第231話 不死鳥の名はブルーライトニング・スピリットR



 全ての攻撃を耐え凌ぐウチ、俺の意識が薄れていくのを感じてた。

 たった一人でこのライジングサンを操縦し続けたんだ――すでに意識が限界を超え始めていた。


「……まだ、だ! まだ俺は、倒れる訳にはいかないっ! 月読つくよみ指令達の乗るシャトルも、クオンさんもまだキャリバーンには到着してない! まだ……まだ、だーーーーっ!!」


 飛び散る油汗と薄れる意識。

 体力はとうに限界を超えた。

 それでもこの背に守るべき者を背負った俺は、倒れる事など許されない。


 俺の限界を表す様に、ライジングサンへの機体ダメージも増加している。

 けどそのダメージを広げる訳にはいかない。

 後詰めとなる戦いで、即座に綾奈あやなさんがチェイン・リアクションシステム使用の元、部隊復帰するからだ。


 視界の端で、敵機動兵装群後方――群れなす機体が迫り、それに囲まれながらもこちらを目指すのは月読つくよみ指令達が乗るシャトル。

 実質そこへ護衛に飛ぶ猶予はない。

 ここを空ければ、俺達の敗北が決してしまうからだ。


 その聴覚へ響くは頼もしい声。

 それだけで、同時に心への炎が再び宿った気がした。


『こちらハイデンベルグだ! 旗艦奪還は完了したが、完全起動のためには指令及びリヴ嬢の承認が必要となる! そのため整備クルーには一仕事頼まれて貰った!』


『おうよ! こっちに向かってるパイロットへ向けて、オートマニピュレータで機体を強引に飛ばす! いつきよ、あと一踏ん張り頼むぜっ!』


『ああ、こちらも曳航艦無力化に成功した所だよ。なのでその作戦に、乗る方向とさせて貰うかねぇ。少年、シャトルの護衛は私に任せるといい。』


 頼もしい事この上ない通信がハイデンベルグ少佐から、マケディさんから……そして新たに合流したグラジオス准将から放たれる。

 俺が耐えれば耐えるだけ、仲間たちの準備が整うんだ。

 決して絶望へと追い込まれている訳じゃないと、魂へ一層の喝を叩き込んだ。


 ところが――

 そんな俺の最後の一押しへ待ったをかける通信が、国際チャンネルでそれ見よがしに向けられた。

 あのヒュビネットの様な只ならぬ気配など欠片もない、悪意に満ちた醜悪な人類の本性宿す狂気の咆哮が。


『アッハハハハハハハハッッ! お前がいくら耐え凌ごうと、もはや手遅れ! その赤い型付き諸共、核の炎で焼き尽くされるがいいっ!!』


 宇宙人そらびと社会でずっと暮らして来た俺は、人間とはこれほどまでに浅ましく、醜悪なまでに戦禍を望むのかと心が酷く痛んだ。

 目を背けたくなる様な現実が、俺の視界さえも暗転させる。

 この眼前の女官は力なき命へ平然と、地獄の申し子とさえ恐れられる大量殺戮兵器を、またしても撃ち放ったんだ。


 俺の視界に映る核熱弾頭の第二波。

 目標は言わずもがな俺が駆るライジングサン。

 いや……俺が今守り続ける、


 霞む視界できしむ身体へムチを入れる。

 ここで倒れれば、絶望がこの宇宙人そらびと社会へ深々と刻まれるから。


 そう――

 俺が今耐え凌がなければあの部隊を……社会の希望である英雄が帰り着く場所を失ってしまうんだ。


 機体へ最後の力を注ぎ込み、再び飛来する破壊の権化を睨め付けた……その時。

 


