第245話 蘇る星王国の誇り
戦況へ激変を呼んだ救世の使者らの獅子奮迅は、あらぬ所で強敵の火種を生み出していた。
敵無人機動兵装が今も続々発艦を続ける宙域へ、一足先に踏み込んだ
が――
そのまま敵本陣へと突撃をかける勢いであった
「……っ!?
「これは正規軍のデータベースには存在しない、奴らの隠し玉である可能性が高い!」
『こちらも確認しました、隊長! その筋が一番正しいでしょうね! しかし……機体がいくら高性能だとて、我らもエリートを名乗る身! そう易々と手折られる訳には――』
『おい、待て
敵陣中央、護衛である艦隊からも突出し現れた機体に、
それもそのはず……複数の機体を従え現れたのは、エリートの駆るシグムントを一回り巨大にしたかの深紅の機体。
その肩口には、火星宇宙軍将官の証が堂々輝いていたのだから。
人型を成す上半身に、下半身へ換装された大型スラスターを備えるそれは、救いの部隊切ってのエリートの行く手を遮る様に進軍する。
さらに直後、エリート達をも驚愕させる通信が、将官クラスの搭乗するであろう
『クロノセイバーに属する兵へ! ワレの名はミネルヴァ……ミネルヴァ・マーシャル・グランディッタ! この火星圏宇宙軍の総大将を任された者である!』
「な……総大将自らが戦火のど真ん中へ突出だと!? 正気か!?」
『正気も正気……むしろ貴官らの戦いが、曇ったワレの眼を覚ました所だ!ならばその目覚めた所、何をおいても一言貴官ら救世の部隊へ、詫びを入れるべきと馳せ参じた! 詫びてすむ話ではないのだろう……なれどそうせねば、この胸に再び燃え上がった元星王国騎士団長としての誇りが許さぬのだ!』
さらに続く言葉に、エリート達も驚愕で我を忘れかける。
今まで遭遇した火星圏の不逞なる輩など置き去りにする様な、込められる裂帛の気合は堂々たる名将の証。
その咆哮に含まれた元星王国騎士団長との言葉に、エリート達は合点がいったとモニター越しの首肯を交わす。
「なるほど……つまりはかの星王国解体後に、火星圏宇宙軍を任された者! そしてその星王国の意思を、今もその胸へと秘めたる将であると! では私も、名乗らぬままでは失礼に当たりますな!」
「こちらはクロノセイバーへの、アステロイド帯宙域は中央評議会出向……クリュッフェル・バンハーロー大尉であります! 総大将……つまりは将軍閣下とお見受けするが――その様な心持ちで相対した閣下より送られる詫びとやらなら、無下にも出来ますまい!」
『
エリート部隊を前にし、正々堂々構える深紅の巨体より、モニター越しで向けられたのは……謝罪。
それも先に、
それも戦場の只中へと躍り出た、敵軍総大将の口からである。
その時……火星圏で混迷を極める戦況へ、一陣の風が吹いた。
キッカケとなったのは、火星宇宙軍総大将が自ら出向き、蛮行への謝罪を提示した事である。
》》》》
堂々たる名乗りからの謝罪。
それが敵軍をまとめる総大将より送られた事実は、すぐさま救いの部隊を総括する
しかし、
そこで旗艦指令は窮地であるならば兎も角、双方が正々堂々の名乗りを上げた状況ならと、敵方総大将との件を
かの隊長が、
「敵方総大将が名乗りと謝罪、だと!? ……くっ……こちらは今手が離せぬ! バンハーロー大尉、そちらを任せる!」
『委細承知! 今どの戦闘宙域でも、部隊隊長格は手に余る状況……こちらはお任せを!』
旗艦指令の采配にしたり顔を返す鉄仮面の部隊長は、伊達に
混迷を極める戦場だからこそ、その経歴を高く買う指令よりの命へ、最大の敬意を以って応える事とした。
