第269話 共闘、拳の誓いに導かれし者



 故郷を包む絶望渦巻くエウロパ宙域の激闘。

 辛うじて間に合った俺達だったけど、そこには予断の許さない状況も同時に存在していた。


「これが因果の試練だとしても……今はあんたの相手をしてる場合じゃない!」


『残念だったな、炎陽の勇者 紅円寺 斎こうえんじ いつき! 俺様はあくまで因果そのものであり、宇宙の深淵の意思でもある! テメェが仲間に家族をいくら思おうが、俺様の役目はそれを阻止する事――』


『それがテメェの同胞がしでかした原罪を起因とするならなおの事、俺様は看過はできねぇぜ!』


 すでに光学視界に映らぬ距離へ連れ去られる、俺の大切な家族に友人。

 なのに俺は、このマサカー・ボーエッグの駆るデスブリンガーに阻まれ前へ進む事すら叶わぬ状況――


 故郷の惨状を差し引いても、焦る気持ちばかりが募っていた。


いつき君、焦ってはだめ! このマサカーを凌がなければ、どの道私達の故郷に危機が及ぶわ!』


「分かってるっす! けど……――」


 悲痛な通信がセカンドコックピットより響き渡る。

 冷静を装う綾奈あやなさんの声……けど彼女だって同じなんだ。


 綾奈あやなさんにとってのお袋は、同じ志を目指すと言う以上に大切で、敬愛する存在なのは知っている。

 そしてそのお袋の働きがあったからこその今、霊装機セロ・フレームパイロット神倶羅 綾奈かぐら あやなだ。


 民間人である俺の友人までもが巻き込まれる事態に、いても立ってもいられないのは彼女の方だった。


 幾度も交わす剛腕の衝突。

 しかし均衡が取れている様に見えて、マサカーが遊んでいるのは明白。

 奴のデスブリンガーは、何をどうしたらそうなるのか分からないけど、以前の会敵からしても二周り以上の機体サイズ差が発生している。


 そこから生み出される剛腕の破壊力は、必殺性を有するのは確実だ。


「相手をしている暇はないって……言ってるだろーーーっっ!」


 魂が急いていた。

 これほどの攻撃の隙を見て撒くなんて、正気の沙汰ではない。

 それにこんな強敵が、そんな事を見逃すはずなんてない。


 焦るばかりの俺の拳は、奴の攻撃を受け止める事で精一杯となっていた。

 けれど――


 そこで想像もしていなかった事態が巻き起こる事となる。


 俺とマサカーが打ち合う場所から大きく距離を置く宙域。

 そこから一筋の閃光がほとばしるや、それが俺とマサカーの――ライジングサンとデスブリンガーの間へ割って入る様に突撃。


 そのまま超巨体の剛腕を受け止め、無数の対消滅の火花を散らし現れたんだ。


『……カカッ! 俺様は!』


「せ……戦狼!? まさか――」


 一瞬俺は気付けなかった。

 それは割り込んだ機体が、見たこともないもないモノだから。

 違う……それから、大きく変容した感じの荘厳なる出で立ち。

 、すでに存在していないはずだ。


 あの戦狼が駆る、臥双がそうと言う機体は。


『ボケっとしてんじゃねぇ、いつき! 行け……お前の成すべき事を成すために!』


「アーガス! でもその機体……!?」


『こいつは臥叡 狼餓がえい ろうが! あの臥双がそうの魂を継ぐ、俺の新しい拳だ!』


 驚愕する俺へモニター越しに咆哮を上げるは、かつて魂の決闘を演じた絆結ぶ男。

 この格闘家人生でも唯一にして最強のライバルである、あのアーガス・ファーマーだった。


 そう――この大戦の中、いの一番に俺の所へと飛んでくれていた。

 間違いなくこれからもライバルであり、そして最高の戦友になって行く存在が。


『お前との再戦の前に、このマサカーとやりあって鍛錬でも積んでおく! お前に救われた命でできる、恩返しって奴だっ!!』


「アーガス……! 分かった、ここは任せた!!」


 ライバルの熱きたぎりが俺の魂にさえも火を着ける。

 モニターに映る綾奈あやなさんも首肯で「行きなさい」と送ってくれた。



 ならばと俺は臥叡 狼餓がえい ろうがへその場を任せ、機体スラスターを全開にして飛んだんだ。



》》》》



 炎陽の勇者が足止めを食らう中、想定外の援軍がそこへ飛んでいた。

 漆黒革命師団ザガー・カルツ中でも最強クラスの死せる者デスブリンガーは、防衛軍では対等に渡り合える機体などほぼ皆無。

 事実上、蒼き霊機BSR赤き霊機ライジングサン以外に存在していなかった。


 だがそれと並ぶ機体が存在した。

 それが守護の天狼アーガスの駆る臥叡 狼餓がえい ろうがである。


 それを直感で理解する守護の天狼が、水の衛生エウロパ宙域へと飛ぶや機体をはしらせ、赤き霊機ライジングサン死せる者デスブリンガーが激闘を繰り広げる場へと馳せ参じていた。


