最悪の大災害は宇宙の業となりて

第251話 史上最大の災害防衛作戦発動!



 火星圏文明の存亡を懸けた災害防衛作戦会議が、禁忌の聖剣キャリバーン内の小ミーティングルームにて、関係各所の統括者臨時招集の中協議される。


 しかし現実としては、もはや不可能とも言える事態回避を目的とした作戦であり、さらにはそれを詰めるだけの時間さえも惜しい切羽詰まる状況であった。


「現在各データ観測に関わる情報網を総動員し、決定的な対策を洗い出している所だ。だが――」


 差し迫る滅亡を前に、行き詰まる旗艦指令月読も眉根を寄せた。

 銀嶺姫フォーテュニアから提示された内容からしても、たった一つの望みを導き出す事さえ至難の技であったから。


 問答さえも袋小路に陥るミーティングルームで、思案していた英雄少佐クオンが口を開 く。

 そして紡ぎ出された一筋の光明が、徐々に防衛作戦立案の道筋を顕として行く事となったのだ。


「ミューダス軍曹。あの巨大小惑星の含有データと、その分布詳細は確認できるか?」


「……はい、一応の小惑星全体のスキャニングは熟していますので。こちらです。」


 少佐の声で、一時は彼への淡い恋心さえ抱いた真面目系軍曹トレーシーが、かかる声に応えねばと手早く詳細データをモニター群へ映し出す。

 そこには、超巨大とされた小惑星……その内部へ含有される各物質と分布図が記されていた。


「クオン……これは普通の相手ではないわ。ここまで巨大な質量物質となると、表面にいくら強力な量子振動を持つ高収束火線砲を集中させても、弾かれるだけ――」


、これを破砕する事なんて間違っても無理よ?」


「ああ、それは百も承知だ。現在BSRスピリットRではクインテシオンブラスターが……そして旗艦には、高集束対艦砲となるデュアル・クインテシオン・バスターがある。としても、こんな物量を砕くにしろ逸らすにしろ、無謀にも程がある状況だ。」


 双炎の大尉綾奈の、最もな言葉へ首肯する英雄少佐。

 が、例に出した各種兵装の出力総数を睨め付けるその視線は、ではない――

 を睨んでいた。


 その睨め付ける英雄へ、崇拝する存在の言葉を借りた男の娘大尉アシュリーも同意を漏らす。


「お姉さまの言う通りよ?クオン。こんなの相手にしては、いくら私達がこれまでで、ありえない奇跡をいくつも体験してきたからと言っても――」


「違うぞ?アシュリー。奇跡は、それは訪れる。転じて……、奇跡と言うものは俺達に微笑んでくれないものだ。」


 大尉としても、あまりにも常識からかけ離れた作戦ゆえ、気概はあるも糸口の見えぬ今へのもどかしさを言葉へ乗せていた。

 しかし英雄は、そんな心境さえ揺るがす様な切り返しを口にし、彼の思考する非常識とも言える対抗策概要が次いで語られる。


綾奈あやなにアシュリーが危惧する通り、こんな規模の巨大質量……普通に考えれば破砕するなど不可能と言えるだろう。だが、これを見てほしい。巨大小惑星と言えど、。故に――」


「ミューダス軍曹が導き出してくれたこのデータ……? 場所によっては、それがガス溜まりとなり、さらに広範囲へと分布している。」


 導かれる解。

 彼が言わんとする答えへ、誰もが導かれて行くが――

 それでもその時点では、英雄少佐の描く前代未聞の作戦概要に、辿り着ける者は皆無であった。


 そこで視線を移す英雄少佐と、作戦の意図を伝えられ、すでにしかるべき行動に移っていた挑戦する老齢サダハルが変わって声を上げる。


「只今サイガ少佐が仰った点は、単純に提示されただけでは概要の根幹にさえ辿り着けぬ事でしょう。なのでこちら……すでに少佐よりの依頼後、速やかに進めた必要とされる各種兵装一覧と共に、作戦概要をご説明致します。」


