第254話 クロノセイバー、史上最大の災害防衛へ
火星本星宙域に留まらぬ、公転軌道上のあらゆる居住施設より、避難のために様々な艦艇が飛び立っていた。
時間的な猶予から、安全宙域へ到達出来るかはもはや賭けでしかない状況……それでもそれを成すため参じたあらゆる組織の有志が命を賭していた。
その状況を超広域レーダーで確認しつつ、すでに超巨大小惑星へ向けた航路を取る
一日の猶予もない状況での、作戦に必要な突貫工事を続けながらの進軍である。
「現在火星へと飛来する超巨大小惑星……これを災害コード〈コメット=エクサ〉と呼称する。そしてそのコメット=エクサを、今後展開する作戦で破砕する事となるのだが……そのデッドラインとなる宙域はここだ。」
「このライン通過を許してしまえば、もはやコメット=エクサの破砕に成功したとて、飛来する巨大な破片爆砕までの猶予など存在しない。つまりそれらが、爆砕をきっかけとしてより大きな超広域災害へと変貌する事をキモに命じておくんだ。」
小ミーティングルームへ詰めるは、作戦の要である
さらに、作戦により
それだけでも、今作戦が未だかつて無い大事件である事を物語っていた。
限れられた時間で、作戦概要を脳髄へと叩き込む主戦力達。
そもそも今までのものと比べるまでもなく、対象となる物のサイズが桁違いであり、デッドラインを越えた時点で災害防衛そのものが未達成となる恐れを考慮してのもの。
未達成に終わった瞬間、火星圏の同胞の命運が尽きる事を意味していたのだ。
「ではここからは、オレが概要の詳細を話して行くが……色々とあろう質問は後にし今は聞いて欲しい。まず予定した宙域へキャリバーンを待機させ、恒星間航行形態へと移行した
「そして、ドリル側の機関起動と同時に作戦を開始。キャリバーン側で、デュアル・クインテシオン・バスターをフルチャージしつつ、BSRは機関最大出力にて発艦。一気にコメット=エクサとの距離を詰めると共に、ライジングサンによるドリルの一撃を目標へ。」
映し出される火星本星を背に、デッドライン宙域へ据えられた旗艦とそこより二体の禁忌が、巨大なる目標へと突っ込むシュミレート映像。
そして――
「この間……実に数分と無い時間で、コメット=エクサ内部へ蓄積された高密度ガスへ、ロータリックリアクターより生み出された
モニターから一同へと移り行く英雄の面持ちには、並々ならぬ覚悟が宿されていた。
これより展開される作戦成功が何を意味するかを、思考で深く、正しく思案する様に。
『サイガ少佐、重要作戦会議中失礼します。ドリル・ブレイカーの調整とライジングサンへの動力ライン接続は完了しました。ですが――』
「ああ、承知した。もともと時間の猶予など無い作戦だ。セイブミッション予定宙域へ到達するまでに、
『いえいえ。この様な史上稀に見る、災害防衛へ関われたのです。まさに技術者冥利に尽きると言う物。では、残るキャリバーンのバスター側調整へと移行します故。』
言葉を交わす者は限られ、交わされる言葉も厳選したやり取りに終止する面々。
多くを語る必要などない。
それを成す彼らは宇宙災害防衛を生業とする、救世の部隊なのだから。
》》》》
事態を聞き及んだ時には、思考停止どころの騒ぎでは無かった。
だがなぜだろう……即座にそのため成すべき行動の全容が、思考へありありと浮かんで来たのを覚えている。
きっそそれはただの使命感だけではない、今まで
会議を続ける中も、キャリバーンは最大戦速にてセイブミッション予定宙域へ。
詳細を詰めたオレ達は、それぞれの機体で待機すると共に、作戦上必要なシステム再調整に勤しんでいた。
オレにとどまらない、ジーナに
これより行われる、人類史上でも最大規模となる災害防衛ミッションは一発勝負。
しかもそれを仕損じれば後がない、一回限りの大博打のような物だったから。
一度きりしかなく、且つ失敗が許されないなど、それだけでもオレ達へと伸し掛かる重責は桁違いとなっていた。
『
「あっ……と、そうっすね。皆さんの想いが、このホカホカオニギリに込められてるっす。」
『そうそう。お二人とも私達と違って、力になれる事は少ないと嘆いてたよ? だからこその、渾身のホカホカオニギリ……中の具材も大ぶりなとっておきを準備してくれたんだから。』
根を詰めすぎる
無理もない……作戦上鍵となるのはやはり、
さらには、先に一騎当千を成したとは言え、これから赴くは災害防衛……相手取るは人類へと降りかかる宇宙の業。
立ち向かう相手が人の悪意ではない点にこそ、
格闘家として悪意ある者を穿つのと、人類を脅かす災害に立ち向かうのとでは、覚悟のベクトルがまるで異なる。
それが一つの星系宙域に住まう、民全ての命運がかかるならなおさらだった。
目標であるコメット=エクサへと、亜光速に迫る激突の速度を生むのはBSRだが、その刹那、目標へ回転衝角の一撃を叩き込む役目はライジングサン。
詰まる所、この作戦の起点は
そんな彼へ、オレは今だからこそ送れる最大のエールを準備していた。
ここまで共に歩んだ後進であったはずの少年が、気が付けばてつもなく巨大になり、オレの背へと迫っている今。
きっとその言葉は、この
「
『あ……ありがとうございます、クオンさん。けど俺、やっぱり今になって手が震えて来ちまって……さっきから脂汗も止まらない。俺の行動に、火星圏人民の命運が――』
「大丈夫だ、
「君は、前を見るオレの背を守れる唯一無二の勇者。その誇りを胸に、いかな巨大な相手だろうとぶつかって来るがいいさ。」
準備していた答え。
何の事はない……たった一人で、不逞が指揮する大艦隊を迎え撃ち、何人たりとも弱者へその手を触れさせなかったのは彼。
あらゆる悪鬼から力なき弱者を守りし、恒星の如き勇者、
オレの言葉で、作業の手が止まるほどに呆ける少年。
直後、
弛まぬ研鑽の果て、死力を尽くし挑み続けた結果として刻み込まれていた。
ぐいとそれを拭い、再び視線へ輝き宿す姿は正しく勇者。
それを視界に入れ、もう大丈夫と判断したオレは残る時を作戦指揮の全てへと注ぐ事とする。
頼れる後進の晴れ舞台を成功に導けるか否かは、全て自身の前線指揮へと懸かっていたのだから。
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