第273話 宇宙の武士道、超ド級戦艦の名を翳して舞え!



 赤き霊機ライジングサン到着と同時に救出された理事長を初めとした学園生徒は、その身柄を一時セイバーグロウ主力艦である救いの旗艦へと預けられた。

 学園理事長咲弥の傷も軽度とは言え、処置に検査が必要と艦内医務室へと搬送され、その付き添いとして学園生徒達も同伴する。


 大戦最中と言う事もあり、未だ敵勢力が無尽蔵に生み出される戦場を後退するにはリスクがあると、敢えて戦線を上げる方向へとシフト。

 必然的に学生達を戦場へ残す選択をしていた。


「学園理事長と子供達は、こちらで安全に保護する! このまま後退するには危険も伴うだろう……が、判断はウォーロック大尉へ任せる! 構わないな!?」


『了解です! 私も戦場がいかな状況かは理解しております! ですからセイバーグロウはこのまま前進し、紅円寺こうえんじ少尉とライジングサンへの負担軽減を進言します!』


「いいだろう! セイバーグロウ現指揮官である、君の指示に従おう! オプチャリスカ殿も異存はないな!?」


『ええ、望む所です! 一般市民を乘せたままの前進ならば、否応でも死ぬわけにはいきませんからね!』


 すでに武装救命隊セイバーグロウ隊長として面目躍如の活躍を見せる特務大尉クリシャは、的確に戦況を見極め指示を出す。

 当然それに乗る算段である雷の猛将俊英は、彼女の輝く姿を脳裏へ焼き付けながら口角を上げた。


 さらにそこへ便乗する声が、別方向から敵の雑兵を木の葉の様に打ち払い飛ぶ機体より送られる。


『いいねぇ、そこに私も便乗させて頂こうかねぇ。いやはや、武装救命隊とは……この宇宙人そらびと社会に今必要なのは、正しく彼女達の様な者なのだろうねぇ。』


「援軍感謝致します、准将閣下! では我らも、相応の心構えで望まねばなりませんな!」


 戯けた准将グラジオスを筆頭に、火星圏から募った有志の部隊が後に続く。

 そこには、かの火星圏が誇る武門の将である拳聖 フォックスが、小部族ソシャールで眠りについていた護法機体、臥伏 龍鳳がふく りゅうほうにて推参していた。

 臥叡 狼餓がえい ろうがと対となる出で立ちは、虎に対する龍をあしらう堂々たる出で立ち。


 覚醒した弟子に感化された男が、戯けた准将の力強き援軍についていた。


 それら援軍を見やる特務大尉は双眸を閉じ、静かに見開くまなこで目指すただ一点へ集中する。

 未だ無数の自立無人機動兵装を生む、宇宙人そらびと史上最も恐るべき文明殲滅兵装MWAを睨め付けた。


「これより我らセイバーグロウは、クロノセイバー各機がザガー・カルツ主力を抑えている間に敵の中枢を……あの巨大な殺戮兵装を止めに向かう! しかし現在、部隊内へ一般市民を抱える身であり――」


 覚悟の咆哮。

 が、それをさえぎる様に響く声が、まさかの救いの旗艦ブリッジから響く事となる。


『き、君達!? ここは一般市民には危険だ! 艦内シェルターの方に――』


『すんません! でも俺達、いつかはこの部隊のどこかでお世話になる身っす!』


『そうです! それに私達は、いつき先輩の戦いを今まで見て来ました! だからこそ、戦いの全てを見届けたいんです!』


 自称ライバルの良太が……そして泣き虫から覚醒を見たゆずが。

 さらにはその友人達が、あろうことかブリッジへと押しかけていた。


 炎陽の勇者を知る特務大尉は、それを一望するや嘆息。

 されどもその意気込みを買う算段で、進軍の合図となる言葉を解き放った。


「すでに私達の後進であると言うなら、この戦いをしかと見届けなさい! 我らセイバーグロウの敵は、人類の生命と文化を脅かす巨大なる驚異! たった今より、それを打ち倒すための禁じられた武力を開放します!」


いかづちを始めとした、あかつき型第六兵装艦隊の制限を解除! 禁じられし敵を打ち倒す武力を顕現! 〈オペレーション 〉……発動っ!!」


 命を救う部隊には、大改修の時点で制限を掛けていた禁断の対武装勢力兵装が存在する。

 それは開放と同時に、あかつき型第六兵装艦隊……究極の艦隊融合合体運用。



 かの蒼き大地で、世界最強の名をほしいままにした海洋型超ド級戦艦の御名を冠するオペレーションである。



》》》》



 もともと艦艇母艦の姿を持つ禁忌の聖剣キャリバーンへドッキングする際必須である変形機構が、救急救命艦それぞれへ存在していた。


 大改修の折、それを考慮した地上より上がった技術者である、サダハル・コーラル・マツダの意見具申により実現した、救命艦のいなずまを除く残りの全艦を結集させる強化プラン。

 それはただの寄せ集めと言う訳ではなく、元来各艦へ分散させていた一般的な艦船の持つ戦闘機能を、合体融合により一つにする手段である。


 時間的、改修物資的に見ても飛んだ性能向上が見込めないと判断した挑戦する初老サダハルは、既存の艦が有する機能を再集結する事で一つの巨艦を生み出す案をぶち上げていたのだ。


