第268話 因果の激突!クオンとヒュビネット、宿命の戦い!



 その絶望の荒波を切り裂いたのは一筋の光。

 それも、多くの命を救うためと尽力した同胞への、溢れんばかりの恩返しであった。


 漆黒の嘲笑と呼ばれた堕ちた聖者は、腐敗した人類に絶望し、それを呪う様に滅びのゲームを巻き起こした。

 だがその謀略を尽くことごと乗り越えた救世艦隊 クロノセイバー擁する英雄 クオン・サイガと、勇者 紅円寺 斎こうえんじ いつきは、長き宇宙そらの旅路の中で数多の命を救い続けた。


 そしてその結果が、絶望を超える希望となり水の衛星エウロパ宙域へと集結を見たのだ。


「ああ、そうだ。そうでなければ……そうであろうよ! それこそがお前達! お前達はそうでなければならない! でなければ、――」


「さあ始めようか……俺達と言う時代の亡霊が呼ぶ戦禍と、それを防ぐため因果の荒波へと踏み込んだ者のゲームを! 最終大戦だ……俺が臨む時代を招来して見せろ、クロノセイバーっ!!」


 そして――

 漆黒ヒュビネットはそれさえも待ち望んでいた。

 否……彼は待ち望んでいたのだ。


 己を包んだいくつもの悲劇と、地上人類が生み続ける数多の地獄へと絶望し、堕ちた聖者は世界を塗り替える希望こそを待ち望んでいた。

 、もはや招来する事さえ叶わぬ未来のために。


 悲しき聖者は自らが愚かなる道化となる事で、それを呼び込もうとしたのだ。


「フレスベルグ、出撃だ……! 俺の意思に賛同せし者達よ、よくぞここまで無様なピエロを演じ切った! あとはこの戦いで、全てが決する!」


「奴らが敗北すれば、人類の命運は尽きたも同然……地上の呪いがやがて太陽系全てを飲み込み、人類最後の歴史は泥沼の闘争で滅びを辿る! だが……分かるな!? 我らこそが、! それが我ら、ザガー・カルツの目指す革命だっっ!!」


 深淵の宇宙そらへ響く咆哮。

 その咆哮へ呼応する様に、いにしえの禁忌の一欠である狂気撒く怪鳥が姿を現した。

 水の衛生エウロパ宙域より約10000の距離へ、光学的に姿を眩ましていた巨大なる影……救世艦隊クロノセイバーが誇る禁忌の聖剣キャリバーンに匹敵する禁忌の船 フレスベルグ。


 さらにそれを後方に置き展開されるは、傭兵部隊が駆る決戦仕様の砲戦騎クリューガー二機に、復讐姫ユウハ兵器狂いカスゥールが搭乗する決戦闘姫カーリー

 加えて、漆黒を心酔して止まぬ狂気の狩人ラヴェニカ復讐の女神エリュニスが、慕う存在を追う様に飛ぶ。


 そして、先頭を行くのは

 邪神 ナイアルラトホテップを彷彿させる、死せる異形デスクロウズへさらなる武装強化――

 四機の大型スラスターを含めた、最終決戦仕様となる禁忌の力をたずさえ部隊を率いていた。


 エイワス・ヒュビネット……全ての戦いの元凶であり、己の思うままに戦禍を引き起こした男が遂に戦線へと躍り出る。


 堕ちた聖者の声は、宇宙人そらびと社会への革命を願う同志へも届いている。

 それに反意を示す者などそこにはいない。

 彼らはそれこそを望み、彼の意思へ賛同し、革命の旗手として集っていたのだ。


 例え起こした行動が、社会の亡霊が引き起こした世紀の愚行とののしられようと、道化ピエロになる道を選びし彼らに迷いなどない。


 そうせねば、面社会へ引き摺り出せぬ真の悪意がそこにあるから。

 


