第271話 切り結ぶ禁忌の巨大艦



 蒼き霊機BSRが、そして赤き霊機ライジングサンが別宙域で決戦に臨む。

 その間も、救世艦隊クロノセイバー支援に訪れた心強き友軍らが、水の衛星エウロパ宙域を所狭しと暴れまわる。


 そんな中、動き出す無人自立護衛艦隊含めた、禁忌の怪鳥フレスベルグをまとめて相手取っていたのが禁忌の聖剣キャリバーンエリート部隊Ωフォースである。


『くっ……隊長! 護衛艦隊だけでなく、後方の航宙母艦も動き出してまずぜっ!?』


『敵の数が多すぎます! こちらで、クラッキングによる護衛艦の同士討ちを狙ってはいますが……こうも次々後詰めが溢れると――』


「弱音を吐けば、我らエリートの名がすたる! 我らは現在、その護衛艦とも渡り合える得物を当てられている事を忘れるな!」


 しかしそのエリート隊が無人機の対応に追われる中、当然の如く襲来する影は凶鳥とともに舞い飛んだ漆黒革命師団ザガー・カルツの傭兵機。

 苦労人の部隊長ニード発狂娘スーリーが、二機の砲戦騎クリューガー決戦仕様で立ち塞がった。


『火星圏にさえ名を轟かせるエリートさん方よ! 悪いが俺達の相手をしてもらうぜ! なにせこっちの、抑えるのも限界なんでな!』


「漆黒部隊の傭兵か……だが侮れば痛い目を見るな! パボロ、ディン……三機編隊で畳み掛けるぞ!相手は漆黒が認める実力者……数の不利など簡単に――」


『ハッハーっ!! 獲物だ獲物! アタシを楽しませろーーーーっっ!!』


 が、苦労人の部隊長が引き連れる発狂娘はエリート部隊の洗練された戦術をも台無しにする突撃を敢行し、部隊長もエリート達を焚きつけるだけ焚きつけて後方へ下がる。

 本来先頭に立ち部隊を奮起させる隊長格が、まさかの後方支援を買って出ると言う奇策。

 演習時の英雄を思わせる、エリートさえ翻弄する苦労人がそこにいた。


 大戦最中に遭遇した、小惑星アステロイド帯宙域が誇るエリートを格好の獲物に据えた発狂娘は、ビームマシンライフルの弾幕に背部へ備えた数門の実体弾式レールファランクスを一斉射。

 さらには砲戦騎クリューガーの虎の子である、二門の可変超長射程粒子カノン砲乱射を敢行。

 加えて、腕部各所へ配した超振動ブレードを展開し近接するという、近・中・遠距離を問わぬ怒涛の連続攻撃を披露した。


「……この機体!? 我ら三人を相手にして、全射程で圧倒するだと!?」


『待ちくたびれたんだよっ、アタシは! キーッヒヒヒ! これが傭兵職……これが戦禍の戦いだっ! 踊れエリートとやらよっ!』


『隊長、こいつぁとんでもねぇですぜ! ただの傭兵なんかじゃねぇ……殲滅鬼エリミネーターでさぁ!』


『戦場で金を積めばどんな汚れ役もこなし、正規部隊の預かり知らぬ所で、敵対組織をことごとく蹂躙する掃除屋! ヒュビネットは、とんでもない者を部隊に組み込んでいるようです、隊長!』


 太陽系でも戦禍渦巻く火星圏で、最も恐れられるのは軍の正規兵ではない。

 そこに雇われ、大義も思想も持たず、ただ金を積まれた仕事のみを熟す傭兵職こそが恐れられる。

 それは宇宙そらと言う世界が、国家の勢力圏を一歩出た時、無限に広がる無法の空間であるから。


 人類が生んだ倫理世界の外は、


「全く……世話をかけさせる! この発狂娘を飼い慣らすのに、俺はどれだけ気苦労で揉まれにゃならねぇんだ!」


 後方で支援に徹する、部隊長の的確な超射程砲撃がエリート部隊へ絶妙な隙を作り、そこへ発狂娘の砲戦騎クリューガーが飛ぶ。


 漆黒はありとあらゆる面で、救世艦隊クロノセイバーが誇る戦力への対抗策を準備していた。

 そしてそれは――



 傭兵隊とエリートが激戦を繰り広げる宙域から距離を置き、巨大質量の衝突の残滓が宇宙そらを照らし出していた。



》》》》



 互いに禁忌の船と称される忌まわしき存在であり、方や命を守る救世艦として……方や命を奪う簒奪者レイダーとして、水の衛星エウロパ宙域にて相対する。


 禁忌の聖剣を名乗り、今や強襲突撃・戦闘艦艇母艦の姿を取るキャリバーン。

 両舷へ備えられ、光塵を後方に撒く大型スラスターが、対する様に延びる前方二門の巨大対艦集束砲で統一場粒子クインテシオンの線条を撃ち放つ。


 さらに、剣の船体各所から放たれる曲射統一場フレックス・クインテシオンビーム砲群は、尽く敵艦へと向けられる閃光となっていた。


「取舵いっぱい! フレスベルグのヴォルテクサーを撃たせるな! 高機動でかき回せ!」


「取舵、アイ! サイドスラスター全開、フレスベルグの射線から回避を試みる!」


「……っ!? 月読つくよみ指令、新たなニーズヘッグ群が来ます! さっき半分を撃ち落としたはずなのに……!」


 対する禁忌の怪鳥をうたい双翼を羽ばたかせる巨艦、漆黒側旗艦であるフレスベルグ。

 先にキャリバーンにより穿うがたれた翼を再生させるに留まらず、艦の総出力増強と新たな兵装庫大量増設により、無数に飛び交う蛇竜の閃撃ニーズヘッグをありったけ搭載した決戦仕様。


