第270話 輝け炎陽!救世の勇者降臨の時!



 拳の絆交わした守護の天狼アーガス深淵の狂気マサカーを相手取る。

 魂の誓いの元、炎陽の勇者は己を待つ者の所へと飛んでいた。


 国際救助の旗を掲げ、並み居る無人機群を片っ端から薙ぎ払い、さらには同部隊仲間である民間出向チームΑフォース武装救命艦隊セイバーグロウを従えて。


 その怒涛の進撃は正しく、地上は日本国にて国家防衛と人命救助へ全てをかける、かの自衛隊の如き獅子奮迅であった。


「セイバーグロウ武装機隊は、各個集中撃破! 機体サイズと武装性能の劣勢は否めないが、相手はただの量産コピー機体だ! 数で押すだけのプログラムへ、我らの阿吽の連携を見せてやれ! 互いに距離を置きすぎず、背を守り合うように突撃だ!」


『『『『イエス、マム!』』』』


「であれば我らは、その後方支援として艦砲射撃だ! あかつきひびき共にかの海洋型駆逐艦の名を頂く以上、その武勇に遅れを取る訳にはいかん! いかづちと共に前進――」


『輪形陣にて全天対空支援に入る! ヴェールヌイ、デカブリストも我に続け!!』


『心得ました、工藤艦長! 、これ以上同じ民のしでかす暴挙を野放しにする訳にはいかない! 我らは民のために戦ってこその軍人だ! 行くぞっ!』


『『『了解ダースっ!!』』』


 すでに部隊長としての風格さえ漂う特務大尉クリシャの声を皮切りに、救いの武装機隊が気炎を上げ、それに続けと対空砲火をばら撒く救命艦隊が隊列を組む。


 全天へと撒かれる十字砲火が次々無人機を穿ち、勇者が進む道をこじ開けて行く。


『あらあら! クリシャったら、最高にイケてるじゃない! んじゃ、お姉さん達も負けてられないわよ!』


『あら〜〜イケイケのアゲアゲね〜〜。カノエに同意だわ〜〜。お姉さん達も頑張る所存ね〜〜。』


「あんた達までクリシャに感化されちゃって! なら私達で、ライジングサンの直衛に――」


 特務大尉の活躍には、さしもの女性を目指す者も黙っていられず、負けじと最終決戦仕様の重装雷電姫シグムント・ヒュレイカ・サーヴェを振り回す。

 重連装ビーム・ランチャーと、多弾装マイクロミサイルポッドをありったけ積み込むと言う強引な仕様ではあるが、繊細さとダイナミックさを併せ持つ彼女達にはおあつらえ向きでもあった。