『ヒュビネット隊長、全軍の準備……整いました。』


「ああ、了解した。分かっているな?ラヴェニカ。状況の転び方によっては、お前へ伝えた最後の命令実行へと移す。それだけは忘れるな。」


『……はい。私の全ては、あなたの思い通りです。』


 死せる異形デスクロウズの隣へと機体を進めた狂気の狩人は、覚悟を持って慕う漆黒の命を聞き届ける。

 切り揃えられた前髪の奥で、恋慕さえ宿し、眉根を寄せるも従う姿は健気そのもの。


 そうして彼らは、革命の旗を掲げて進軍する。


「ザガー・カルツ本隊はこれより、前線へと上がる! 己の信念と魂を懸け、見事道化を演じきって見せよ!」


『『『『おおおおおおおおーーーーーーっっ!!』』』』



 征く道の先が、史実にさえ残らぬ哀れな敗北へと繋がっていたとしても――



》》》》



 オレ達も目を疑う光景は、所狭しと宙域を埋め尽くした。

 絶望さえ過ぎった自分が情けなくなるほどに、それは誇らしく、勇気さえ湧き上がらせるモノでもあった。


 何の事はない……オレ達が今まで成し遂げて来た事へ、全てを懸けて恩返しに臨む者達で溢れ返っていたのだから。


『サイガ少佐! 引き連れて来た者達に後方を任せ、お主は成すべき事を成せ! すでにワンビアも感じておる……あの宇宙そらを揺るがす者達の気配を!』


紅真こうま皇子殿下……感謝の念に絶えません! その御心使いへしかと、戦いの終結を持って返して見せます!」


『礼には及ばぬ! これはワシの、皇族としての当然の努めじゃ! けっっ!!』


 全ての起点となったのは他でもない、事態を察し、速やかに彼らへ事を伝達するため残っていた皇子殿下の采配。

 彼の傍に付く星霊姫ドール達の能力も、もちろん関係しているだろう――が、それだけでは片付けられない皇族たる真価がこの奇跡を呼んだんだ。


 その殿下の後押しを受けたならば、もはや躊躇ちゅうちょしている暇などなかった。


『クオンさん! エウロパ宙域へ近付く新手を確認しました! 艦船規模の巨大質量と、複数の機動兵装反応……これは間違いありません!』


「ああ、奴らだ! 恐らくあの、ソシャール型殲滅兵装に隠れてこちらへ飛んでいたんだろう! だが、姿を現したなら臨戦態勢と見て間違いはない! ならばオレ達が成すべき事は唯一つ――


「終わらせるぞ、この戦いを! 全ての元凶は、エイワス・ヒュビネットをおいて他はない! 奴が率いるザガー・カルツ本隊の撃滅を以って、この木星圏宙域の安寧を取り戻す!」


『はい……行きましょう! これが私達、霊装機セロ・フレーム隊が成すべき事なら!』


 オレの決意の咆哮は、ジーナの覚悟さえも揺るがした。

 すでにBSRスピリットRを完全制御するまでに至る彼女がいたからこそ、オレはここまで来られたんだ。


 唯一心へ引っかかるモノがあるとすれば、それはあのエイワス・ヒュビネットが

 奴が口にした人類社会への絶望は、決して嘘偽りを並べ立ててのものではなかった事だ。


 けれどそれを考え出せば袋小路……成すべき事だけに全てを集中せねば、少なくともアル・カンデという人類の楽園は崩壊を見る事となる。


 迷いを捨て。

 心根を前へ。


 オレとジーナでここまで仕上げた蒼き禁忌を駆り、深淵を切り裂いて飛ぶ。

 目標はただ一つ――


 エイワス・ヒュビネットの駆る、Γガンマフレーム デスクロウズだ。


「これよりクオン・サイガ及びジーナ・メレーデンは、確認されたザガー・カルツ本隊……その中心であるヒュビネット機対応へ向かいます! 月読つくよみ指令、フレスベルグはそちらへ任せます!」


『いいだろう、行き給え! こちらでもすでに奴らを確認した所……そしてどう足掻こうと、あの漆黒は君達を狙い定めて来る! だから見せてやるがいい――』


『救世の志士としてここまで戦い抜いて来た、君達の真価と言うものをなっ!』


「了解っ! ブルーライトニング スピリットR……ライズアップっ!!」


 モニター越しの指令とも、今さら多くを語る事もない。

 数多の戦場を共に駆けた彼が、そんな事など必要ないと視線を送ってくれた。


 今までの感謝と敬意を敬礼へ込め、オレは前へ――


 かつて引き籠もり、8年もの歳月を無駄にしてしまった自分へと誇りながら、蒼き禁忌を従え気炎を纏う。


 大規模戦闘に特化させた、ツァイレードシステムの機関が一気に亜光速に届く加速を機体へ呼び、そのまま刹那に迫る無人機の群れをクインテシオン曲射ビーム砲群で薙ぐ。


 目指すは漆黒。

 目指すは、オレの因果を決定付けたあの男。


「エイワス・ヒュビネット、最後の戦いだ! この胸に輝くクロノセイバーの名の元に、お前との決着をつける!!」


『クックックッ! いいだろう……相手になってやる! 蒼き英雄 クオン・サイガ! 俺が計画したこのゲームの締めは、貴様との雌雄を決する事で全てが完結する! 超えて見せろ、この俺をっっ!!』


 待ち侘びたと通信をジャックするは因果の宿敵。

 上げた口角と狂気地味た表情へ、――



 オレと奴の、最後の戦いが幕を開けたんだ。

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