第242話 抑止的武力介入!火星圏の安寧を取り戻せ!



 木星圏までの道のりから比べるまでもなく近い火星圏は、臨時改修を成した禁忌の聖剣キャリバーンが有する星間継続航行能力を持ってすれば造作もなかった。

 天文単位で言う所の、地球から太陽までの距離より遥かに短い火星圏は、その外縁にあたる木星圏からの距離は気が遠くなる程の数値である。

 さらには小惑星アステロイド帯内縁からの航行である事を鑑みれば、物の数ではなかった。


 だが――

 その宙域へ到達した救いの艦隊クロノセイバーを足止めするのは、宿


 人類が伸ばした宇宙そらの生活拠点の至る所に、火星圏政府軍の魔手が忍び寄っていたのだ。



 禁忌の聖剣キャリバーンを旗艦に戴く救いの艦隊クロノセイバーは、敵勢力に対する戦略的陣形として武装化し標準的な駆逐艦戦力へと昇華したいかづちと、地上は不逞なる露軍より離反した・露軍の指揮するヴェールヌイ、デカブリストを配置する。


 機動兵装の主軸は蒼き霊機ブルーライトニング赤き霊機ライジングサンを中心に、ΩオメガフォースとΑアルファフォースを。

 加えて、すでに共闘の意思を表明している調律騎士クラウンナイツ グラジオス准将の駆る〈ウーラニア・バサースト〉。

 さらには戦略武装を纏った白と赤の武装救助隊〈セイバーグロウ〉が、ウォーロック特務大尉の駆る〈マーリス〉を先頭に、各隊員機を追従させる形となっていた。


 数としては、物量にモノを言わせる火星宇宙軍の末端部隊と、比べるまでもない少数精鋭。

 しかしメインとなる機動兵装を駆る者達は、危機的状況をいくつも乗り越えて来た歴戦の猛者だ。


 故に……部隊が戦場へ突入した時点での勢力図が、大きく塗り替えられる事態が発生していた。


「メーデー、メーデー! 支援はまだ届かないのか!? 奴らは……事の首謀者のザガー・カルツは何をしている!」


『奴らはアテにするな! 先日もあの地球の成り上がり移送中、移送隊が謎の襲撃を受けている! 情報によれば、現在あのヒュビネットに雇われる傭兵隊とも情報が入っている――』


『こちらより、スーパーフレーム隊が到着するまで持ち堪えさせろ!』


 混乱の渦中にあるは、火星圏宇宙軍の最前線部隊が舞う宙域。

 ラグランジュ2トロヤ群浮遊岩礁帯を資源元にする小部族ソシャール団が、今も宇宙軍によって支配される地帯である。


 そこで、反政府レジスタンスがなけなしの抵抗をする戦況が一変。

 物量にモノを言わせた無人機動兵装の壁が、瞬く間に切り崩される事態など、火星政府勢力陣営は全く想定などしていなかった。


『こちらバンハーロー! 敵無人機群左翼はすでに無力化した! これより部隊中枢への突入を開始する!』


『同じく右翼……私達も片付けたわ! どうするクオン……こっちもクリフ大尉に続く!?』


Ωオメガフォースはそのまま突入を! Αアルファフォースは一端戦線を下げ、後続の艦隊護衛に付いてくれ! この戦線へ、ザガー・カルツが首を突っ込んでくる可能性への対処だ!」


『なるほど、それなら仕方ないわね! Αアルファフォースはセイバーグロウ艦隊護衛に付きます!』


 その戦況を一変させたのは言うまでもなく、火星圏戦禍への抑止的武力介入を開始した救いの艦隊クロノセイバーによるもの。

 英雄少佐クオンとしても、すでに数度の宇宙国際法に基づく戦闘中止と武装解除を勧告した所、それを突っぱねた火星宇宙軍が予告もなしに攻撃を始めての今である。


 無差別に放たれる攻撃は、宇宙軍の中でも過激派に属する旗印を機体に掲げる者達から。

 組織内に於いて、穏健派軍部の動きの鈍さに業を煮やした戦闘狂達が配され、穏健派を巻き込んでの国際法逸脱である。


 それはすでに、火星圏穏健派軍部のメンツさえも地に叩き落とす蛮行でしかなかった。


 一見すれば救いの艦隊クロノセイバーが援軍に駆け付けた事で、反政府レジスタンスが巻き返しを図る戦況。

 だが当の救いの部隊側は、常にその戦場のさらなる状況悪化へ気を張っていた。


「ジーナ! この宙域に不穏の気配が漂っている! 漆黒の気配だ!」


『はい、感じています! こちらでも、エクちゃんによる索敵限界域を広げてみます!』


「任せる! いつき……奴が来るなら、君が相手取る強敵も便乗するだろう! 油断するなよ!?」


『了解っす! 伊達に綾奈あやなさんの地獄の指導……受けてないっすから!』


後で話し合う必要があるわね、いつき君! そう……後で話し合う――これを絶対忘れずに挑みなさい!』


 蒼と赤の奇跡を駆る、四人の霊装セロの騎士が覚悟を確かめ合い――



 直後その警戒通り、恐るべき強敵へと変貌した漆黒の革命隊ザガー・カルツ襲撃が敢行される事となる。



》》》》



 戦場に着くや確認された敵総数は、先のトランピア・エッジやプラーミャ・リボリーツィア戦の兵力が赤子に見える規模。

 宇宙人そらびと社会でもこれほどの大規模戦闘を成すのは、恐らく千年前の滅亡大戦以来初めてだろう。


 オレ達は今、そんな戦場のど真ん中へと突入していた。


「前衛に展開する無人機動兵装群の数は、有人指揮官機の場所さえ不鮮明にする! これだけ落としても、まだ総数の半分にも至らないとは、火星圏政府も正気の沙汰ではない! それに――」