 、対空戦力特化艦と化していた。

 さらには――


「私の生み出せしプログラム、ヴァーチャル・コズミックチューバー マーダープリンセス……エグゼキュートモード起動! ヴォルテクサーチャージと同時に、ニーズヘッグを広域展開――」


「ヴォルテクサー拡散放射と邪竜リンクを開始しろ! 呪いの聖剣を囲い込め!」


『我、マーダー・プリンセス。主たるユミークル・ファゾアットの命を遂行。ボクスター・ヴォルテクサーチャージと同時に、ニーズヘッグへのリンク開始。』


 主砲と副砲をばら撒きながら聖剣と殴り合う凶鳥は、射線上のすべてを薙ぎ払う破壊の業火へ、聖剣との戦いに合わせた調整を加えていた。

 旗艦のメインシステムにして、電脳姫ユミークルの虎の子でもある狂気王女マーダー・プリンセスがシステムを素早く構築後、しかるべき攻撃形態へと船体を移行させる。


 すでにかつて廃霊姫ロスト・ドールであったブリュンヒルデと言う、人ならざる存在コアの制御すら必要としない驚異がそこにあった。


「フレスベルグの対艦砲が射撃体勢に入っています! ですがこの向きならば、あちらも既存の攻撃方法による打撃は与えられないと――」


「……っ!? 待て、これは……! ミストルフィールドを艦全域へ緊急展開、急げ!」


「えっ……あ、了解しました! ミストルフィールドを艦全域へ全力展開――」


、クロノセイバー! 私が、その呪いの剣を蜂の巣にしてくれる!』


 艦が逆向きに入れ違う対艦砲撃戦。

 が、その状態では凶鳥の放つ対向重粒子渦淵反応砲ボクスター・ヴォルテクサーも、明後日の方角へと放たれるはずである。


 しかし直後、旗艦指令月読が直感で指示した防御さえも抜く驚愕の艦砲射撃が、禁忌の聖剣キャリバーンを襲う事となった。


「ボクスター・ヴォルテクサー! ニーズヘッグを介して!!」


 驚愕の戦術を有するは禁忌の聖剣だけではなかった。

 対艦格闘戦とも言える、聖剣が誇る剣でのを警戒し、艦首を突き合わさずとも集束砲を直撃させる案を繰り出す電脳姫ユミークル

 彼女の中で蓄積される、特定の偏った知識こそがそれを編みだす原動力となっていた。


 最大威力低下こそ見たものの、射出される粒子出力が分散した事で、初期射速と可動域の増大を見た拡散放射攻撃。

 さらに邪竜の閃撃ニーズヘッグを介する事で、ピンポイント且つ集中攻撃を可能とする対艦拡散砲撃。


 それは長大な船体を持つ聖剣さえもただの的として穿つ、邪竜の牙そのものであった。


 針のむしろが聖剣船体を貫いて行く。

 超振動膜防壁ミストル・フィールドがあと一歩及ばず、次々と聖剣へダメージが刻まれた。


「くっ……ダメージコントロール! 被害状況を報告せよ!」


「りょ、了解! 船体の中枢に近い箇所へ多数被弾、全体で損傷率20パーセントに及びます! ブリッジ周囲損傷、左舷スラスター出力25パーセント低下、さらには居住区シェルターを覆う外郭壁へダメージ! 一般クルーはシェルター内へ退避中ですが……全体では衝撃による負傷者も出た模様!」


「やられたな……! 腐っても……あちらはこの艦内を知り尽くしている! ピンポイントでキャリバーンの急所を突いて来たか!」


『こちらいかづちのシャーロットだ! 月読つくよみ指令、負傷者はウチの救護班メディックで対応する! 無理を言うが、船体の揺れをなるべく出さないで頂きたい!』


「……シャーロット大尉にそちらを任せる! 無理難題だが……行けるか、ハイデンベルグ少佐!」


「今は有事……ですがこちらもプライドがあります! 可能な限り、揺れを抑える航行に徹しましょう!」


 苦虫を噛み潰した表情の旗艦指令が吐露する。

 これが元家族との戦いである事は、クルーの皆が知る周知の事実である。

 それでも――


 革命を口にし、力なき弱者へ銃を向ける相手へ屈する訳にはいかぬと、呪われた聖剣が機関出力と言う名の咆哮を上げる。


 また家族である。

 弱者の声が響く所へと駆け付け、数多の命を救い上げた巨大なるそれが、搭乗する全てのクルーと魂を共鳴させる。


 ではない……として覚醒する様に。



 巨大質量同士の戦いも、そこから佳境へと突入して行く。

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