 英雄の提案へ驚愕の後、たける想い宿した挑戦する老齢は、必要な物の準備にかかっていた。

 そうして映し出された、各種兵装概要を目にした一同が――



 二人の思考へ描かれる、辿り着く事となったのだ。



》》》》



 あらかたの反応は覚悟していた。

 それは事実上、……けれどそれしか手段がない故の作戦概要案だったのだから。


「待て、クオン! これは……仮にこれしか無いとは言え、この兵装各種を用いた作戦では君達――!? それを分かって言っているのか!?」


「当然です。しかしそれ以外に、奇跡を手繰り寄せる手段などない事も、月読つくよみ指令ならば理解しているでしょう。」


 月読つくよみ指令が、一同の思う所を代表して苦言を放つ。

 誰もがそう思考したのは、オレでも確認できた。


 けれどそれ以外無い事も、みなが理解しているからこそ、オレはここで意見を貫く事とする。


 視線でマツダ顧問へ合図を送り、首肯した彼からの詳細説明が進められた。


「では、詳細説明を進めます。現在BSRスピリットRには通常戦闘用の本機と、後に追加換装予定であった、恒星間巡航 高速艦艇兵装である〈コスモ・ツァイレードシップ〉が準備された状態であり、すでにキャリバーン艦底接舷ブロックへ運搬済みであります。加えて――」


「こちらは本機の心臓部となるローリックリアクターの、修繕用にあつらえた予備リアクターですが……少佐の要望によりこれを臨時に転用。それにより、リアクター単機へいくつかの追加装備を備え完成を待つ、単独運用可能な〈超振動共振式 クインテシオン・ドリル・ブレイカー〉として準備を整えている最中です。」


 あの地球生まれである奇跡のエンジンは、回転エネルギーを直接取り出せる機構を持ち、規模にエネルギーが大きく異るBSRスピリットRも本質の所で共通している。

 その機構だからこそ、リアクター本体で生み出す三種のエネルギーに加えた、第四のエネルギー形態である重力子エネルギーの同時生成と平行励起を可能としているんだ。


 そこで、、急遽生み出されたのが共振機構を備えた回転衝角……即ち、対小惑星削岩用ドリル兵装と言えた。


 しかし――


「ただ構造的な問題点として、回転機構より直接エネルギーを取り出す機構の関係上、本来重力子グラビトンエネルギーを発生する第二次リアクターセクションをオミットした形となってしまう。時間的な観点からも、それを用いたシステムの全体的な構造変更を成すだけの猶予が、微塵も残されていないとの判断でもある。」


 リアクター本体である偏芯遊星回転ローター機構部を第一セクションとし、回転エネルギーから重力子を反応生成する第二セクションを有する機関。

 その機構を、ドリル兵装に合わせて大改修を行うには、時間的に見ても猶予などない今。


 そんな現状を、映像を見やりながら追加するオレは、視線を移した。


重力子グラビトンを生み出すセクションがない状態で、統一場クインティアを安定的に高次元励起させる手段……君ならば理解に足るな?いつき。」


「はい、分かるっす。つまりそのクインテシオン・ドリル・ブレイカーへ、……って事っすね。」


 不安しかない一同の中で、覚悟を宿す面持ちが視界へと映り、同時に見た事もない凛々しさで返答する勇者がそこにいた。

 

 紅円寺こうえんじ学園在学にして紅円寺 陽善こうえんじ ようぜん暁 咲弥あかつき さくやの血脈と信念受け継ぐ、神童と呼ばれた天才格闘家。

 数々の窮地を乗り切り、宇宙の深淵とうそぶく、大自然の驚異が命を持った様なマサカーと幾度と切り結び……そして耐え抜いた我が部隊の恒星の如き者。

 先のアーレスリングス防衛戦では大艦隊を相手取り、一騎当千を体現した奇跡の勇者――


 紅円寺 斎こうえんじ いつきが何を躊躇ちゅうちょする事なく、オレの言葉へと応じた。


 参集する一同も驚愕する少年の、決意みなぎる返答へ返すオレは、続く言葉で自身のみならず……共にある魂達の覚悟も同時に察する事となる。


「その通りだ。だがあの巨大質量……地球の地上で言う所の、海洋に浮かぶ巨大な島国規模のそれを、ただ削岩する体では危機回避も絶望的だ。だからこの宇宙そらで、。即ち――」


「追加兵装 コスモ・ツァイレードを換装した形態のBSRスピリットRへライジングサンをドッキングさせ、目標へと激突させる。オレとジーナ、そしていつき綾奈あやなを含めた命懸けの突撃を皮切りに、小惑星内部ガスを起爆・並行励起させるための、キャリバーン対艦集束砲による全力砲撃を以って、目標を分断破砕するのが今作戦主眼だ。」


 息を呑む音さえ聞こえる静寂が、ミーティングルームを支配する。

 ……しかしそれが何を意味するかを知るが故の静寂が。



 オレ達が火星圏に住まうあらゆる民を救う手段は、もはやそれ以外に残されていないのだから。

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