救済防衛の使命か、漆黒の革命か
第238話 火星圏厳戒態勢
再編成された
それは言うに及ばず、地球上がりをけしかけ、火星圏全域への睨みを効かせる算段であった連合政府の耳へ――
抑止の目的で搭載していたはずの、核熱反応弾頭全てが非武装の民へ向け使用され、そしてそれがまさかの
そんな中、引き金を引いた地球上がりである
「……もう一度聞く。非武装の民間人相手に、核熱弾頭全弾を放ったと言うのは本当かね?フランツィースカ中佐。その様な行為が後に、厄介な中央評議会……はてはあの、皇王国本国の逆鱗に触れる恐れがあると気付かなかったのかね?」
「お言葉ですが、地球では抑止力とどれだけ叫ぼうと、使わねば誰もそれを驚異とは――」
「
が――
互いの思想の食い違いが極度の
痺れを切らした政府宇宙軍側の最前線指揮官側近が、嘆息と共に眼前の女官への措置を申し渡すため、重要事項をモニターへと提示する。
映し出されたのは火星地上……今も政府地上を支配するアレッサ連合の中枢である。
「残念な事に……貴官が事を起こした矢先、地上で
「故に、貴官の罪をどうこうするだけの時間が、今の政府にはないとの通達が届いている。よって……我ら宇宙軍の独断により、貴官を火星地上の軍隔離施設へ移送する処置を取らせて頂く。悪く思うなよ?」
そして中枢でも
言わば、彼女を軍法会議で裁くだけの時間が、反政府勢力挙兵への対応により消失。
奇しくも、誇りを最初に汚した者達の行動により、彼女の最後が引き伸ばされた形であった。
反論も通らぬ悪意の女官は、そこから多くを語る事なく移送されて行く。
訪れた非常事態を受け、指揮官側近……火星圏連合政府 宇宙軍所属のアトライ・ハーキュリー中佐は、上官へと意見具申するため通信回線を開いた。
「将軍閣下……。あの女官を早急に地上隔離施設へと移送し、我ら宇宙軍前線部隊もこの
『当然だ。本国がどう言う意向であれ、我らの的は敵意持ちて挑んで来る軍人のみ。罪なき民への攻撃など一切許さないと、改めて厳命しておけ。』
無骨な顔立ちと隆々とした筋肉を持つ、側近は軍人としても大柄の巨漢を地で行く姿。
その男が
しかし体躯は、巨漢の側近と比べるまでもなく貧弱にして、身長も150cmに満たない幼女から抜けきれぬ様相。
されどその眼光には、歴戦の戦場を睨み続けた器が宿る小さき
『……我らは今や、あのアレッサ連合の手足だ。命令であれば軍を進める。だがそこに、無用な命の奪い合いを繰り広げる下賤の感情など欠片も存在しない。我らは軍人、民のためにあってこその存在――』
『故に、その戦いの責は全てワシが負う。このワシ……火星圏は元マルス星王国
名乗られる、元マルス星王国の
幼き容姿など吹き飛ぶ気迫を見せるは、かつて星王国を守護せし剣を纏めた騎士の中の騎士。
火星の大地で貫かれた、騎士道精神宿す指揮官への敬礼もそこそこに、忠誠の限りを尽くす
望んでなどいない、連合政府の宙域支配拡大という戦禍の責を背負う様に。
》》》》
行く先は当然、彼女が一時隔離される火星地上は政府施設である。
宇宙軍艦隊所属の機動兵装であり、主力の一端と言われる本部守備隊機動兵装〈マーズ・バーナー〉と、対大型施設破壊特化兵装〈マーズ・インフェルノ〉が隊列を組み移送シャトルを囲んで飛ぶ。
何れもマーズ・プランニング社製であり、〈マーズ・バーナー〉は一般兵搭乗と上級士官搭乗で、カラーリングや基本性能に加えた武装に於ける違いが存在する。
一般兵機のマゼンダ色と、上級士官機の金色に近しい
そんなリアル・プログレッシブ・プランに基づく〈バーナーシリーズ〉に対するは、スーパー・プログレッシブ・プランにより生み出された
