第244話 激化する戦火と動く火星騎士道
すでに機動力で互角を演じる二機の戦いは、これまでの
だが、正気を疑う戦闘を演じるそれぞれの負う制約の全容は、ままならぬ現実を突き付けて来ていた。
「機体のブラックボックス開放と、あの蒼いカトンボとの変形合体による運用……不殺などという大層な矜持は兎も角、そこは想定など軽々越えて来たな英雄とやら! 現状、デスクロウズの最大出力運用には制限があるのは承知済み……ラヴェニカ!」
『はい!こちらに!』
その制約直撃を受けるは
彼は先の英雄を堕とした戦闘の際、同時に機体制御上で己の肉体限界を越えた経験を有している。
元来禁忌に準える機動兵装群は、人類の覚醒者搭乗が必須と言う重き制限を課すが鉄則であり、覚醒者へと至らぬ漆黒は肉体限界を越えた中での機体運用を行った。
しかし実質、先の襲撃は上限を見極めるための物であったのだ。
「この機体での、肉体負荷を考慮した最大性能発動限界は三分だが、断続的な運用なら十分は持たせられる! その間はお前のエリュニスでの、火線砲支援を中心に戦う! あちらもパートナーとの二人乗りだ……お
『……了解! 私はヒュビネット隊長のお側に! 私こそが、ヒュビネット隊長の……!』
最凶を駆るための、己の負荷を考慮した上限値――
漆黒はそのために、側近となる
すでに間に合わせている
「やはりあちらは、あの砲撃支援機体が出て来るか! ストラフレーム・エリュニス……ラヴェニカ・セイラーン搭乗の機体との連携攻撃――」
「ジーナ! 奴は恐らく、機体上へ何かしらの制約を受けて戦闘に望んでいるな!」
『私も感じています! 先の襲撃で見舞われたクラウソラスと呼ばれる兵装は、現状70パーセント程度の威力でこちらを
その導かれた解により、少佐も本来の性能を限界まで引き出せる霊機が、同等の戦いを演じられると結論付ける。
そうして宿命の戦いは激戦に次ぐ激戦へ。
すでに英雄と漆黒の機体が見せる機動性は、宙域の全ての戦略兵装のそれを凌駕していた。
さらに加えられる
常軌を逸した戦いを尻目に歯噛みし、己の目的しか眼中になき者が、機体の気炎を上げる事となる。
》》》》
英雄と漆黒、
己のウチに眠る復讐心を燃え上がらせる者が一人――
あの
『っておい!?この復讐女! お前、こっちの作戦行動を無視してんじゃ――』
「あなた達がいれば充分でしょう! 私は私の目的を果たすまでよ!」
『ユウハの分は俺が動くとしよう。それで充分だろう?ニード・ヴェック。』
『……ったくどいつもこいつも! 好きにしやがれ!』
当然
そして彼らへ与えられた新型機である、マーズ・ノエイラ バーンズハック隊長機であるバーンズハックSを、今もレジスタンスが抵抗を続ける宙域へと向かわせた。
「さあ、お前の復讐心とやらが奴らを上回るか見せてみるがいい。あの赤いのへと至る前に、その障壁となる者が間に合うだろうがな。」
兵器狂いも通信切断を特に気にする事もなく、自身の駆るバーンズハック汎用機の兵装を構えたまま、復讐姫の行方を光学映像で追っていた。
途中遭遇するレジスタンス機をこともなげに無力化して行く様で、彼がただ者ではない点は明らかである。
かつて
無人機群から暁型艦隊を護りつつも、復讐姫の動向へ最大の警戒を置いていたのだ。
「あんの横槍根暗サイコパス女……またバカ
『あらま〜〜凄い言われ様ね〜〜! 相変わらず自分の黒歴史は、棚の上へとぶん投げるわね隊長!』
『あら〜〜ぶん投げたわね〜〜。』
「うっるさいわね! つか、くそ……無人機が次から次へと! これじゃ、艦隊防衛線から離れられないじゃない!」
が、影の動きを察するも視界を埋め尽くす無人機動兵装の数が、減少したかと思えば後方より際限なく湧き出る惨状。
一度は愛欲を向けた勇者と、敬愛する大尉への援護もままならない戦況に包まれていた。
そこへあら方を聞き及んだ計らいが、あの紳士なる
『少しの間にだけどね、翡翠色の救世者の噂は聞いているよ?マドモアゼル。ならばそうだね……そちらの二人のマドモアゼルには、私からダンスのお誘いをと思うのだが、いかがかな?』
