第274話 拳の絆が天を衝く!漢達の拳が巨大なる真理を穿つ刻!



 お袋と武術部の皆が無事で胸を撫で下ろした。

 けれどそれを救出できたのは、間違いなくあいつの……俺と拳の誓いを交わした人生最高のライバル、アーガスのお陰だ。


 さらにはここに辿り着くまでの、Αアルファフォースのアシュリーさん達にセイバーグロウのクリシャさん達擁する民間出向部隊の支援なしには、今の現状が訪れる事なんてなかった。


 これが、宇宙そらに出て俺の学んだ事。

 人は一人では生きてはいけないけれど、手を取り合う事で無限の可能性を引き出せると言う摂理。


 だからここにいる。

 宇宙人そらびと社会の新たな歴史を始める者……恒星の如き力強さを宿す、Αアルファフレーム アーデルハイド・ライジングサンが――


『融合合体艦 大和やまと……抜錨っ!!』


紅円寺こうえんじ少尉、我らは敵艦隊の中枢へ切り込みます! あなたはあの、巨大なる深淵の使徒を――』


「クリシャさん……了解っす! セイバーグロウの真価を見せ付けてやって下さい!」


 などと感慨にふける俺は、救出部隊から一転し敵中枢強襲艦となった合体艦なる物に驚愕を覚えつつ、聞きしに及ぶ超ド級戦艦の名が出た事で双眸へ憂いと希望を滲ませる綾奈あやなさんを見やった。


 あの超ド級戦艦は戦いの中で生まれ、そして散りながらも後世へ多大な影響を残した暁の国家の伝説と聞く。

 モニターの先でそれを視認した彼女が、複雑な心境になったのはそれこそが関係しているのは明白だった。


『ハッハーーーーッッ!!』


『うぅおおおおおっっーー!?』


 と、そこへ別方向からの雄叫びが響き渡り、今しがた沈黙させた敵の無人兵装部隊へ叩き付けられる様に突っ込んで来る影。


 俺を先へと進ませるため、マサカーのデスブリンガーと打ち合っていたアーガスの臥叡 狼餓がえい ろうがが押し負けて突っ込んでいた。


「アーガス! すまない、時間稼ぎを――」


『気にすんなってやつだ! お前に助けられた生命の借りは、こんな物じゃ返す分にも足りねぇくらいだ!』


 無人艦と共に爆炎に包まれるアーガスへ声を投げれば、何の問題もないとのしたり顔が返され、それがあいつのタフさに加えた機体の真価を見せ付けて来る。

 この拳を交えた漢は、恐ろしい勢いで心身を磨き上げていたんだ。


 その会話へと割り込む声。

 敢えて攻撃の手を止め余裕の笑みを浮かべるのは他でもない、宇宙そらの深淵をうそぶくブラックホールの化身、マサカー・ボーエッグその人だ。


『いいぜぇ、連れ立ってかかって来いよ! 言っただろう……人類が己の矮小さを認め、手を取り歩むはどこも恥じゃねぇ。むしろ、くだらねぇプライドが邪魔してそれができねぇ奴は、この俺様の相手にもならねぇぜぇ!』


 奴が手を止める理由は分かってる。

 ここに俺のライジングサンと、アーガスの臥叡 狼餓がえい ろうががいる。

 それこそが理由なのは、考えるまでもなかった。


綾奈あやなさん……俺はあいつの言う通りだと思います。だからこの戦い、綾奈あやなさんの力も必要っす。」


『ふふ……皆まで言わずとも分かっているわ。チェイン・リアクション・システムはいつでもいける。あのブラックホールたる存在と相打つは即ち、あなたとアーガスと……そして私含めた人類代表と言う事ね。』


 交わす彼女の言葉が、高次元さえも揺るがせ伝わって来る。

 俺にこの宇宙そらへ飛び出すきっかけを与えてくれた、そして現在掛け替えのない人となった彼女――


 三神守護宗家と言うくびきから解き放たれ、力無き者のために立ち上がった神倶羅 綾奈かぐら あやなと言う女性の、情熱的なまでの想いと感情が。


 ならば行こう、ライジングサン。

 お前もここで、あの臥叡 狼餓戦友と共に戦う主役だ。

 すでに俺の心などお見通しかの如く、抜き放つ拳となるシステムが立ち上がり、世紀の戦いを今かと待ち詫びる相棒がそこにいる。


 今こそこの、正義の拳の正しさを証明する時。


「行くぞ、ライジングサン! アーガス、それに綾奈あやなさん……この戦いに力を! これより我ら人類の宿敵である、宇宙そらの深淵の化身 マサカー・ボーエッグとデスブリンガーを打倒しますっ!!」


