第257話 偉業は伝説となりて
火星圏宙域へと至る
複数成分を含有した膨大なガスが、刹那のエネルギー点火により生み出すそれが、広大な深淵のあらゆる素粒子との並行励起を誘発させ――
それが体内で爆発した200kmに及ぶ巨大な存在の、最後の咆哮かと思える次元の激震をバラ撒いていた。
同時に爆散する巨大な岩塊はさらに勢いを増し、四方八方へと散り散りになる。
が、そこで後詰めを任されるエリート達が、気炎を吐く
「各員、未だ岩塊のサイズは危険レベルA相当多数! ならばそれを、徹底的に砕いてリスクを下げる! 持ち出した
『『イエス、サー!!』』
共にあるはずの
その同僚達が背を守るならば、最前線死守は自分達の役目と気概に燃えるエリートがそこにいた。
「
「センサー反応計測を続行しろ! 彼らがここで終わるはずはない! 我らクロノセイバーの災害防衛ミッションは、彼らの帰還を確認して初めて完遂したものとする! ヴェシンカス軍曹は、クオン達への呼びかけを続けるんだ!」
「りょ、了解です! センサー反応計測、続行します!」
「各パイロットへの呼びかけ、続けます! こちらキャリバーン……サイガ少佐、
さらにブリッジでは、コメット=エクサ爆散の影響で吹き荒れる電磁波流の中、生存を信じて
常識で考えるだけでも、200kmに及ぶ超巨大小惑星を粉々に砕く膨大なガスの並行励起反応の爆心地――
その渦中へと突撃したとあれば、並の機動兵装では跡形もなく破壊されていてもおかしくはない。
だが……望みを捨てぬ呼びかけには訳がある。
それは言うに及ばず、コメット=エクサへと立ち向かったのが、古の禁忌と呼ばれた人類文明最強の型付き兵装であるからだ。
数分が数時間に感じる呼びかけを続ける
やがて、僅かに静まりを見た電磁波流と粉塵の爆散が光学的、エネルギー的な静寂へと移り行くその中。
ノイズ混じりの通信が、ブリッジで仲間の無事を祈る者達へと届く事となる。
『――ガッ……ザーザー――ちら、…イガ! こちらクオン・サイガ! 自分含めた、スピリットR及びライジングサンパイロットの無事を確認! 繰り返す……全員の無事を確認! コメット=エクサの完全破壊を以って、この作戦完了の宣言を!』
「……っ!? 指令、サイガ少佐の通信です! 良かった……皆無事やて……ホンマ良かった。」
「軍曹……まだ作戦終了の宣言を終えていない。安心するのはそれからだ。いいかね?では――」
響く声には、心身の異常も覗かせぬ覇気が宿り、通信回復によるパイロットのバイタルデータ全てがブルー……正常にて表示回復を見た。
即ち――
絶望的な突撃かに思われた任務で、全てのパイロットが生還を果たしたと言う結末であった。
「各セロ・フレーム及びパイロットを直ちに回収! コメット=エクサの災害危険リスクも、
災害防衛の志士達にとっての、長い一日がようやく幕を下ろしたのだった。
》》》》
その日火星圏では多くの力ある勢力が、数え切れぬ民の避難誘導に明け暮れ、降り注ぐかも知れぬ大災害に全ての意識を向けていた。
ただでさえ,火星圏宙域に住まう危険宙域全ての民退避と言う無理難題。
災害防衛作戦失敗による最悪の事態に備え、避難出来た者は全体で80パーセントに満たず――
そのまま行けば確実に、民の20パーセント……数千万人に及ぶ人口が被災する史上最悪の大災害へと発展する恐れさえ存在した。
「グランディッタ閣下! たった今、超巨大小惑星の完全破壊に成功したと……かのクロノセイバーよりの通信が! こんな……こんな事が――」
「ああ、全て送られたモニター映像によって確認しているよ。本当に……あんなものを破壊してしまったのには恐れいる。そして……彼らはすでに、火星圏を救済した英雄。もはや彼らへ、足を向ける事もできんではないか……。」
火星圏人民避難誘導のため、前線の危険宙域で陣頭指揮に当たっていた
