第228話 ― 一騎当千 ― 大艦隊を穿つたった一人の防衛戦
「奴らの旗艦曳航が遅れているぞ、何をしている。」
程なくそれは、
だがその間も、
己の決断一つで、部隊は愚か守るべき民全ての命運が決するからだ。
「核熱弾頭……話には聞いている。だがそれを力なき民へ放てばもはや、貴官は世界安寧への反逆罪に問われかねんぞ?」
選択を迫られ絶句し、返答を躊躇する大尉に変わり、憤怒塗しながらも平静を務める
女官が漏らした
『先にも言ったはずだ。お前達
『地上人は宇宙に出て思い知った。法に縛られ、多くの自己満足を犠牲にするのはバカげているとな。』
「その思考こそが、バカげているとは思わないのかね?貴官は。人間という霊長類に与えられた使命は、己が自己満足のために他を犠牲にする事ではない。数多の力なき生命の先頭に立ち、守り導いて行く事こそが――」
『なんだ、
旗艦指令の言葉も意に介さず、全て受け流す悪意の女官。
傍目からすれば、彼女の言葉こそが正論かとのまやかしに包まれてもおかしくない状況。
そんな最中――
双眸を固く閉じていた双炎の大尉へ、意識領域で言葉が届く事となる。
彼女は偽装の上懐に忍ばせた、超小型量子振動通信機のスイッチを入れ、盗聴モードで悪意の女官の声を浴び続けていた。
旗艦内で事を企てる仲間が、事を起こすタイミングを図り易くするために。
『(我、旗艦奪還遂行中。我、赤き霊機起動に成功せり!)』
当然それは、通信機の音声ではない。
その待ち詫びた高次元の言葉を捉えられるのは、
さらに届いた声が現す起死回生の瞬間が、外部光学映像で突き付けられる事となる。
『……待て、何だこれは!? 女、貴様はあの機体のパイロットではないのか!?』
モニターを占拠した異常。
そこに映し出されたのは赤き巨人。
旗艦甲板に仁王立ち、両腕部を胸前で組む赤熱の使者。
機体の至る所へ、恒星の如き閃光纏うそれは――
パイロットを捕らえて上機嫌であった悪意の女官が青ざめるのを尻目に、双炎の大尉が双眸を見開いた。
今まで自分たちを見下していた地球の同胞へ、返す面持ちは堂々たるしたり顔である。
「ええ、そうよ? 私はついこの前あの赤き巨人の、正式なセカンドパイロットへ選ばれたばかり。元々あれは、ファーストパイロット専用にチューンされていたから、色々と遅れてしまったの。」
『き……貴様、謀ったなっ!?』
「あら? あなた方の得た情報に、落ち度があっただけではないかしら? 見下した相手をよく知りもしないで、余計な見得を切るからこうなるのよ?」
機動兵装たった一機の存在が、捕らえられるクルー皆の胸へと希望を生んだ。
なんの事はない。
たった一機……その一機が、部隊に取って一騎当千に匹敵する最強戦力であるのを理解しているのだ。
地平の彼方より舞い上がる恒星の如きそれは、幾千万の人々へ希望を宿す者である。
その名は勇者、アーデルハイド・ライジングサンと呼ばれた。
》》》》
魂が研ぎ澄まされる。
今この視界には、同じ人間が組織し用立てた大艦隊。
そしてこの背には、守り抜くべき仲間と希望繋ぐ船……さらにそれに守られる力なき弱者達を背負っている。
敵は大艦隊。
立ち向かうは俺一人……いや?俺と最高の相棒たる炎陽の巨人。
背水の陣――俺の敗北が全てを決するのは明白だった。
「でも、負けない。負ける訳にはいかないよな?ライジングサン。俺達の目指す戦いは、愉悦に浸る勝利じゃない。弱者に指一本触れさせない、負けない戦いだ。」
俺の言葉に静かなる機械光で応える巨人の意思が、深層心理に響いて来る。
「その通りだ。」とのしたり顔を浮かべる様に。
この戦いは時間を稼ぐ事こそ最優先事項。
まずは背後の、ハイデンベルグ少佐による旗艦奪還と、クラウンナイツたるグラジオス准将の曳航艦すべての制圧完了までの時間を稼ぐ。
そして現在も敵側へ拘束連行されている、
最後に――
「クオンさんへの通信は使えない。それを傍受されれば全てが水の泡だから。敵の油断を突く意味でも、クオンさんとブルーライトニング再起は知られてはいけない。追い詰められた俺が、無謀にも飛び出した感を演じきるんだ。」
クオンさんにジーナさんとは連絡が取れない状況だけど、俺と彼らにとってそれは問題じゃない。
現に
宇宙の高次元を伝わる霊力の
ならばもう御託はいらない。
打って出る時だ。
異変を感じた艦隊が動き出し、明らかに有人である機動兵装……それもバンハーロー大尉やアシュリーさんの様な、恐るべき手練れ達が搭乗していると思しき機体が隊列成して進軍する。
けどそれは重要じゃない。
俺もそれは学園での授業で習っているし、お袋からも嫌というほど聞かされている。
決して人類が手にしてはいけない、悪魔の大量虐殺兵器――
「そんなものを、弱者に向けて撃ち込むつもりなら、俺は容赦なんてしない。ふざけるなよ? 核ミサイルだなんて、人類が嬉々として扱っていいものじゃないんだ……絶対にっ!」
通信機は、あちらの音声を一方的に伝える設定としている。
それでも俺は奴らへと叩き付ける様に咆哮を上げた。
そんな事が許されていいはずなんてなかったから。
咆哮と共に睨め付けた先で、先行する機動兵装隊が後方より突出した艦を守りつつ進む。
視界に入れた直感で、その艦こそが核の炎をぶち撒ける悪意の本質と見定めた。
ならばとこちらもすでに準備済みであった策の展開へと移行しよう。
万一敵が襲って来た時、たった一機での守護を成す上での取って置き……
そしてその中央に陣取るは、俺とライジングサンだ。
「ライジングサン、パラゾレートと
機体から生み出される重力膜を、本来小惑星の衝突回避に用いる
そこが俺の死守するデッドライン――
ラインを超えれば、俺達は守るべき者達を地獄へと導いてしまうんだ。
すでに機動兵装群の射程に入ったライジングサンが、いつ集中砲火を浴びてもおかしくはない状況で、砲火を交わしながら接敵する軌道を思考へ描く。
敵との相対距離に併せたブレーン・スペース展開と、この機体で防衛の叶う射程を洗い出し――
この様な時のため、バンハーロー大尉達から学び取った、軍事兵装とやりあうための戦術を身体へと行き渡らせる。
腕部組み仁王立つ姿から流れる様に構えを取って、魂へ覚悟を宿し機体を旗艦より飛び立たせる。
否――
旗艦から、機体出力の限り跳躍させた。
「クロノセイバーは赤き炎陽! 紅円寺流格闘術 門下
眼前の大艦隊を屠るために、俺は一騎当千を体現せねばならない。
この救世の部隊の未来のために、義を翳した拳に全てを懸けて……俺はたった一人の防衛戦を開始した。
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