「……そうだ。確か俺が、このライジングサンへ初めて搭乗した時もそうだった。あの時は自分の力を過信し、思い上がっての敗北。そこから俺は、。けど――」


『アッアハハハハッ! キヒヒッヒヒッ……どうだ、もう絶望しかあるまい! そうだ、そのまま核の炎で燃え尽きてしまえっっ!!』


 感じる力へ全てを預ける様に、機体の構えを解く。

 何か勘違いした小悪党な女官が喚いているが、耳障りだからスルーしよう。

 俺は、俺のやるべき事を全うしたんだ。


「今度は、ちゃんと出来ましたよ?クオンさん。そして……!!」


 全てを引き継ぐ様に上げた咆哮に合わせた、巨大なる力のほとばしりが宙域を覆い尽くしたかと思えば――



 俺の眼前で、彼方から飛来した膨大なる蒼き閃光が、全ての破壊の権化を消し炭へと変えて行った。



》》》》



 宙域に存在した全ての者が絶句した。

 方や命を守るために戦う者は、その到来を待ちわびた様に。

 方や命を奪う側は、今までをさらに上回る超常の事態へ恐怖する様に。


「……そん、な!? 核熱弾頭群が……彼方より飛来した謎の超高エネルギー波により沈黙! 撃墜されましたっ!」


「バカなっ、そんなバカな話があるかっ! 赤い型付きはもう虫の息だぞっ! それにあの弾頭群を一撃で屠るなど――」


 配下の悲鳴にも似た伝達に、悪意の女官が動揺を顕とする。

 今この瞬間はまさに彼女が全ての主導を握った戦況、それを覆す不確定要素はどこにも存在してなかった。


 そう――

 、である。


 そんな女官が動揺で躊躇する刹那。

 連合艦隊旗艦モニターへアンノウンが映り込む。

 さらにアンノウンが叩き出す推進速度は、今までの宇宙人そらびと社会の機動兵装、その何れでも叶わなぬ常軌を逸した速度であった。


 彼らにとっての絶望を齎す閃光は

 深淵より闇を切り裂き舞い飛んだのは、救いし者部隊クロノセイバー誰もが待ち望んだ蒼の奇跡。


 やがて連合艦隊で視認の叶うモニター全てへ、国際法上表記とされた機体名が堂々告示される。


 クロノセイバー所属機……Ωオメガフレーム ブルーライトニング・スピリットRと――



 蒼き霊機ブルーライトニングのコックピット内で、英雄少佐クオンは部隊と小ソシャールの無事を確認する。

 今しがた放った高収束火線砲の線条は、元来災害救済装備であるセイバーガーヴへ備わる、双発のクインテシオンブラスターである。


「ブラスターの調整は上々だ、ジーナ! そちらのコントロールは!?」


『問題ありません! エクちゃんの変形換装機構、各部ジョイントにシステムリンクの正常稼働を確認! ブルー・ガーヴ・エクセルテグシステム……感度良好です!』


「了解した! ならばここからがオレ達の独壇場――スピリットR、シーケンシャル・ツイン・レゾナンスドライブ起動!」


 しかし蒼き霊機の新たなる姿は、高収束火線砲の敵対勢力戦術システムによる稼働を実現させていた。

 あまつさえ、対敵勢力装備及び対災害防衛装備の両ガーヴシステムを同時に備え、可変換装したエクセルテグ諸共を身に纏っていた。


 宇宙人そらびと社会の機動兵装規格でも類を見ない、変貌を遂げていたのだ。


 英雄の咆哮で、新たなる蒼の鳴動が宇宙そらへ響く。

 偏芯回転機構ロータリーエンジンを本来の状態で備えた動力機関は、すでに機体限界値の100パーセントを超える値を叩き出している。


 だがしかし、――この蒼き不死鳥が、不死鳥足り得る獅子奮迅の始まりであった。


『機関出力最大値! 霊量子イスタール・クオンタムリンク、シーケンシャルツインモードで推移……行って下さい、クオンさんっ!』


『ああ、行くぞジーナ! 吠えろブルーライトニング! 轟け、ロータリーエンジンっっ!!』


 換装された先鋭機エクセルテグの翼端部が突如として分離し、後方で羽の様に開くスラスターシステムより蒼き気炎が吐き出され、同時に蒼き霊機B・S・Rを高密度のミストルフィールドが包み込む。

 やがて蒼き膜に包まれた機体が、急激な超加速を見せ付けた。


 機体が今いた場所へ光学的な残像を残し、恒星へと向かう彗星が引く尾を思わせる姿で、翼を羽撃かせた蒼き化身が刹那で異次元の超々高速度域に突入する。


 まさしくその光景は、破壊の炎で焼かれ蘇った蒼き不死鳥フェニックスそのものであった。


『ついに、己の険しき因果への道へ足を踏み入れたの……。じゃがここからが、うぬの真の戦いの時じゃ。心せよ……。』


 不死鳥が宙域舞う中、禁忌の聖剣キャリバーン主要クルーが乗る敵シャトルへ戯けた准将グラジオすの機体が護衛として付き、オートコントロールで強制出撃させられたΩオメガΑアルファフォース両支援部隊の機体が、パイロットらを搭乗させて行く。


 視界に映る光景を目にした、監督官嬢リヴの双眸が細まるや高次元よりの声が人知れず響いていた。

 その日を誰よりも待ち侘びた観測者たる存在の、リヴァハ・ロードレス・シャンティアー――リリスである。


『じゃがこの宙域だけではない、大きな運命の転機が訪れている。ならばうぬに全てを託そうではないか。頼むぞ?クオン・サイガ。頼むぞ……この時代を動かす蒼き英雄よ。』


 静かに響く高次元の霊力震イスタール・ヴィブレードが穏やかに消え行き、変わって蒼き二つの魂が宇宙そらを震撼させる。



 この時より僅か後に迫る宇宙人そらびと社会最大の危機へ向け、恐るべき速度で因果を手繰り寄せながら。

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