第252話 生まれた数多の正義は、力無き民のために



 火星圏滅亡の危機を目前に控えた宙域へ――


 事を聞き火急の事態と悟る破天荒皇子紅真は速やかに、近隣宙域トロヤ群へと、共にある調律騎士カツシ守護の天狼アーガスを従え飛んでいた。


 火星圏地上には紅蓮の将軍ミネルヴァが向かうとの事で、現在レジスタンスが展開している宙域をしらみ潰しに回る算段である。


「アーガス! 確かダイモスの民が擁する小ソシャールには、有事の際に使用可能なクロノサーフィング通信の設備が存在するはずだ! 君の駆る守護神 臥叡 狼餓がえい ろうがの格納されていた場所を確認するといい!」


『マジか!? なるほど……この機体はかつての星王国時代以前から存在した機体! そこにロスト・エイジ・テクノロジーに纏わる設備があるなら、合点も行く! なら俺は、ダイモスの民への警告と避難護衛と合わせて、其処まで殿下をエスコートすればいいってやつだな!』


「ああ、そちらは任せた! 火星は地球よりも小さいとは言え、民の故郷は宇宙空間と言う広大な深淵各所にまで版図を広げている! その規模の生活圏を前にしたなら、手分けしてあらゆる通信手段を用いてでも事に当たらねば万事休す! では殿下!」


 各宙域への緊急伝達とし、古の技術体系ロスト・エイジ・テクノロジー遺跡を有するダイモスの民の元へ守護の天狼を向かわせる調律騎士は、宙域でも災害危険度が高いヶ所を担当する事とした。


 皇子側へ天狼を付かせる事で、ダイモスへ到着後速やかに、古の技術使用のもと火星全宙域への強制超々広域通信を断行する。


 それにより、火星圏の民が避難出来る時間を少しでも稼ぐための効率化でもあった。


「うむ、カツシは危険宙域を! さすればアーガス……我が同志となったお主の気概――今こそこのワシに知らしめて見せい!」


『当然ってやつだぜ! 俺がいつきから学んだのは、……辿!』


「アーガス殿、良き気概。星霊姫ドールとして生きたワンビアも、久方ぶりに生命の誇り高き姿を目撃。感謝……そして応援する。」


 守護の天狼はすでに、破天荒皇子の懐刀である。

 言うなれば、彼の様な民のためにと身を粉にする同志が増えれば増えるほど、


 それぞれがしかるべき場所へ飛ぶ一方、己をかえりみぬもう一つの勢力が、火星圏宙域でも衛星軌道上となる火星評議会ソシャールへの到着を見ていた。


「お待ち下さい、グランディッタ将軍閣下! 戦いの前線維持を放棄し、全軍もろとも撤退して来るなど……これが総大将ともあろうお方の――」


 大戦の最中に舞い戻った総大将には、評議会さえ驚愕していた。

 保守派が大部分を締める評議会であるが、戦線に出ていた大将が戦闘放棄し、あまつさえ全軍まとめて撤退して来た事態に困惑を顕としていた。


 が……彼女を制止する議会員を睨め付ける紅蓮の将軍ミネルヴァが、タッパでも確実に上の議員襟首へと掴みかかった。


「つまらぬ問答は無用だ! これよりこのソシャールに詰める議員に宇宙軍の兵は、稼働可能なあらゆる移送手段を以って、可及的速やかに宙域全ての民の避難誘導に当たれ! 避難出来る場所は限られるが……最低でも火星主星より大きく離れた、安全宙域へ向けた避難だ!」


「な……あなたは一体、何を仰っているのですか!?」


 鋭い剣幕の将軍を尻目に、事態が全く飲み込めぬ議員。

 そこで将軍よりも一足早く、ダイモス宙域への到着が叶った破天荒皇子より――


 火星圏どころか、宇宙人そらびと社会の歴史上でも千年来となる、正式運用による高時空間跳躍クロノ・サーフィング通信を通し、火星評議会は愚か火星地上全ての連合国所掌へ届く事となった。


『火星圏に住まう民を防衛せし全ての機関へと告げる! これは宇宙人そらびと社会を代表する、ムーラ・カナ皇王国よりの緊急にして強制令であると心得よ! 問答する時間はない……皇王国は第一皇子である我、新帝之赤真之尊あらたのみかどのあかまのみことが命ずる――』


『火星本星へ今、人類史上でも類を見ぬ超巨大小惑星が迫り、それが本星への衝突コースを取っている! 事を事実か否と論議する間をかなぐり捨ててでも、!』



 崩壊の序曲が……古の技術によって、赤き戦神の大地へと鳴り響いていた。



》》》》



 響く凶報は、火星地上を率いるアレッサ連合諸国をも揺るがした。

 しかしそこで、あろうことか政府に属する者が凶報を真実と知るや逃亡し始めていたのだ。


 、政府に属する要人がこぞって、政府専用星間運行シャトルで宇宙へと溢れ出していた。


「見えるか……これが、火星を我が者顔で支配していた政府の本性だ。私達は、この様な俗物に祖国を奪われ、虐げられ、それらが齎す戦火で多くの愛する民まで焼かれたのだ。」


