第243話 違えた道、そして目指したモノ
バラ撒く威圧はベクトルを意とするも、深淵を揺るがす狂気は総じて桁が外れ、その狂気をまともに受ける
が――
『また会ったな、炎陽の勇者! どうだ……俺のデスブリンガーと、やり合うだけの技は身に付けて来たのか!?』
「ご期待に添えるかは分からないけどな! 俺だって負けっぱなしはごめんだ! 来い……深淵の闇とやら!」
モニター越しに叩き付けられた狂気に耐える勇者の面持ちは、今までとまるで違っていた。
それこそ今までの彼が持ち得た、正義の使者たる凛々しい雰囲気から変化する、決死の覚悟を纏った修羅の如き
その変貌を、
『ハッハー! どうやら口だけのようじゃないらしいな、炎陽の勇者! いいぜ……この
振りかぶる鉤爪の速度も重さも、
機体サイズ差から来るリーチに加えた、超常の性能で翻弄し――
彼が
だが……それを受ける炎陽の勇者は屈さない。
否――
「その攻撃一つ一つは、前以上に重く強力だ! ただの格闘家が一人でそれを受け止めようなんてのは、きっと傲慢なんだろう! けどな……この恒星の如き
屈する理由など無き勇者が咆哮を上げ、それに呼応する双めの炎が双眸をギラつかせた。
「てめぇ……そいつは!? そうか、クァーーッハッハ! 楽しませてくれる!」
『あら、それは格闘家冥利に尽きるわね! 面と向かっては初めてでしょう……私の名は
応えるは機体の二つ目の機能……炎陽の勇者が愛しき人となった存在へ贈った、彼女を
ライジングサン・ブレイズと呼称される戦闘スタイルから繰り出す、三神守護宗家が誇る古流式 対人・対霊災討滅戦闘術の御業が炸裂した。
今までとはうって変わる格闘スタイル――
拳の打撃と体術からなる攻撃から、蹴脚技と近接からの急所を撃ち抜く殺意の一撃は、狂える凶拳をさらなる
「そうだ、それでいいんだ人間! すくなくともテメェらは、ちゃんと自身の力量を弁えてやがる! ただの人の殴り合いなら、正々堂々も悪くはねぇ……が――」
「相手が
そこで繰り広げられる戦いは、すでに白兵戦同士……機動兵装同士の範疇を凌駕する。
太陽系に突如現れたもう一つの恒星と、その膨大な力を吸い取らんとする超重力源の激突である。
周囲でそれらを標的にしてしまった無人機動兵装が、二つの驚異の激突が生む余波で破壊されて行く。
もはや高次元の聖戦場と化した宙域へ割り込める物など、どこにも存在していなかった。
蒼と漆黒、そして赤と深淵がぶつかり合う火星圏政府の勢力圏。
そこでさらなる力の激突が聖域を形作る。
機動兵装の戦いに劣らぬ激戦が、
》》》》
目にも映らぬ速度で接敵する蒼と漆黒。
周囲全てを爆熱させて激突する赤と深淵。
そこから大きく距離を置いた宙域では、かつての対艦戦闘を彷彿させる大質量同士の戦いが導かれていた。
「機関出力80パーセントを維持! 奴にボクスター・ヴォルテクサーを撃たせるな!」
「了解です。曲射対空砲座、全砲門斉射……ニーズヘッグの制宙圏を奪取します。」
「
「やはり敵に回れば恐ろしいな、元家族であった火器管制及び武装データ収集管理担当者は!」
全長400mを超える巨艦と、それと同等の質量を有する巨艦。
それらが、先の近接対艦戦闘を警戒し距離を取る構え。
そこからの遠距離砲撃の弾幕が宙域を鮮烈に焼き焦がす。
共に
放たれる艦砲射撃の何れもが、火星圏政府の用立てた艦隊群に致命打を与える驚異。
すでに一度交えたとは言え、叩き付けられる殺意の艦砲射撃へ同じく艦砲射撃で対向する
一方――旗艦の制御中枢を、ヴァーチャル
「味方にいれば有能なブリッジクルーも、敵に回れば厄介この上ない! あれだけの禁忌の力を制御する能力は伊達ではなかったと言う事か! だが――」
「私が生み出した、マーダー・プリンセスの方が一枚上手だ! 地球が生んだ偏った文明の進化の中でも、これは特別……人類の娯楽と言う欲望の中で皮肉な劇的成長を成した半自立ヴァーチャル制御機構――その腐った人類の欲望の成れの果てを思い知るが良いっ!」
漆黒は多くの文明が戦争を中心に発展し、やがて残りカスとなった残滓が民へ届くと吐き捨てたが、何もそれだけが人類を
力なき民が日々の生活の中で、より良き文明の進化を求めて止まないのは人類の秘めたサガであり、しかしそれを全て善行へと向けられる人類は一握りである。
地上の聖なる書物を初めとした世界のあらゆる戒めには、善なる者と悪なる者がいるのではなく、万民全ての内面へ等しく善悪が存在すると記される。
つまりは、手にした文明を善行に使えるか悪行の手段にするかは、霊長類たる人類個々の判断に委ねられるのだ。
地上人類が生んだ技術で統制される禁忌が、深淵の
対艦主砲と舞い飛ぶ
「残念だが、伊達にこの艦の操舵は任されてはいない……。相手が何者であろうと、このロイック・フリーマン・ハイデンベルグは就いた任務を遂行する――」
「貴官の様な……その身を引き裂く悲惨な人生など、これまで死ぬほど味わって来た。侮らないで頂こうか!」
火星圏政府の用立てた勢力は、数的有利を不動とのものとする自動兵装建造に特化するが、それは相手取る勢力が戦力的に大きく劣る場合にのみ有効とも言えた。
それを表す様に――
巨艦の戦闘の傍らで獅子奮迅を見せる、武装化により本来の力を開放した
巨艦ほどの大きな的は、機動兵装による襲撃をまともに受け不利に
数だけに特化した無人機動兵装など、デストロイヤーの名を関する駆逐級の敵ではなかった。
「ヴェールヌイ、デカブリストは
『了解であります、工藤中尉! これよりヴェールヌイ、及びデカブリストは
かつて地球の海洋で猛威を奮った、
大規模機動兵装戦と艦隊戦の入り交じる戦況はまさに大戦。
その中核となる
違えた道を歩みながらも、同じく見据えた理想を招来するそのためだけに。
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