実質彼女でさえ、人民の50パーセントを避難させられれば御の字であり、以降は火星さえも消滅すると言う絶望の中よりの復興を思考へ過ぎらせていた。
そんな彼女も、目にした奇跡の光景には歓喜以外の感情は皆無であった。
民の事を想う将軍としての真価が、そこへ如実に顕れていたのだ。
同時に、史上最悪の大災害回避がなった吉報は、瞬く間に火星圏全土へと響き渡り――
ある者は歓喜し、ある者は安堵の涙に濡れ……失うはずであった未来が守られた今に感謝さえ抱いていた。
「やってしまったわね、クロノセイバー。全く……未だにあなたが、あんな部隊と戦ってたのが信じられないわよ?ユー。」
「いや、うん……(汗)。正直それはあたしも思ったわ。けど……そんな部隊と共闘する道を歩んだのは正解だったと、今は思ってる。じゃなければ、あんた達にピエトロ街の子供達と、そして――」
「はい〜〜。私もここにおりますよ〜〜?ユーテリス〜〜。私も〜〜
「デイチェも同感。そしてみんなと共に、再び故郷の地へ降り立てる今に……乾杯。」
再起を果たした
その中核である四人が顔を見合わせ笑顔を零す。
そんな若き新星を見やる仲間達も、歓喜に打ち震えていた。
かの
『こちらSUD、スターチン・ハイマン特務少佐であります。議長閣下代理にして側近であらせられる、ルサルカ・ドル・ビアンテ大佐よりのお言葉があるそうです。』
「ハイマン特務少佐……分かりました。繋いで下さい。」
『ドル・ビアンテ大佐であります。此度はそちら、火星は旧マルス星王国の意思を体現せしアンタレス・ニードルへと、ハーネスン・カベラール議長閣下に変わり礼を贈らせて頂きます。火星圏の危機の最中、皆様が力を集結して人民の避難誘導に尽力してくれた事……誠に感謝します。』
「いえ……私達は、元々火星圏政府の横暴の前に何も出来ず……苦渋を舐めさされ続けた身。むしろ私達が、再起するキッカケを生み出してくれた、あのクロノセイバーにこそその礼を向けるべきかと。」
礼に自重。
それは双方が同じ思いである。
だがそんな者達を結びつけた者達こそが、今の災害防衛を成した瞬間を導いていた。
禁忌の力を奮う権利を与えられし、救世の志士達。
救世艦隊クロノセイバー達こそが。
その時より、災害危険レベルがC相当まで低下した微小惑星の危険も
災害警戒の完全解除を見る頃には、再び火星圏人民のほとんどを帰郷させられる様に算段を組み上げて行く。
ところが――
そんな災害回避の状況を憂いつつ、遥かな深淵を睨め付ける者がいた。
「解せぬ……。ここまでのあ奴の動きがまるで読めぬ。ワンビア……お主は何か、感じるものはあるかの?」
「殿下に同意。しかしながら、未だ大きな因果事象の畝りは見えず。ですが――」
「ですが、何じゃ。」
「はい……ここではない場所へ、とてつもない不穏が迫っているとだけ。」
皇室用高速艦内で、現在の出来事に留まらない大局的な事象に憂いを乗せるは
彼の振りへ、
それが指し示すのは他でもない、漆黒の嘲笑 エイワス・ヒュビネット率いるザガー・カルツの動向についてである。
護衛姫の言葉で深く逡巡した破天荒皇子は、速やかに通信を
「カツシよ、ワンビアが未だ不穏の気配を感じ取っている。だがこれは……これまでとはまるで比較にならん、事態到来を予見している様に思えてならん。」
『ボクも殿下やワンビアに同意します。ではこちらで、今回以上の万一に備えアーガスとも協力し――』
史上最大の災害防衛という、伝説的偉業を成し遂げた者達が賛美に酔い痴れる中、それは音もなく忍び寄っていた。
それを引き起こさんとする、エイワス・ヒュビネットと言う革命志士による歴史的大事件の足音が。
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