第253話 絶望か希望か、火星圏民大避難作戦
時を同じくして、それらを
機に乗じて逃亡を計る独裁国家の主要陣営
「ああ、評議会の部隊も揃ったようだねぇ。こちらはグラジオスだ……っと、すでに准将として動いているゆえ、グラジオス・ローグ・ウーラニアとしておくかねぇ。」
『ローグ・ウーラニアっ!? それはあの、皇王国直属の――』
「いいからいいから。今はそういうの、時間ないんじゃないかい?マドモアゼル……ドル・ビアンテ大佐。」
そして中央評議会陣営へと合流するは
そして、火星圏の民避難誘導の要と言える
『失礼しました! ではすぐにそちらへ、評議会支援戦術部隊であるS・U・Dよりの使者を送ります故、火星圏人民の避難誘導をお任せします!』
「了解したよ〜〜。君達も聞いたね? ここが
『心得ております、グラジオス准将閣下! このセイバーグロウの名を与えられた我ら、武装救助隊……一世一代の活躍の場であります!』
『お堅いわねぇ、クリシャ。まあでも、気後れするよりはマシかしら。』
『なら私達は、部隊が安心して破砕任務に当たれる様、こっちの対応に尽力が必要よね?隊長。』
『あら〜〜。尽力は必須よねぇ〜〜。』
『分かってるわよ。准将、私達へ指示を。』
彼女らは民間出向であり、力なき民に被害が及ぶ場合は優先的にその救助・護衛へ当たる重責を負う。
故に現在、
後方へ数多の救うべき民がいるならば、彼女達の戦いの場は必然的にそこへと移されるのだ。
それらの元へ、避難誘導に協力するSUD側の一部隊が到着を見る。
そしてその隊長格の機体から放たれた通信映像に――
思わず男の娘大尉は声を上げる事となった。
『S・U・Dよりの使者として参りました、メンフィス・ザリッド大尉であります。が、現在監視付きの仮尉官である事を追加させて頂きます。』
「め……メンフィス!? あんた、なんでこんな所に……!?」
『アシュリー・ムーンベルク……しばらくぶりだな。なぜもない……俺もこの
訪れた隊長機には、かつて独りで最後まで抵抗を続けた地球上がりが搭乗していたのだ。
しかしその面持ちは、以前己の復讐に駆られた頃の面影などなく……紛う事なき民のために戦う軍人の誇りが
『俺は、心も……そして人生までもお前に救われた。だから考えたのだ。このまま燻っていて良いのかと。だから俺は来た。地球は最大の国家……米国の誇りをこの胸のエンブレムに刻み、力無き民のために戦う一軍人としてな。何より――』
火急の事態も、残る一言をと視線で懇願する
男の娘大尉も、ただその信念籠もる言葉を待っていた。
『何より……人命を守ると言う事に、差別の垣根などないのだから。ならばその行動こそが、亡き親友への弔いになると考えたのだ。』
「あんた……最高に良い男になったじゃない。なら期待させて貰うからね!」
あらゆる差別を凌駕する、人命救助の旗のもと。
少年を捨てた少女と、それに救われた男が首肯し合う。
もはやそれ以上の言葉など必要も無かった。
今危機に瀕する
あらゆる組織とあらゆる手段を持ちて、火星圏に於ける民の避難誘導が次々と開始されて行く。
》》》》
そこにはすでに、地上の政府革新派も
『ロッテンハイム准将、艦はまだ出せぬのか! このままでは我らまで、あの小惑星の餌食だぞっ!』
「只今随時、発艦をなしている所……あと少しは時間を頂きたい! (おのれ保守派め……すでに地上の革新派との対立関係など、意味もないと言う訳か! 好きに我らをこき使ってくれる!)」
ごった返す火星圏宙域は、火星の歴史上でも稀に見る航宙艦艇群が大挙し、しかし限られた退避経路を行くそれで渋滞を余儀なくされていた。
一見何もない宇宙空間も、主星崩壊と言う未曾有の危機となれば、数多ある宇宙航路のほとんどが使い物にならない。
故に、僅かに残された最短航路を用いて安全圏へ向かおうとするため、無数の艦で犇めき合う事態が導かれてしまうのだ。
それを踏まえた上で、安全圏にほど近い航路にSUDが艦隊を組む。
避難の時間敵猶予も鑑みつつ、逃げ延びて来る火星圏の不逞なる政治家に軍人を一網打尽とする算段であった。
「火星は地上の革新派と保守派が存在するが、すでにこの状況……対立の立場などどうでもよいのだろう。根底では、火星圏の民を我が物顔で支配したいだけの俗物集団と言う、浅ましい共通認識で結託していたのだから。」
「では、火星評議会議員に地上政府要人は罪の大小に関わらず、片っ端から重要参考人として連行する方向とします。加えて……ザガー・カルツを私設部隊として吐き出した、あのボンホース議長は――」
「ああ、ボンホース派に関してはそれには及びません。中央評議会への情報共有がまだでしたが……クロント・ボンホースという議員はハナから存在していないのです。それは途中から部隊へ復帰した電脳姫……ユミークル・ファゾアットが準備していた、仮想データ人格なのですから。」
「な……!? いや……かつてザガー・カルツに所属していたあなたの言葉なら、信に足るでしょうね。なるほど……しかしその様な事が。」
現在SUDを指揮する、臨時指揮官であるスターチン・ハイマン臨時特務少佐は、守るべき民さえも見殺しにする逃亡者らを睨め付ける。
彼がかつて漆黒の言葉に乗った根本要因が、今白日の元へと引き摺り出されているのだ。
その面持ちのまま、すでに過去である部隊情報を余すことなく漏洩し、それを聞き届けた
詰まるところ、漆黒の嘲笑こそが壮大な計画全ての起点であり、ボンホース派閥と言う組織さえもが彼のシナリオ上のコマの一つに過ぎないと言うのが真実であったのだ。
言うなれば、漆黒の計略とは一年単位のものではない、壮大な年月の中で組み上げられたものであるから。
それが
恐るべき先見性と知略にカリスマを駆使し、
嫌な汗を拭いながら事態を察した女性へ、首肯を返す銀髪の初老。
全ての結末は、今眼前で絞り出された
漆黒がいかな思考で事を起こしたかをさておいても、その状況を見過ごせるものではなかったのだ。
「今この火星圏では、あの様な社会の
「委細承知しました、スターチン・ハイマン特務少佐。あなたよりの情報は、後日中央評議会にてカベラール議長閣下と論議するとしましょう。なれば、こちらへ逃げ延びて来る者を一人たりとも、逃す事などできませんね。」
火星滅亡の危機が世界の
奇しくもそれは、漆黒の嘲笑の思惑通りである。
だがそれでも、世界崩壊が現実のものとなれば全て水泡に帰してしまう。
故に、太陽系の安寧を任された者達が、裁かれるべき者達を然るべき場所へ引っ立てるために動き出す。
それを嘲笑うかの様に――
超巨大小惑星は、火星本星までの距離を刻一刻と縮めていたのだ。
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