 心と覚悟は研ぎ澄まされた。

 もう後戻りなどできない。



 眼前で、、俺はこの拳へ恒星を宿したんだ。



》》》》



 その日、木星圏は水の衛星エウロパ宙域にて――

 観測された異常は、防衛軍は愚か宙域で巻き返しを図る全ての者が共有する事となる。


 それはデータ上などと言うレベルではない、目視でさえ確認出来る超常の異変。

 誰もの双眸に映り込んだのは、恒星の如き光を撒く巨大な二柱の影と、その光さえも吸い込む巨大超重力源の如き者との大激突であった。


「カカカッ……ハッハーーーーッ!! やろうぜ、人類! 俺様もようやく本気が出せるぜ! 受けてみろよ……――」


「これこそが、お前達があらがすべ無き宇宙そらの摂理! 物理の根幹にして超常の極限……生ける全てにとっての最大の恐怖そのものだーーーーーっっ!!」


 先んじて恒星の如き爆光を放ち突撃したのは、勇者の駆る赤き霊機ライジングサンと天狼の駆る守護神臥叡 狼餓

 しかしその爆光エネルギーをも吸い込み、膨大な重力波をばら撒きながら、深淵の狂気マサカーが駆る死せる者デスブリンガーが機体を膨張させた。


 先の二周りとは言わず、数倍に膨れ上がる機体はもはや巨神。

 神話時代に神々と剣を交えた、巨人神族を彷彿させる驚異がそこに現れた。


「アーガス! 俺と綾奈あやなさんが、ライジングサンで撹乱する! 俺達は異なる戦闘スタイルだけど、我流ボクシングとバーゼラ戦闘術に含まれる体術を駆使すれば、合わせるのは容易のはずだ!」


『けっ……ここに来て、俺の忌まわしき過去さえも有利に働くってやつか!? だが面白え……! これこそが、いつきに救われた価値のある拳だって事を見せてやるぜっ!』


 巨神、否――となった死せる者デスブリンガーの振るう一撃は、小手先でさえも大地を消し炭に変える小惑星の激突に匹敵する。

 周囲の機械で操られるだけのカラクリ人形など、触れるだけで圧潰するその驚異は、事実上防ぐのは不可能であった。


 だがそれを受けるは二人の巨人駆る拳士。

 それも神代の技術を元にし生み出された機械巨人だ。

 防ぐ事など必要ない……それを格闘技の御技によって薙ぎ、交わし、受け流す事が叶うのだ。


『カカカカッ、最高だぜお前ら! 人類にしておくには惜しすぎる! 、回避されるとかありえないだろ! もはや今の俺様はデスブリンガーと一心同体――』


『いや、これこそが俺様の本来の姿だ! このまま超重力源となって、木星圏は愚か、太陽系もとろも深淵へ引き摺り込むのも容易いぜっ!!』


「そんな事はさせない! 俺が……俺とライジングサンが共にある限り! 綾奈あやなさんがいて、アーガスに臥叡 狼餓がえい ろうがが共に戦ってくれる! だから俺は、あんたには絶対に負けないっ!!」


 虚神デスブリンガー・アビスの魔爪の一撃は恒星をも両断する次元の大太刀となり、幾度も二機の勇猛なる機神をかすめて行く。


 それでも、赤き霊機ライジングサン赤銅の守護神臥叡 狼餓ひるむどころか反撃の拳を叩き込み、それでいて二人のコンビネーションが深淵の狂気の余裕を削り取る。

 だがここからである。

 ここからこそが、赤き霊機ライジングサンの真骨頂――


 パイロットに二人のメイン操縦者を有する、始める者アルファの名を冠する神代の伝説の本領発揮であった。


綾奈あやなさん、チェイン・リアクション行きます! 俺との動きをシンクロさせて下さいっす!」


『いいわ、モードはシンクロ連続稼働ね! ダブル・チェイン・リアクション……シーケンシャル・トレーシングドライブ! ライジングサン〈ブレイズスター〉……イグニッションっ!!』


 二人のパイロットである炎陽の勇者双炎の大尉綾奈の咆哮が、赤き巨人とリンクする。

 同時に展開されるそれは、恒星の如き者をへと変貌させる、機体システム究極の段階。


 先のスニークミッションでは、双炎の大尉を立てるため封印していた勇者側のシステムも開放する事により、ダブル・チェイン・リアクションの真価が発揮される事となったのだ。


「はっ……いつき、そのシステムはありえねぇぜ! お前はどれほど、俺の先に行ってやがるんだ! だが悪くねぇ……今この瞬間は、俺もそれに合わせてやるってやつだ!」


 虚神デスブリンガーと打ち合い弾け飛ぶ様に後退した天狼が見たものは、常軌などと言う言葉が最初から存在していなかったかの事象である。


 赤き霊機ライジングサンの機体各所が、灼熱の恒星の撒くプロミネンスの如き発光をともない可動展開。

 はしる熱閃が周辺宙域のあらゆる素粒子と対消滅し、眩く輝き恒星を恒星足らしめた。


 出力急上昇と共に、重力子グラビトンの本流が次元さえも強力に歪め、それは深淵の狂気にも伝わる事となる。


「クククッ……ハッハハハ……カーッハッハッハーーー!! いいぜいいぜぇ、それを求めてたんだ炎陽の勇者! 紅円寺 斎こうえんじ いつき神倶羅 綾奈かぐら あやなだったか! それでこそ俺様の相手に相応しい――」


「戦狼も負けてんじゃねぇぞ!? テメェらは生命全ての未来を背負って、この宇宙そらの深淵に挑んだんだ……ならば、相応の戦いを俺様へと叩き付けやがれっ!!」


 ラグナロクさながらな巨人の戦いはまさに佳境。



 始まりの戦いが、これよりクライマックスを迎える事となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る