「悪りぃが、少しの間俺の相手をしてもらうぜ!? マサカー・ボーエッグ!」


『……俺様と勇者の崇高なる戦いを邪魔立てするか、戦狼! だが……テメェの行動は、今まで部隊で聞き及ぶどの姿とも似つかぬ異常! いや……テメェは今、勇者への恩返しと吠えたな! そういう事か――」


「つまりは今までただ無駄な戦いを求め、彷徨っていたテメェじゃねえ訳か! カカッ……いいぜ、相手になってやるよ! あの恒星の如き拳士に並ぶ者! 言うなればシリウスと呼べる魂に免じてな!!』


「シリウスだかなんだか知らんが、これはあいつとの共闘って奴だ! 行くぜ、臥叡 狼餓がえい ろうが……いつかいつきを超えて行くための、肩慣らしと行こうぜっ!!」


 だが、そこに現れたのが以前までの戦狼と呼ばれた戦闘狂であれば、宇宙深淵からの使者をうそぶ深淵の狂気マサカーも相手にさえしなかったであろう。

 されど彼の眼前へ立ち塞がったのは、


 彼が戦狼を恒星シリウスになぞらえた現実からしても、拳を交えるに値する相手へと評価が改められたのは確実。


 故に、攻撃対象を戦狼改め天狼の駆る機体へと変更したのだ。


「俺といつきとの誓いの拳……持って行きやがれーーーーーーっっ!!」


『ハッハーーっ! 来やがれ、アーガス・ファーマーーーーーー!!』


 今まで赤き霊機ライジングサンとの激戦が繰り広げられた宙域で、入れ替わる様に赤銅の守護神臥叡 狼餓が激突する。


 それを尻目に炎陽の勇者は、親愛なる友人と母が連行される宙域へ。

 胸に勇者たる誇りと誓いをたずさえ、拳を交わした宿敵が時間を稼ぐ間に、何としても親しき者達を救い出すため。


 機体肩口へ国際救助の旗を掲げ、襲い来る無尽蔵に生み出される無人機を、砕き、穿ち、薙ぎ払いながら。


 さらにそこへ、彼を援護するべく気炎が無数に舞い飛んだ。

 言わずと知れた、救世艦隊クロノセイバーが誇る民間支援チームであるΑアルファフォースと、武装救命隊をたまわるセイバーグロウの一団である。


いつきっ、遅くなったわね! 騎兵隊の到着よ!』


『いいわね、騎兵隊! いつき君、頑張っちゃうから!』


『あら〜〜賛成だわ〜〜! 頑張る方向なのね〜〜!?』


「アシュリーさん、カノエさんにエリュトロンさん! では、目標地点まで支援願うっす!」


『礼はいらないわよ、いつき! これは私達の仕事……んじゃ、行って来いっ!!』


 モニター向こうで口角を上げる、女性を目指す者達。

 これまで多くの命を救い続けた救命チームが、ここぞとばかりに参集する。


『セイバーグロウは、武装機隊と救命艦隊で支援に当たります! いつきさん……前へ!』


「了解っす、クリシャさん! 俺達はこのまま、仲間達が連れ去られた宙域を目指します!」


 続くのは、特務大尉クリシャ救いの守護機マーリスを筆頭とした、武装救命機を駆り飛ぶセイバーグロウ。

 後方へ救命艦隊が誇るあかつきひびきいかづちに加えたヴェールヌイ、デカブリストが隊列組んで敵機体群を片っ端から薙ぎ払う。


『少尉、君の親しい友人と親御の命はその手にかかっている! 正念場だ……露払いは我らへ任せて翔べ!』


「工藤艦長、恩に着ます! 本当に……感謝しています!」


 宇宙そらへ飛び出し、多くを学びながら、数多の命を救い続けた格闘少年は、いつしか絆繋ぐ幾人もの仲間の支えの元勇者へと至った。


 その拳に誓いを。

 その背に同胞の命運を。


 それこそが、赤き霊機ライジングサンの力を無限に生む源。

 感じ取る鋼鉄の巨人が恒星の如き爆炎撒き、みなぎる力で声援へと応える。


 そして守りの声援を糧に、赤き巨人は前へ――



 復讐姫ユウハ決戦闘姫カーリーが迫り来る中で。

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