その際たる特徴は、惑星の衛星軌道に浮かぶ巨大構造物破壊構想を元に生み出された火星圏の虎の子であり、人形からやや離れる姿に超火力集束砲を含む破壊兵装を纏っていた。
サイズ差に於いて、
「
『口を謹んだ方がいいぞ? あのハーキュリー中佐は、今は政府の良いように動いているが、元を辿ればあの、マルス星王国
「分かってるよ。そんな方相手にしたら、いくら火星圏の虎の子機動兵装を与えられているとはいえ、命がいくらあっても――」
陽光を反射させる、
同僚の注しに寒気を覚えつつ、政府から突き付けられた望まぬ任である今を憂いていた。
そして移送シャトル一団が、火星軌道上に存在する小惑星トロヤ群へと差し掛かる。
トロヤ群は、太陽系各惑星の
その中央を突っ切る形の一団は、火星宇宙軍による制圧が終えていない事を踏まえた、戦闘警戒の上で通過していた。
そこへ……宙域の岩礁へ紛れる様な方角より、無数の火線砲の閃条が降り注ぐ事となる。
「……くっ、なんだこの攻撃は!? どこから撃って来た!」
すかさず臨戦態勢を整える移送隊。
しかし機体モニターには、敵対勢力と思しき機影は見えず、それが混乱に拍車を掛けていた。
岩礁宙域から降り注ぐ砲火。
見えぬ射程からのロングレンジ砲撃。
一団が見た事のない奇襲攻撃の全容は、すでに救いし者達が被った経験ありし戦術。
即ち――
「いいか! ヒュビネットは、無用な戦火拡大を所望じゃねぇ! 狙いはあの移送シャトル拿捕……他は無駄に落とすんじゃ――」
『キーッヒヒヒ! 久っさびさの戦闘だーーっ! あたしのクリューガーの、サビになりたい奴ぁかかって来なーーーっ!!』
「って、オイ!? この発狂女! 俺の指示を聞けっつってんだ!」
『ふむ……火星圏でも新型のバーゲンセールの様だな。これは俺も少し興が乗った。作戦行動に参加しよう。』
「はぁぁっ!? 「興がのった」じゃねえぞ、カスゥール! 作戦行動参加は当たり前だろうが! なんのために奴に雇われてんだよっ!」
『……うるさい。私は適当に相手をする。邪魔はするな。』
「もういい……テメェら好きにしやがれ! ヒュビネットの機嫌だけは損ねんじゃねぇぞ!」
現在、
かつて傭兵隊であった、
だがその、部隊と呼ぶにはあまりにもおざなりな指揮系統は、回を重ねる毎に悪化しすでに苦労人な隊長さえ起きざる状況が包んでいた。
二体の
隊列の乱れた所へ、復讐姫が駆る
瞬く間に、火星主力機動兵装を無力化して行った。
「ば、ばかな! ザガー・カルツは、火星圏政府へも牙を剥くつもり……うがぁ!!?」
かつて火星圏評議会で、クロント・ボンホース派の親衛隊との触れ込みで知られた
実質、部隊そのものが黒幕と言う認識に置き換えられていた。
が……その事実が評議会から伝えられたのは、議会ソシャール周辺宙域の一部のみ。
言うに及ばず、ソシャール・ニベル崩壊も影響した、太陽系全体の通信網の乱れこそが情報途絶に影響を及ぼしていたのだ。
「申し訳ない所だが、そのコマは我が計略の最後を締め括る王将へと名乗り出た。ならば連れ行く以外に道はないだろう?」
移送部隊が襲撃を受ける中、黒き革命者を乗せた
――漆黒の嘲笑――
世界を神格存在の如く見下す双眸は、浮かべる嘲笑とは対照的なまでの憂いに満ち、手折られて行く
程なく
「おの、れ……エイワス・ヒュビネット……! 何が……目的――」
漆黒の指示通り、最小の被害に留められた移送隊はパイロット重軽傷も、大破機体はごく僅か。
その大破した機体で、移送の指揮を執っていた兵はやがてSOS信号を発しつつ意識を飛ばした。
漆黒の計略は、火星圏宙域へ静かに……いと静かに闇の浸蝕を広げていたのだ。
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