「グランディッタ将軍閣下、あなたの謝罪の意は我が部隊をまとめる指令殿へとお伝えした! これは今後の火星圏との関係へ、一石を投じる事となろう!だが――」
「今この時点では、あなたは引けぬのだな!? それを確認しておきたい!」
『そうか……謝意が届いたか! 仲介役に重ね重ね感謝する! そして貴官の申す通り……ワレは現時点で、火星圏政府の操り人形でしかない! 故に、一部の信ある配下の身を案じたならば、すぐに動くこと叶わぬ実情が存在する!』
すでに双方が、何を以って今を解決せねばならぬかを理解している。
そのための最終確認を取る様に、互いが言葉を交わし、共に覚悟を確かめあっていた。
「ならば話が早い……! 閣下自慢の機体性能と、星王国騎士団長を勤め上げた機動兵装乗りの腕前……我らで試させて頂くとしよう!」
『王国が無かろうと、明日を信じて磨き続けたワレの誇りを汚さぬ配慮……どれほど感謝して良いか分からぬ。いいだろう……この瞬間はワレ――ミネルヴァ・マーシャル・グランディッタと言う、一介の機動兵装乗りとしてお相手
「尋常に――」
「『勝負っ!!』」
裂帛の気合が混迷の戦場を引き裂いた。
双方譲れぬ戦いであるからこそ、引かぬ体で相対する。
しかしそこには、火星圏に
大柄な体躯で猛然と宇宙を駆ける
それを辛くも回避するエリート部隊は、隊長機を基軸とした隊員二人の、絶妙なコンビネーションによる三位一体が体現されていた。
そのエリートの息の合う連携へ、
彼女の
「パボロ! 閣下の操縦技能と機体性能は、今までの雑魚など遠く及ばない! 貴官の支援砲撃を主軸に撹乱する!」
『了解でさぁ! こちとらも、腕がなりますぜぇ!』
「
『いいですねぇ……乗った! これより電子兵装によるクラッキングを開始! 目標は、ミネルヴァ閣下以外の敵兵装全体……クラック開始!』
強烈な突撃からの、多連装重火線砲に加えた実体弾の弾幕は、エリートが集結する
だが鉄仮面の部隊長は、それを交わすどころか相手取る敵大将の背後――そこを脅かす不逞の非道を封じる策に出る。
将軍の騎士道を汚す事無く、さらには救いの艦隊として取るべき行動を成して見せる。
見せ付けられた、一介の兵にするにはあまりにも惜しい器に、紅蓮の将軍も感嘆の中接敵した。
「ワレの騎士道さえも
「クリュッフェルと申したな! 貴官は
『称賛はありがたい所です、グランディッタ閣下! が、 私は一人で己の実力を誇示する様な傲慢は持ち合わせておりませぬ! 隊員である
「ならば貴官が誇る、小隊名を聞かせよ! これほどの戦いを繰り広げられる勇士が集う小隊の名を、ワレの脳裏へと刻んで置きたい!」
巨体から繰り出される高集束火線砲の嵐と、近接するや見舞う実態弾幕の嵐。
さらには近接用の機体固定式大型ビーム・ザンバーが、エリートの連携を崩さんとし、幾度となく見舞われる。
それを寸でで交わしきる三人には、紅蓮の将軍も賛美の嵐を贈らざるを得なかった。
崇高なる戦いの中、かの火星と言う国家で元来重んじられて来た、戦いは人類の精神を高める儀であるとの精神が呼び起こされる決戦で――
紅蓮の将軍は、己と相対するに足る部隊の名を問うた。
「お望みとあればお聞かせしよう! 我らは
投げられた問いへ、返す鉄仮面の部隊長は迷わず口にする。
自分たちが誇る小隊名を……共に掲げる理念と共に。
評議会出向であったクリュフェル・バンハーローと言う男は、すでに救世の部隊の掛け替えのない一員となっていたのだ。
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