『クオンさん! 索敵限界を広げた所、少なくとも敵旗艦前方に陣取る護衛艦隊は師団規模です! 中でも、無人機を際限なく排出している航宙兵装空母は驚異かと! あの空母には、古代技術の中に3Dプリンタを超高性能にした感じの、簡易建造施設があるのではと推測します!』


「ヒュビネットの嫌な言葉を思い出すな! 以ての外だ!」


 肝心のザガー・カルツもお目見えしない状況で、レジスタンスを圧倒する戦力を投入する火星圏政府。

 その戦争に飢えた感覚にはヘドが出そうになる所だ。


 そんな戦況分析を熟しつつ、無人機を片っ端から叩き落とし、レジスタンス側が態勢を立て成す時間を稼ぐ。

 クロノセイバーは、国際救助法に於ける行動に終始する必要がある。

 火星圏政府へ投降を呼びかけ続け、戦場を広げぬ様に取りなさねばならない。

 


 そのため白旗を上げた機体は速やかに、セイバーグロウを急行させ投降者が戦火の巻沿いになるのを防がねばならない。

 幸いにも、その際セイバーグロウに及ぶ危険が、ウォーロック特務大尉率いる武装救助隊の存在で、大きく低下を見る現状。

 残る危機を呼びかねない点へ、オレ達前線の霊装機セロフレーム隊で最大の警戒を張っていた。


 が、過ぎたる警戒が無駄になる事は、皮肉にも存在はしていなかったのだが。


『火星宇宙軍陣営の逆方向に、巨大質量を確認! 各フレーム隊は警戒されたし! サイガ少佐、来ます……ザガー・カルツがっ!』


「っ……来たか! 了解、キャリバーンもフレスベルグとの戦闘に備えてくれ!」


 警戒の中、旗艦より飛ぶ通信が部隊へ一層の緊張を呼ぶ。

 巨大質量の存在は言うまでもなく、奴らの旗艦であるフレスベルグ。

 さらにはすでに感じる深淵の如き負の意識が、否応なしにオレの感覚をひりつかせている。


 そこにいるんだ……


 ヴァルキリー・ジャベリン各機の制御をジーナのオペレートに任せ、警告のあった宙域を睨め付ける。

 が……存在を晒したとて、そこへ簡単に先手を取らせる奴らではなかった。


「高エネルギー反応が来る! キャリバーンは防御を!」


 距離にして10000の場所より、あらゆるセンサー反応越しで警告を叩きつけるそれは、フレスベルグの主力兵装である対向重粒子渦淵反応砲ボクスター・ヴォルテクサーの一撃。

 超々距離から周辺にいる全てを巻き沿いにする破壊の閃条は、何度も目にした驚異の一つだ。


 しかし今の奴らは、それだけではないはず。

 あの漆黒が……油断なんて欠片も出来るはずはない。


 今回は、こちらの通信より前に反応していた月読つくよみ指令の指示で、閃条相殺を確認した。

 対フレスベルグ戦のために間に合わせた、禁忌の聖剣と称された力の一端であるデュアル・クインテシオン・バスター照射を横目に――


 自分でも最高の警戒のまま深淵を……それも高次元の霊的な膜宇宙ブレーン・スペースを視た。


いつき……そちらにデスブリンガーが行く!マサカー・ボーエッグ――」


 感じる巨大なる深淵は二つ。

 もはやそれが何であるかを考える必要もない。

 そう思考し、同じ警戒を張っていたいつきへ通信を飛ばしたオレへ――


 あのロックオンしたことさえ悟らせぬ、狂気の一撃が降り注いだ。


『もうどの様な機体強化だろうと驚かんぞ?英雄とやら。……相手にとって不足はない。』


「……やはり来たか、エイワス・ヒュビネット! それはこちらのセリフ……グラディウスシシリーズを、破壊の権化になど堕とさせない! 相手をしてやる!」


 現れたるは漆黒。

 深淵の如き黒色の機体へ緑色の発光部を各所に備え、禍々しき六連装アイカメラ部が狂える邪神を彷彿とさせる、デスクロウズと銘打たれた機体。


 綾奈あやなが言う所の、邪神ナイアルラトホテップがそこへ顕現したかのそれへ、奴は搭乗している。


 すでに抜き放った、これまた緑色に発光するブレード一体型の高エネルギーライフル。

 奇しくもブルーライトニングに似通うその武装を双腕へと纏い、背部のクラウソラスと呼ばれた狂気の兵装と共に訪れた。


 けれど抜かりはない。

 こちらもガン・エッジを抜き接敵する。

 ジーナのしたり顔をモニターで確認したオレへ、Ωオメガが行けると咆哮を上げているから。


 奴は恐るべき驚異を手に入れたかも知れないが、こちらとてそれに劣らぬ得物を手にしているんだ。


「エイワス……ヒュビネットーーーーーっっ!!」


『クククッ……!来い、救世の英雄……クオン・サイガ!』


 火星圏全宙域を巻き込んだ戦禍の只中で――



 再びオレは、因果が齎した宿命のライバルと相対する。

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