第233話 手折られるプライド、はためく国際救助の証
幸いにして、
機体操縦を引き継いだ大尉が駆る分には、さしたる影響もありはしなかった。
その大尉擁する
そこで戦線維持側が驚愕した事には――
『ウォーロック特務大尉、これはあなたの機体ですか? 驚きました。』
「あっ、いえ! 本来は姉さんのために、用立てられたとお聞きしています! しかしサイガ少佐より、姉からの伝言と共にこれを……武装救命機 マーリスを当てられた次第であります!」
『ふふっ……あなたはもう私と同列よ? 敬語はなしで構わないわ。』
「あ、いえ!? そうなのでありますが、なかなかにこの言葉使いがぬけず……い、今はそれ所ではありません!
機体色は純白であるも、その全長が他の機動兵装に近付く
さらには彼女は現在、救急救命艦隊旗艦である
が、かつて
詰まる所、戦略武装を備えたのは何も救いの機体だけではないと言う事であった。
起死回生を演じる如く、続々と
そんな戦況を確認した
言わずとしれた彼らは国際救助の旗を掲げる機動部隊……敵を無用に殲滅するテロ屋などではないからだ。
「火星圏連合艦隊をまとめる者へ通告する。貴官らはこの宙域で重大な過ちを起こす手前、我らが馳せ参じた事で未遂に終わった状況だ。此度の有事……
「我らクロノセイバーはあくまで中間に立ち、争いの仲裁を行う立場と心得られよ。貴官らが速やかに武装解除し撤退するならば、それを追う事はない。しかし改めて、今までのそちらが成した一連の行動は中央評議会並びに皇王国本国へ申告の元、厳重な対処をさせて頂く。」
宇宙国際法規に準ずる救いの部隊が取るべき立場は、敵の殲滅や一方的な武力制圧を目的とするものではない。
弱者に危険が及ばぬ瀬戸際で耐え凌ぐ、先に炎陽の勇者が行った行為こそが本質である。
通告を受けた
眼前の部隊が
だが女官は目撃してしまった。
彼女が胡座をかいて居座っていた旗艦空母へ、たった今続々と、被害を受けた艦に機動兵装よりの通信が届いている。
届いているのだが――
そこに重軽傷の物はいれど、瀕死の瀬戸際を彷徨う兵や……ましてや命を落とした者はどこにもいなかった。
彼女が率いた兵の全ての安否が確認されたのだ。
これが地上の戦禍撒く人類の部隊であれば、全てを統括する者に逆らう事も出来ず、兵は愚か民間人にさえ致命的な死傷者を数多く生んでいただろう。
だが眼前の部隊はそれを頑なに否定した。
彼らが守るべきは、背負った生命だけではない……敵方の兵までもがその対象であるからだ。
「……解除だ。これ以上の損失を出す訳にはいかない。全艦隊武装解除……あのクソ共に従い、この宙域より撤退する……。」
歯噛みした口元から血が滲むほど、敵対した救いし者を睨め付けた悪意の女官は宣言した。
やがて全てが無かった様に、火星圏連合の一団は、白旗を上げた僅かのシャトルを残して撤退して行くのであった。
》》》》
かくして窮地を乗り越える事が叶ったオレ達は、ようやく旗艦との合流がなった
だがそこで、予想外な状況を目にしていた。
「では、貴君方はあのボリスブナ中佐より離反したと?」
『はい。我らは何れも、あの女官へ従わねば宇宙で生きられぬ状況故従って来ましたが、もはや限界と感じ投降を宣言させて頂きました。なお――』
『すでに女官めは我らの事など眼中に無く、いえ……彼女からすれば自分に戦果を齎す事の出来ぬ手駒は用済みらしく。しかしそこへ制裁を加える心の余裕さえ、吹き飛んだ状況と察します。』
今ブルーライトニング眼前には、
それもそこにいる殆どが、地球上がりは露軍よりの離反者であった。
訪れた状況はこうだ。
すでに不満が燻っていた彼らに向けて、あの女官は武装解除を宣言する際、何の労りも向けず手前勝手な行動に終始していた。
彼らももはや、そんな横暴に付き従う事に愛想を尽かしたと。
そこで粛清覚悟で離反を宣告してみれば、あの女官の視界にも映らぬ惨状が、彼らの決意を後押ししての今と言う事になる。
ならば、オレ達は本来の任務をまた一つ、達成出来たと胸を張って宣言しよう。
機体に国際救助の旗を掲げる者として。
「委細承知しました。では貴君方はこれより、敵方より離反し粛清を逃れるために避難した、戦争避難民として対応させて頂きます。」
『待て……それはどういう事だ!? 我らは貴君らの法で言う所の、禁忌を犯した身だぞ!? 貴君らの仲間を非人道的な攻撃で危険に晒した! それだけではない……民間人にさえも――』
「どうも何も、それが我らの流儀です。そして我らの流儀を、しかと見届けたならご考察願いたい。今後――貴君方が、軍人としての誇りを持ち続けるならば……その手を我らへ貸すという方向の考察を。」
「今の火星圏の戦禍は、一つの組織がどうこうして止められるものではありません。心と信念を共有する者が一丸となり立ち向かわねば、この戦禍を止める事は叶わないとご理解頂きたい。」
当然の如く目を剥いた彼らへ、返す言葉は決して揺るがない。
それがオレ達、国際救助の旗の元に集う志士の信念であるから。
恐らくあのメンフィスの様に、地球地上では決してお目見えする事もないであろう信念と接触した彼ら。
双眸が、驚愕から待ち望んだモノへの羨望へと移って行く。
彼らは軍人だ。
しかし宿す望みは、自分達が守る民の幸福と安寧が全て。
それを双眸へ移した彼らは、訪れたる時を迎える様に、歓喜の熱い雫を眦に煌めかせていた。
『……あるとも。我ら軍人が、罪なき命を奪う暴力集団に成り果てるなど言語道断! 例え我が故郷である地球だとて、権力を握る一握りが好き勝手していい道理などないのだ! 我らはそれに嫌気が差し、しかし宇宙に上がっても同じ道を辿るのかと――』
『だが、もういいのだな?我らは、我らの誇りに従いその武器を取っても……。力無き民のためにその誇りを翳しても……。』
「当然です。我ら以上に、力無き民が今こそそれを求めているのです。
熱い雫へ応える様に、オレは彼らの祖国の言葉で信頼を贈る。
我が暁型第六兵装艦隊群の元になった艦艇………その一隻が与えられた、誇り高き名の一つ。
――
あの様な女官が駆る船には相応しくないその名は、彼らこそが名乗るべき誇りある名だ。
だからこそそれを彼らに贈り、共にある事を宣言する。
憎むべきは戦禍であり、それを撒き散らそうとする不逞の輩だ。
その悲劇を憂う者が、望まぬ戦いに駆られる必要など欠片も存在しない。
それを脳裏へと刻んで置かなければ、オレ達人類は未来永劫、悲しき戦禍から逃れる事が叶わなくなってしまう。
モニター先で、新たな覚悟を刻んだ幾つもの瞳が熱き滾りで霞んで行く。
広がる悪意を憎む、正しき義を宿した志士達を一望したオレは、シャトル群を旗艦へと誘導しつつ――
事態終息を見るための、警戒態勢へと移行する事とした。
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