 何よりも隊長機である翡翠の雷電姫ヒュレイカ・ジェイダイトが、敵中枢へ突撃する仕様である事から、それを支援する形の武装チョイスでもあるのだ。


 三機編隊の流れる様な攻撃は、エリート部隊に匹敵する。

 その攻撃を盾に、赤き霊機ライジングサンはただ一点……救うべき仲間と、家族が捕らわれる宙域へ。


 が、そこへ襲撃する一つの大型の影が、状況へ変化を呼ぶ事となった。


『今度こそ私の相手をしてもらうぞ、この裏切り者と格闘家ごっこのクソガキ! もう遅れは取らない……勝負だっ!』


「っ……!? この機体はユウハさん!? こんな時に……今は、あんたの相手をしてる場合じゃないんだよ!」


『ユウハ、あなた……! まだ私達に絡むと言うの!? もはやその様な事で揉めている場合では――』


 舞い飛ぶは復讐姫ユウハの駆る決戦闘姫カーリー

 四腕へさらにバックパックの腕を含めた、物質刀剣にビーム刀剣と、多種に渡る武装をこれでもかと備える形振り構わぬ姿。

 すでに哀れみさえ覚える復讐の権化が、大戦の中、国際救助をなそうとする者を妨害すると言う暴挙に出たのだ。


 だが――


「また会ったわね、このダッサイ過去執着女! またこの、私の双銃のサビになりたいのかしら!?」


『……来たな、この男女! お前が妨害に出る事は百も承知……だからこそまず、お前を叩き伏せて裏切り者を始末する!』


 当然の様に、勇者と敬愛する姉的存在を守るべく、男の娘大尉アシュリーがその前へと立ちはだかる。

 しかしそれを敢えて待っていた復讐姫が、大尉の駆る翡翠の雷電姫ヒュレイカ・ジェイダイトへと目標を変更した。


「へぇ……今回は潔いじゃない! ならば相手にとって不足無し! いつき、そしてお姉さま……行って!!」


『アシュリーさんに任せるっす!』


『ありがとう……アシュリー!』


 予想外の展開も今は問答の時間無しと、男の娘大尉へ事を任せた炎陽の勇者と双炎の大尉は全力で前へ。

 モニターへ首肯で返した男の娘大尉も、視線を復讐に燃える慮外者へ――



 そして弱者を救助するための舞台が、勇者の双眸へと映り込む事となる。



》》》》



 護衛艦隊が取り囲む漆黒革命師団ザガー・カルツのフランツィースカ隊前衛。

 そこで無人機数十機に取り囲まれ、今も囚われの身となる紅円寺学園理事長と武術部生徒達は、人類が生んだ最悪の業である戦争と言う惨劇のなか震えていた。


 だが――


『くくくっ……いい加減泣き喚いてもいいのだぞ? 私もその方が、お前達を拿捕した甲斐もあるというもの――』


「ざっけんな! 俺達はお前なんかには負けない!」


「そそ、その通りだぜ! くそ……俺の足の震えよ止まれって!」


『キアーーッハハハ!! やせ我慢もそこまで行けば大したものだ、このクソガキ共!』


 通信越しで高圧的に脅しをかける悪意の女官フランツィースカへ、果敢に立ち向かう少年達がいた。

 未体験の戦争と言う事態へ、否応無しに飲み込まれた被害者である彼らは、それでも屈さぬ視線で女官を睨め付けた。


 その背に、守るべき恩師と言う存在がいるから。


「あんたなんて最低よ! 人の命をなんとも思わないとか、頭おかしいんじゃない!?」


「……怖くてたまらないけど、私達は負けません! 私達には、とても強い味方がついてるんだから!」


 男子の声に勇気付けられる少女達も、震える足へと鞭を入れ、立ち上がり己を見下す人の業欲の権化へと啖呵を切る。


 そこに守られるだけの弱者などいない。

 彼らは、共にあった一人の少年の戦いを目の当たりにし、成長して来た未来ある雄なのだ。


 平行線の口撃合戦は、子供達の譲らぬ想いで長期戦となり、さらにその子供達から勇気を貰った学園理事長咲弥が悪意へ言い放つ。

 双眸に光は映らずとも、高次元で感じ取る事の叶う、宇宙そらへ猛烈に渦巻く巨大なる深淵へ向けて。


「〔あなたがいくら、戦争と言う文句でこの子達を脅そうと、彼らは決して屈する事はありません。彼らは確かに、平和しか知らないかも知れない。けれど――〕」


「〔なぜ、平和でなければならないかを学び……そしてその平和の中でも襲い来る、矮小な人類では抗えない大自然の驚異に、幾度も立ち向かった小さな勇者達です。あなたの様な、自己の強欲に塗れた俗物如きが……彼らの心を打ち負かす事などありえないのです。〕」


