第239話 宇宙の戦乱の弓引く者
火星圏――
帝国後発となる文化世代である、レムリア大陸文明とアトランティス大陸文明が融合した国家形態を有していた。
三文明は共に滅びを迎えたとされる現在だが、しかしそれは地球地上での話であり、それら文明の血脈は一部を残し
一説とし、地球という大地で栄えた文明が、必要以上に環境へ負荷を負わせたための、休眠期間を設けた形であると
そして、
高位なる者による管理制限がなされたラ・ムー時代の超技術と、管理者なきままで乱用されたレムリア・アトランティス時代の超技術体系として――
言うに及ばず、そこに居を構えるは政府の改革派にも穏健派にも属さぬ勢力。
この
が――
悪意の女官は、明らかにそれらと異なる扱いでの同行となっていた。
すでに小ソシャールドックへの係留待つ
現在この部隊で、漆黒からの命を部隊に飛ばす役目を持つ、
「いいか。ここでの準備は、火星圏での戦い以降に必要な物と捉えておけ。現宙域では奴ら火星圏政府からの膿を出し切るに止める。むしろその後が肝心……そこであの、フランツィースカとやらを起用する。」
「当然そこに同志などと言う概念は加えておらんから、お前達は案ずるな。あの女には、最終最後の汚れ役を負ってもらうつもりだ。」
淡々と紡がれる作戦概要を、二人の狂信的な崇拝者は口も挟まず静聴する。
実質内面では
それが漆眼前ならばなおさらであった。
そして提示された、漆黒による作戦概要プランを聞き及ぶ二人はそれぞれが成すべき場所へと足を向ける。
二人が退出した後、しばしの時間モニターを睨め付けた漆黒は、ふと何かを気取った様に立ち上がる
気配を辿り、定番となる旗艦内展望区画へと移動した漆黒。
人気のないはずのそこで、すでに知り得ている存在を察した彼は、双眸は
「もう来ないと思っていたが、さしもの
かかる言葉で顕現するは、あの
リヴァハ・ロードレス・シャンティアーの低次元
「くだらぬ勘ぐりはよせ、エイワス・ヒュビネットよ。
展望通路となるそこへ、漆黒に対する様に顕現した
が――
そこに混じった言葉へ珍しく反応した漆黒が、双眸はそのまま……しかし狂気を纏いて高次なる存在へと向き直るや詰め寄った。
そのまま怒りに任せて拳を強化ガラス窓へと叩き付け、高次なる者を見下す様に覆い被さり告げる。
神たる存在の言葉へ、怒りを持って反論する様に。
「そうだ。お前達観測者は力ある存在だ。故に観る事しか出来ぬ。その愛しき人類とやらが、いかに非道の限りを尽くし破壊の権化と成り果てようとな。」
双眸へ憂いと悲しみさえ乗せた堕ちた聖者は、それでも嘲笑絶やさぬ面持ちで――
憎悪と憤怒に塗れた言葉を叩き付けたのだ。
》》》》
眼前に顕現した観測者へ向けて。
その言葉は、戦いをゲームと称し、他人を手駒の如く操って戦場を支配する非道なテロ屋などではない――
真に守るべき人類の未来安寧こそを願う、聖者の咆哮そのものであった。
「
「その結果、そこで湧き出た邪悪なる意思までもが社会規範により守られるのだ。」
社会を混乱に陥れる者はその殆どが、己の私利私欲や快楽を求めて毒牙を振るう。
奮った毒牙が、周りにいる罪なき弱者をいくら傷付けようとお構いなしに、である。
「湧き出た邪悪は守られるのをいい事に、その暗部で浸蝕を重ね、やがて罪なき民を蝕みながら社会を破壊して行く。なのに、いくら義を翳した世界が法に基づきそれらを罰しようと、当の奴らは我関せず……
「観測者とやらよ……お前が言う愛する人類の中で、その様な不貞の輩が放置されるならば――その不貞の輩の毒牙から、力なき弱者は一体どうやって逃れろと言うのだ?」
「それは――」
それは切実なる叫び。
この数千年で、地球に住まう人類は数え切れぬ弱者の血で大地を染めた。
さらにそれが
聖者は堕ちてなお咆哮を上げる。
彼の叫びは、今を浸蝕の中で生きる者達だけではない……かつて不貞なる輩に無残にも命を奪われた、幾万幾億を越える弱者の叫びであった。
突き付けられた有無を言わさぬ事実で、高次なる者が視線を逸らす。
それに反論できる余地など、彼女には無い。
彼女達力ある高次元存在は、持つ力の強大さゆえに人類へと干渉できない。
故に人類が如何な道へ踏み外そうと、そこへの偏った力添えなど言語道断であるのだ。
漆黒はそれを理解している。
聡明にして、己の革命を果たすためあらゆる情報をその頭脳へ
遥か
その叡智を与えてしまったのは……他ならぬリリスと呼ばれた
すでにぐうの音も出ぬ高次なる者を一瞥し、再び
もはや後戻りは出来ぬ、己の道を見定める様に。
「……お前に問い詰めた所で、答えなど出ないのは分かっている。だからこその俺だ。いや?俺とザガー・カルツという部隊の存在か。義を以って弱者を救うは、かの救世の部隊であるクロノセイバーの役目。それは奴らにしか成せん。」
さらに漆黒は付け加えた。
宿敵たる救世の部隊の名を上げ、それが救いの希望である事実を彼自身が讃えたのだ。
そこまでを語る漆黒が
高次なる存在へ、今生の別れとなる言葉を以って。
「ならば俺達の様な、過去歴史の亡霊にしか出来ぬ事がある。社会に蔓延る
彼の背中越しに漏れ聞こえた言葉は――力なき民の安寧――
奇しくもそれは、かの救いの英雄と称賛されたクオン・サイガと同じ夢であった。
一人残される様に、宇宙展望通路で立ち尽くす高次なる者。
今の彼女は、彼を止める術など持ち合わせてはいなかった。
むしろ彼の行動こそが、彼女ら
「……バカ者が。力なき民ばかりではない……お主もその括りであると、何故分からんのだ……。」
独り言ちる高次なる者は、双眸を堅く閉じて憂いを乗せる。
彼女からすれば、エイワス・ヒュビネットという者さえも慈愛向けるべき対象であると。
だが因果の盟約は、彼女が彼へ肩入れする事を許さない。
あくまで人類の未来は、人類自身が切り開く事が前提とされているから。
程なく高次なる者は、再び
これより始まる、
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