっと隊長! そんな言葉で惑わされない! せっかくいい線行ってるのに!』


『あら〜〜今ので攻め手が緩んだ所に、見事な敵の一撃が〜〜――』


「ちょっとあんた達は黙ってなさい!」


 僅かな動揺を掬われた男の娘大尉をいじる同隊員も、隊長の戦いを邪魔する無人機動兵装掃討で手を取られ、状況下。

 それでも男の娘大尉の善戦により、なんとか復讐姫の手が赤き霊機ライジングサン・ブレイズスターへ及ぶ事態を凌いでいた。


 そこへ――


『何を手間取っている、アシュリー・ムーンベルク! まだ敵はごまんといるぞっ!』


「あ、あんた……!? こっちの支援に来ても大丈夫なの、メンフィス!」


『ドル・ビアンテ中佐らの許可は得ている! 言って来た!』


「戦友……ははっ! ほんとあんた、になったじゃない!」


『それは、救われたからだろう! 援護する!』


 舞い飛び援護に回るは地球上がり……今や地上の新米国のエンブレムを胸に翳して弱者救済に尽力する、メンフィス・ザリッドである。

 その言葉の端々へ、己の命と人生を救い上げた男の娘大尉の――それも彼女の尊厳をなにより重んじた労りをのぞかせていた。


 それを聞いた乙女となった少年は、頬を紅潮させながらも、なにげない素振りで受け流す。


 方や他人を思いやるコンビとなる二人――

 方やあくまで関係をビジネスの様に割り切る二人――



 彼らの、人としての尊厳を懸けた戦いもまた接戦となった。



》》》》



 救世艦隊クロノセイバー旗艦と漆黒革命師団ザガーカルツ旗艦が激突する戦場より、巻き添えを避けた宙域でも両雄の志士が激突していた。


 殲滅鬼エリミネーターとの名を頂く発狂娘スーリーを相手取るは、救世艦隊のエリート部隊Ωフォース

 だがそのエリートをしても、強敵と言える女性が猛威を奮っていたのだ。


『はっはーーーっ! 戦、戦い、戦闘! アタシはこのために宇宙そらにいる! さあさあエリートとやら、アタシをもっと楽しませろーーーーっ!!』


「くっ……動きが読めぬ! こいつまさか、本能のおもむくままに攻撃を振るっているとでも言うのか!?」


『――の様ですね、隊長! この娘に、! 差し詰め地上を闊歩する、獰猛な野獣を相手にしている気分ですよ!』


ディンの言う通りでさぁ! 人間の理知なんざ遠く及ばない、野獣がただ獲物を狩るだけの戦い……それがこの娘の恐ろしい所でしょうよ!』


 かつて火星圏ではトップ5に数えられたエリートたる、鉄仮面の部隊長クリュッフェルをして強敵と言わしめる発狂娘は、中華系優男無骨な豪傑パボロが察する読み通りの戦いを繰り広げる。

 さらには、それを活かす方向で支援に回る苦労人の部隊長ニードの判断こそが、発狂娘の強さへ拍車を掛けていたのだ。


「ったくよぅ! この俺がなんで、後方支援に徹さにゃならねぇんだ! これもあのヒュビネットの思惑通りってかぁ!? 全く虫唾むしずが走る……大金さえ乗せられてなけりゃ、いつでもバックレてやんのによ! おい発狂娘――」


「聞こえるか、スーリー・スォルキー! 恐らくここで暴れとかねぇと、今後お前さんの活躍の場は当分やって来ねぇ! なんなら噂のエリート相手に、思う存分暴れまくっとけ!」


『キヒヒッ! おっさんに言われなくても、名一杯暴れてやんよっ! アタシは、っつっただろ!!』


「……おい、ちょっと待て!? そりゃどういう――」


 が――

 殲滅姫エリミネーターと化す発狂娘へ、嘆息と嫌味を混ぜた苦言を投げた苦労人の部隊長も、返された含み持つ言葉で戸惑う事となる。

 彼女がただの傭兵家業の中で、単純に戦いを楽しむ事で殲滅鬼へと変貌したと想定した彼は、彼女の返答に交じると言う単語で疑問符が脳裏をかすめた。


 しかしそれも傭兵隊内でやり取りした通信であり、エリート部隊が知るよしもなかったのだが。


『アタシは、! だから強い敵がいれば、片っ端から叩きのめすだけだ! ! キヒヒッ!』


「何の話だよそりゃ! おい、スーリー……俺の問いに答え――のぁ!?」


『お取り込み中申し訳ないが、救世の部隊へ助太刀に馳せ参じた! そちらは漆黒部隊の傭兵隊長とお見受けするが、お相手つかまつる!』


「おいおい、かの星王国の騎士団長がお目見えかよ! こりゃ俺も、後方支援なんで余裕こいてられねぇじゃねぇか!」


 エリート部隊と兵部隊が入り乱れる戦場。

 そこへ舞い飛ぶは、紅蓮のストラ・フレーム。

 先にエリート達と銃を交えた、頭であるミネルヴァ・マーシャル・グランディッタである。


「閣下、自軍の部隊はよろしいのですか!?」


『言うな! もはやワレは、宇宙軍の将軍にあらず! 星王国再建を目指す一人の騎士ぞ! ワレの部隊内で大恩ある隣人へ手を貸すべきと、声を上げる気鋭に押されて参った! 異論はあるまいな!』


「ふふ……異論などございません、グランディッタ嬢! もとよりこの戦いは、長引けばそれだけ致命的な不利が伸し掛かる消耗戦! 助太刀は、多いに越した事はありませんのでね!」


 傭兵部隊でにわかに生じた疑念を他所よそに、同宙域で火星圏、そして小惑星アステロイド帯宙域から木星圏の誇る雄が集い、最後の戦いが大詰めを迎える。


 いくつもの戦場となる宙域各所へ、集う者達は、戦禍を打ち払わんと奮戦する。


 それは覚醒の楽園アル・カンデ宙域でも佳境を迎える、仏門の化身鎧楼 炎魔銀嶺の女神フリーディア――



 灼炎煉 不動しゃくえんえん ふどうとカツシ・ミドーの、俗世調律の戦いにも変化を呼ぶ事となった。

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