「各艦、! 隊列を合体機構連結に合わせ! いかづちより、合体コード発信……〈オペレーション 大和やまと〉を起動する!」


『ヴェールヌイ及びデカブリスト……両艦、ドッキングを確認しました! 各種連結機構を再チェック! 工藤中尉、全艦の指揮権を移譲します!』


「指揮権移譲を承認! 征くぞ……かの暁の国家で生まれた、英雄の名を頂く救いの艦達よ! 今だけは、そこに悪鬼を討ち滅ぼす超ド級戦艦の魂を宿せ! 艦隊融合合体〈航宙超ド級戦艦 大和〉……抜錨っ!!」


 合体コード発動と同時に五隻が隊列を成す。

 戦術武装を備えるいかづちを中心とし、異なるタイプの索敵能力を特化させたあかつきひびき禁忌の聖剣キャリバーンとの連結時形態である上部7:3の位置へ一隻、下部に二隻が縦に合体。

 それを挟み込む様に、ヴェールヌイとデカブリストが左右翼を形成する形で変形融合。


 最終的に、五隻を繋ぐエネルギーライン等の連結を終えた所で、〈46センチ統一場粒子クインテシオン反応三連装砲塔〉が複数迫り出した。


 宇宙そらを舞うその姿は、冠された名の艦とは大きく異なるも正しく海洋戦闘艦ド級クラスの規模へと変貌を遂げる。

 〈オペレーション 大和〉の名をたまわるは伊達ではなかった。


「主力兵装、統一場粒子クインテシオン砲起動! 目標はマーズ・ウォー・アポカリプスの進路上! 味方機無し……主砲、一斉射っ!!」


 程なく、合体によりド級戦艦となった暁型融合艦大和の主砲が火を噴いた。

 雷の猛将俊英の大号令により船体中心のあかつきひびきであるそこへと備わった主砲は超火力砲となって宙域を焼き焦がす。

 目標とされるは、言わずと知れたMWAマーズ・ウォー・アポカリプスまでの敵無人艦隊ど真ん中。


 三連装三門が生む統一場粒子クインテシオンの一撃が、禁忌の聖剣キャリバーンにも劣らぬ火力で敵護衛艦の一団を縦にぶち抜いた。


 凄まじき光景も、すかさず視線を交わし合う特務大尉と猛将。

 それを合図に、武装救命隊セイバーグロウ武装救命機マーリスを先頭に飛ぶ。

 続く暁融合艦大和が主砲を左右へとばら撒きながら弾幕を張り、口角を上げて感嘆を零す戯けた准将グラジオス率いる心ある有志が、負けじと敵の掃討に当たりつつ殿しんがりを勤め上げる。


「これはこれは、なんと地球は暁の大国の誇る超ド級戦艦の名を持ち出すとは……。伝説に聞く海の武士道……差し詰め、と言うべきそれを翳すのが、かの工藤の名を継ぐいかづちの猛将とは恐れ入る。ならば我らも、不退転の心で臨まないといけないねぇ。」


 不退転をうそぶきながら、有り余る余裕のまま敵を片っ端から薙ぎ払う准将は、名実共にムーラ・カナ皇王国の調律騎士である。


 そして、その怒涛の快進撃を目前で繰り広げられる学園の武術部員達も、たぎる決意と覚悟は負けていなかった。


「皆、いいか!? こんな危険な戦場で、あのいつきは戦ってる! 力の無い弱者を守るための、最強の盾になって!」


「だよな良太! んじゃ俺らも、負けてらんねぇよな!」


「あの時は……イクス・トリム救済の折は私も、見てる事しかできなかった! けど――」


「そうだよ志奈しなちゃん! 私達はこれから、こんな世界でいつき先輩と同じ目標を掲げて戦って行くんだよ!」


 良太りょうたが、ケンヤが、志奈しなにゆずが――

 忌まわしき戦い渦中にも関わらず、心へ真っ直ぐな心根を築いて行く。


 宇宙人そらびと社会に於いて、ここまでの争いは遠く長い過去の出来事。

 しかしそれを目にしてなお、心が汚れぬ子供達こそが人類の求める未来の希望である。


 治療を終え、許可の元ブリッジの子供達を見守るために訪れた学園理事長も、憂いつつその希望をただ眩しく眺めていた。

 光映らぬ眼ではなく高次元で。

 そこでかすかに輝きを放ち始めた希望の光を。


「〔いつき……強く、大きくなりましたね。そして、あなたの正しき拳と貫いた義は今、共にあった友人達の心にさえも激しい炎を灯らせた。ならば行きなさい……あなたが目指すべき、本当の戦場へ。〕」


 未来ある子供達を引き連れ、武装救命隊セイバーグロウ暁融合艦大和が戦線へ風穴をぶち開ける。

 文明社会を殲滅せんとする、愚かな負の深淵に飲まれし穿



 そして……ヒュビネット大戦はいよいよ、最後の佳境へと足を踏み入れて行く。

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