『あら、私達が
『あら〜〜私がマドモアゼルなんて〜〜。確かに無粋はいけないわね〜〜。』
「ちょっ……あんた達、何言って――」
『ああ、良いんだよそっちは。セイバー・オブ・ジェイダイトを戴く君は、今何においてもやらねばならぬ事がある。違うかな?』
通信が向けられたのは、
状況を悟る二人も、戯けた准将の意図を汲むや空気を読む方向とした。
愛しき家族たる男の娘大尉が、
『行って来なさいな、アシュリー・ムーンベルク!』
『それが私達の隊長よ〜〜。セイバー・オブ・ジェイダイトの生き様〜〜見せて欲しいものだわ〜〜。』
「カノエ……エリュ……ふふっ。あんた達には負けたわ。それとグラジオス准将閣下……お心遣いに感謝します。では……!」
『ああ、行ってくるといいさ。君が与えられた称号に恥じぬ戦いを見せるためにね〜〜。』
モニターへ映る家族を一瞥し、戯けた准将へ
「ユウハ・サキミヤ……前に言ったはず! あんたは、
咆哮と共に愛機へ鞭を入れる男の娘大尉。
魔改造された愛機が、主の想いに呼応し気炎を撒いた。
それを後塵に変え
かつてやりあった、復讐に駆られた女性と、復讐で己を焼き焦がした少年であった少女が再びの戦火を交えたのだ。
「きさ……ま!またしても邪魔てを! この女々しい男女がーーーーっっ!!」
「それはこっちのセリフでしょうが! この横槍根暗サイコパス女! あんたこそ、二人の戦いを邪魔させるもんですかーーーーーっっ!!」
四つの腕部から振り抜かれる超振動ブレードの斬撃。
それを受け流しながら接敵する近接格闘対応の双銃。
宿命の戦いに水を差させまいと、
それを視界に止めた戯けた准将が、二人の女性を目指した者達を従え暁艦隊護衛へ。
すでにあらゆる意思と信念がぶつかり合う戦場は、拮抗し、互いがそれなりの消耗を刻んで行く。
しかし火星圏政府宇宙軍側は、そこへ介入する二大勢力の前には数以外に勝れるモノが存在していない。
故の消耗戦の雰囲気が漂い初めた頃――
戦況へ睨みを利かす力が、火星宇宙軍本陣で動きを見せ始めていた。
》》》》
その報を聞き付けた火星宇宙軍は、後方に陣取っていた部隊を動かしていた。
そこで一際目を引く機動兵装が、一団引き連れ宙域を征く。
『閣下……後方本陣は私めにお任せ下さい。閣下の騎士道精神を、どうかこの宙域で……。』
「皆まで言うな、アトライ。我ら火星政府軍の侵略に、あのレジスタンスらはよく持ち堪えた。そこへかのクロノセイバーまで介入するとは。ザガー・カルツと交える奴らの戦力は、見ただけでも想像を絶する。なのに私は――」
「かつてマルス星王国の騎士団長を担ったはずの私、ミネルヴァ・マーシャル・グランディッタのなんと不甲斐なき事か。このまま後方で呆け、己の恥を塗り重ねるだけの戦いなどもはや我慢ならぬ。」
部隊の先陣を切るは、なんと宇宙軍の総大将である女性。
星王国時代、騎士団長まで上り詰めた火星圏が誇る騎士の中の騎士。
しかし今の彼女は、火星地上はアレッサ連合政府の手足でしかない。
それでも――当の本人は、そんな屈辱に耐えられぬ所まで来ていたのだ。
『ストラフレーム・インフェルノ〈ズォルツ・シュベルト〉の調整は万全です。あなた様の思う様にお使い下さい。』
「無茶を言ったなアトライ。では……ミネルヴァ、出陣する!」
彼女は部隊先頭を行く、ストラフレーム ズォルツ・シュベルトと呼称された機体へと搭乗していた。
機動兵装としては、蒼と赤の霊機を始めとする機体より一回り巨大な体躯。
だが大きくそれらと異なるのは、機動兵装としての脚部を巨大なスラスターユニットへと換装し、背部へと伸びる大型スラスター型の巨大な武装が二対備わる様相。
各部へビーム火線砲となる砲塔を多連装で備え、近接武装による戦闘と長射程集束砲射撃を熟す、純宇宙運用型戦闘兵装。
地球地上は北欧神である
今、火星圏が誇る騎士道が戦場を視界に捉えた。
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