「はっ……。これはあまりにも無残な仕打ち……さすれば我らは、如何ように?」


「聞くのか?それを。この私に……。」


 次々飛び立つ政府要人シャトルを双眸に捉え、憂う面持ちで語る影は遥かな赤き大地を視界に入れる。

 側に立つ切れる気配の男性と、そこへ付き従う者達も、放たれる言葉を今かと待ち侘びていた。


 次いで、切れる気配の男性から漏れ出た言葉に反応し、振り向く憂う影は双眸へ覚悟を宿す。


 それは女性。

 華奢ながらも、無理やり刈った感の拭えぬ短い金色こんじきの頭髪が、男性の力強さを思わせる彼女は

 さらに肩口へ、ドクロの刺繍が刻まれた黒と赤のマントをひるがえす姿は――


 ――宇宙海賊――


 そして彼女らが立つそこは、全長200mに迫るであった。


かしら……いや、殿。俺達へ命令を。いつでも我らは、あなたのために尽くす所存。』


「分かっている、皆まで言うな。君達は今まで、私をアレッサ連合諸国の魔手から守り続けてくれた。その絆は、言葉にせずとも分かるよ。なら――」


 艦艇甲板上の、海賊のかしらと思しき女性を王女殿下と呼び称した声は外部通信。

 程なくそれを発した巨大な機動兵装が、、艦艇甲板と肩を並べる様に着地する。


 機影は火星圏でも一部の者しか存在を知らぬ、古代技術の一欠……である。


 かしらと……そして王女殿下と呼ばれた女性はマントを舞わせ、眼前で排圧を伴い開かれるコックピットハッチ――二人乗りであろうそこへと乗り込んで行く。

 直後――


 彼女の声があらゆる火星の機関へ向け、国際オープンチャンネルによって響き渡る事となったのだ。


「現在火星に居を構えし、力を有するあらゆる勢力へと告げる! ムーラ・カナ皇王国皇子の通信にあった通りの現状を知るや、すでに火星圏を支配していた連合政府のお偉方は、己の身の可愛さ故に逃亡を計っている! ならば今こそ再興の時――」


「力ある者は、それを弱者を救うすべとして奮え! この火星に降り注ぐ滅亡の危機を、我ら力ある者と民との協力の元乗り越える! 圧政に苦しんだ民も、それを課した者もない……それらが手を取り生き残るしか手段はない!」


 高らかに響く声。

 凛々しく、それでいて幼さも残るそれが、やがて声を聞く全ての者へ


『殿下……おお、真に王女殿下であらせられるか!』


『やはり情報は確かであったか……。貴方様のご帰還を、我ら新生アンタレス・ニードルも待ち望んでおりました。』


「ミネルヴァ……そしてソウマ。君達の武勇は、幼いながらに聞き及んでいた。よくぞ今まで、この火星圏を支えてくれた。感謝するよ。」


『お初にお目にかかります、王女殿下。私は現在アンタレス・ニードルを纏めるヨン・サと……父やソウマ叔父様がお世話になっております。』


「うん……顔合わせは初めましてか。ジェミニ・アンタレスの噂は知っている。この火星が、全て連合政府の手に落ちるのを防いでくれてたそうだね。」


 国際オープンチャンネルで相次ぎ応答するは、現在火星圏へと集う正義の志士の声。

 紅蓮の将軍ミネルヴァが、そしてサソリ隊を支えた新旧の頭目が、モニター通信越しで再開を喜び合う。


 集う顔ぶれを一望した、新たな世界到来を願い咆哮を上げる。

 マルス星王国復興を懸けた、命懸けの戦いに望む宣言を。


「我が家族〈リベリオン海賊団〉は、かしらである私の声を聞け! 現時刻を以って我 フレア・リベリアは、正統王家の証を冠したフレノイア・マルス・マーシャデルを名乗るものする! ミネルヴァ将軍率いる宇宙軍と、レジスタンスと共に尽力した新生 アンタレス・ニードルと共に立て!」


「火星地上と宙域に住まう、力なき全ての民の避難と護衛……マルス星王国の名の元にそれを熟して見せよ!!」


『『『イエス・マムッ!!』』』


 奇しくも文明を滅亡に導く絶望が、赤き戦神の地へ団結の力を呼び起こした。

 事を見守る破天荒皇子紅真の――



 、羨望の眼差しが降り注ぐ中で。

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