第250話 襲い来る滅亡を回避せよ!
観測者に仕えし人ならざる姫達より告げられた、火星圏文明史上最大の危機。
それは火星本星壊滅と言う、計り知れない被害の全容であった。
しかしその被害は、実質本星に留まらぬ周辺宙域全てへと広がる、
そもそも火星圏宙域を代表する、フォボス・ダイモス衛星国家を初めとしたトロヤ群宙域諸民族らは、火星公転軌道上に位置する各ソシャールを故郷としている。
しかしそこで本星が失われる事となれば、重力バランスが崩壊し全ての物質が公転軌道から弾かれる。
そうなれば万事休すであり、流民となった民は
さらには、
周辺に浮かぶものを悉く破壊し、止まることなく降り注ぐ星の残骸が人類へ恐ろしき牙を剥くのだ。
『以上が、我らクロノセイバーが得た情報の全容です。状況はまさに火星圏の存亡のかかる事態……よって関係各所へ連絡のうえ早急に、火星圏全宙域に向けた避難勧告発令と、それに対する支援作戦発動を強く推奨させて頂きます。』
「……なんと言う……! 火星圏政府は、この事態に今まで気付かなかったとでも言うのか!?」
『お気持ちは察します。恐らく火星圏政府には、
火星政府の目先の利益優先思考から来る、民として持つべき宇宙に対する危機管理能力が皆無であった現実に、酷く……酷く絶望していた。
固く閉じた双眸のまま、僅かに逡巡した紅蓮の将軍は目を見開いた。
だがその開かれた眼には、今までの火星圏政府操り人形ではない――
かつて火星地上安寧を目指し建国された、マルス星王国を守護せし最強の騎士を
「……クロノセイバー代表たる
「ミネルヴァ・マーシャル・グランディッタは火星圏の飼い犬としてではない、今はなきマルス星王国が誇る騎士長としての、然るべき行動を取る事とする。」
『心得ました。そのお覚悟、期待させて頂きます。』
「うむ、世話になった。むしろそちらこそが、ここより最大の試練となる。だが、全てが失敗に終わったとしてもワレらは貴官らを恨む事などできはしない。貴官らクロノセイバーはすでに、未曾有の大災害に立ち向かう英雄だ。では、救いの英雄達に武運を……。」
二人の代表の言葉で、火星圏の抗争へ新たな道筋が誕生していた。
火星圏文明存亡の危機を前にした彼らは、
本来それこそが、人類と言う
新たなる希望を宿した
しかしそこより紅蓮の将軍は、火星圏政府の言いなりになる
そして――
抗争の中心であった宇宙軍完全撤退と同時に、それよりも遥かに重大な危機である未曾有の大災害回避への対応とし、救いの艦隊に属する志士達が集結する。
力なき民の、遥かな未来安寧を信じて。
》》》》
そんな中――
「久しぶりの顔合わせが、こんな事態只中になっちまったな……
『仕方ないさ。でも、安心したよアーガス。あんたの心が、正しい方へ向いてくれていて。』
「俺はまだ敗北者のままって奴だ。お前が言うほどに成長出来たかは分からねぇ。だが今は、それを成す前にやらなきゃならねぇ事があるな。」
すでに破天荒皇子の同志としての気概昂ぶる
が、宿命のライバルとなった
やり取りは僅か。
彼もすでに理解している。
今この時、彼にしか出来ぬ事があり、そしてライバルである勇者にしか出来ぬ事があると。
モニター越しで武運を祈り合う二人の拳士は、多く語らずとも互いの成すべき今へ心を向けていたのだ。
「
『ああ、アーガスこそ。じゃあ……また。』
画面を挟み突き付け合う拳で、二人は互いの覚悟を感じ取った。
事を見守った破天荒皇子と
彼らの役目は、未だ未曾有の事態到来を知らぬ、宙域にいる全ての火星圏民族への避難勧告提示とその支援に護衛。
広大な
そう思考するや、監視団は深淵へ光塵を撒き消えて行く。
残される
一方――
『無人ドローンの情報は、クロノセイバーを動かしたと思われます。そろそろ我らも幕引きが必要かと。』
「ああ、頃合いだ。宇宙軍が敗退の後、全軍退却して来るだけでも、奴らは度肝を抜かれ思考停止する事だろう。それ所か、巨大小惑星の飛来で火星圏が滅亡の危機に立たされているなど……もはやあの、アレッサ連合率いる政府の巻き返しは絶望的だ。」
「なにせ奴らは、その存在に今の今まで気付けずにいたのだ……社会からの批判は、国家を傾けるレベルにまで膨れ上がること請け合いだ。」
光学迷彩によって浮遊岩礁に偽装するソシャール規模のドックと共に、微速移動させつつ宙域に潜むは、
『おいっ、ヒュビネットよぅ! いい所で尻尾まいたと、ウチの聞かん坊が暴れて手が付けられねぇ! どうにかならねぇのか!?』
「少し待たせろ。もうじき、その聞かん坊も泣いて喜ぶ戦場へと飛ぶ算段だ。だがタイミングを見誤れば、全ての策が瓦解する。その分はお前がなんとか抑えておけ。」
『ちっくしょう、了解だ! って……オイ、聞いてたんだろスーリー・スゥオルキー! 少しテメェの機体調整でもしながら……こ……このアマっ――』
『うっがーーーっ!! あたしはまだ暴れ足りねぇんだよっ! 戦わせろーーーっっ!』
怪鳥の機動兵装格納庫では、早すぎる撤退で戦いの機を奪われた
同じ部隊であるはずの
苦労人隊長の脳の血管も、そんな事態にはブチ切れる寸前でもあった。
纏まっているのかいないのか……しかし着実に、目的遂行のための進路を取る革命隊。
そのキモと言える巨大要塞――ソシャール型殲滅兵器調整に終始している
「そろそろ調整が整う頃だな?フランツィースカ。ソシャール要塞全体の起動準備が整い次第、ディス・クロノサーフィング航行の準備だ。生憎とその高時空・恒星間航行システムは、ロスト・エイジ・テクノロジーでも後発……
「一度にサーフィングさせられる個体数に、費やす膨大なエネルギーと、それぞれ無理の効かぬ限界がある。こちらの合図で、持ちうる全ての無人機動兵装並びに無人戦闘艦隊を、順次サーフ・インする算段としろ。」
『……クククッ、いいぞ? 私がそれを成せばいいのだな? この、人類史上類を見ぬ、文明殲滅兵装群の侵攻を。』
「
漆黒の通信へ答える悪意の女官は、どこか視線も覚束ない。
だが受け答え自体は理路整然とする。
否――
普通の人類では決して悟る事が出来ない、空間さえ歪めるドス黒い情念が女官を包み始めていた。
「(すでに心身は浸蝕が進んでいるか。地上は草薙家での文献とやら……あの八年前の事件以降に入手した情報では、アレこそが人類の闇の深淵を成す根幹――)」
「(魂を浸蝕する命の深淵、〈ヤマタノオロチ〉を構成する膨大なる負の情念。そのオロチに囚われた生命は、すでに生命としての寿命さえも終焉を迎えていると。そう……あのフランツィースカは、もはや死んでいるも同然だとな。)」
漆黒の脳裏で、悲惨なる悪意の女官の最後が確定付けられる。
そんな悪意の権化たる存在を内包した
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