 合成音声越しに理事長は咆哮を上げた。

 共にある教え子達こそ、宇宙そらの大災害と戦い続けた小さな勇者であると。


 不運にもそれに巻き込まれた彼らだが、それでも彼らは立ち向かった。

 その行動で多くの命が救われた現実は、彼らを讃えるに足る偉業である。


 されど眼前で、モニター越しに高みの見物を決め込む悪意の女官には届かない。

 それもそのはず……視覚を失っている学園理事長だからこそ感じ取れる、眼前の高次元事象が人類の持つそれではない異常を示していたのだから。


 図星をえぐる言葉から僅かの時を置き、眉根を歪めた悪意の女官が痺れを切らした様に吐き捨てた。


『……もはや、地球の祖国がどうだのは関係ない。戦争が善か悪かなどもな。私は力を手に入れたのだ……いにしえの超技術と言う力をなっ!!』


『折れぬ屈せぬなど、我が艦隊の艦砲射撃の前には歯が立つまい! そのまま宇宙の藻屑と消え去るがいいっっ!!』


 すでに人としての倫理など吹き飛んだ悪意の女官は、包む深淵の浸蝕に身を委ねる様に、生命としての最悪の咆哮を解き放つ。


 魂が深く、黒く……深淵へ堕ち染まり行く。


『目標、民間人のシャトル! 前衛艦隊、艦砲射撃……ぇーーーーーーっっ!!』


 絶望が、惨劇を纏い強襲する。

 したのだが――


「〔その様な攻撃など、私達には一つも届く事はありませんよ? フランツィースカとやらさん。私達には、。〕」


 ソシャールさえも粉々にする大艦隊の艦砲射撃。

 民間人へ向け放つなど正気の沙汰ではないそれが、刹那に宙域を焼き焦がした。

 味方陣営である、無人機部隊さえも巻き添えにする無慈悲な一撃を、囚われた民間人ではどうする事もできない。


 それでも学園理事長は口角を上げた。

 すでに彼女の光映らぬ思考は、心を熱く滾らせる恒星の如き気配が、怒涛の勢いで近付いているのを感じていたから。


紅円寺こうえんじ流 真機百式・守りがなめ……超重力歪曲絶対障壁ちょうじゅうわいきょくぜったいしょうへきっっ!!』


 直後シャトルへ響くは、そこにいる誰もが待ち望んだ声。

 声と同時に、シャトル眼前へ巨大なる影が舞い飛んだ。


 恒星の如き爆炎纏い、勇猛なる咆哮であまねく弱者へ勇気を、そして悪鬼不逞へは戦慄と絶望を叩き付けるそれ。


 救世艦隊クロノセイバートップエースの一欠――

 始まりの使者、赤き霊機 ライジングサンを駆る紅円寺 斎こうえんじ いつきが到着を見たのだ。


 幾重に重なる破壊の閃条が、突如現れ宙域一帯を包んだ超重力源の次元歪曲により、全てがあらぬ方向へと霧散して行く。

 その中心にある民間シャトルは、一切のダメージを受ける事などなかった。


『き……貴様! 赤いの……またしても邪魔立てをっ!! この赤いクソムシヤロウがーーーーーーっっ!!!』


 旗艦である破滅呼ぶ者MWAの司令室で、狂気を爆発させた女官が発狂する。

 彼女は先にも、あの核熱弾頭の嵐をその赤き存在に全て防ぎ切られていた故だ。


「お袋っ! それにみんな、怪我はないか!」


『怪我はないっていいたいけど、理事長先生がちょっと……! でもかすり傷だ!』


『それは大丈夫! 私達で応急手当してる!』


 学園理事長が、そして武術部部員達が安堵から歓喜へと移り行く。

 もはや心配など不要であった。


 すぐ目の前には、多くの弱者を救い続けた太陽系の赤き勇者……炎陽の勇者赤き霊機ライジングサンの姿があるのだから。


『お袋、その……遅くなってごめん。』


「〔ふふっ……、この木星圏まで飛んで来たんですよ? 遅いなどと、誰が罵れるものですか。本当にありがとう、私の大切な息子……いつき。〕」


 国際救助の旗掲げし勇者は、見事その任務を果たす事に成功する。

 そしてそこより――



 彼が宇宙そらの因果を相手にする、最終最後の戦いの幕開けとなるのだ。

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