第227話 悪夢再び……核熱弾頭の絶望



 分断されたクロノセイバー。

 その中で私達は、部隊と小ソシャールの命運を背負い各々の持ち場へ別れ機を伺う。


 先のセレシオル・ファクトリー奪還作戦からこちら、自身が臨時とは言え全体指揮を任された事が功を奏したこの作戦。

 けれどほとんど、行き当たりばったりな博打ばくちの様で嫌気が指して来たものだ。


 いつき君には全幅の信頼を寄せている。

 けれど万が一この策が失敗すれば小ソシャール民は愚か、それを救うはずである我ら部隊の命運さえ付きかねない。


「クオンはいつも、こんな重圧を抱えて前線指揮を取っていたのね。本当に彼……英雄になってたんじゃない。」


 拿捕だほされ拘束された上での移送中。

 敵方シャトル内で敢えてクオンの名を出し、あたかも彼の命が風前の灯火な感を描き出す。


「女、黙っていろ。じきに露軍の女高官の元へ送ってやる。せいぜい口を閉じて、命乞いの文句でも考えてるんだな。」


 全体指揮を取る体の私は現在、月読つくよみ指令と二人して、メンフィスが指揮していたトランピア・エッジ……恐らく同部隊に組み込まれたであろう部隊長の目の届く独房で監禁されている。

 投降を申し出てからの扱い全てを踏まえても、すでに国際法上の問題にすら発展する状況。


 それでも彼らからの情報を隈なく仕入れるために、ひたすら耐え続けていた。


 嫌な口撃を仕掛けて来た部隊長が、少しこちらより視線を逸した頃合いに、指令へと小声で現状分析を伝達しておく。


「指令……蒼の回帰は未だ見ず。剣の動きも留まるばかり。我、膠着のまま動けず。」


「……今は様子を見よう。これより事態がどう転ぶかは分からない。赤、拳携えるに望みを託す。」


 私達にしか分からぬ暗号電文を混ぜながら、奴らが準備している恐れのある盗聴機械の存在を疑うけれど、幸いにも彼らはクロノセイバーが如何な組織かを理解していないフシを確認していた。


 あのメンフィスが語ったように、地球から上がった同胞であるはずの者達は、宇宙人そらびと社会そのものを見下して劣等種扱いに終止している。

 一部の宇宙人そらびと社会の者がそうである様に、彼らも所詮は人の業に駆られた者達と言う訳だ。


 そんな彼らの、盗聴の類も無用とする嫌味なまでの過小評価を、今は逆に利用させて貰う事としよう。


 人生でも流石に未経験であった、敵対勢力による監禁移送。

 滅入りそうになるのを堪え、ようやく敵旗艦とも言える航宙母艦へと辿り着く。


 格納庫一体型となるカタパルトには、およそ100機のフレーム。

 同型の船を三隻は確認した事からも、軽く見積もって300機は下らない。

 けど、整備調整を放棄した様に機体を詰め込むだけ詰め込んだ感じと、外的な容姿から来る特徴で無人機と察した所。

 つまりは彼らの主力である機動兵装は、あのメンフィスが用いた無人の殺戮兵装である現実が突き付けられた。


 遅れてクリフ大尉にアシュリーと、ブリッジクルーが拘束され後に続く。

 思えばこの様な事態、一体誰が想像しただろうか。


 そして連れられた独房施設の様な大部屋に、仰々しく掲げられた大モニターが視界に映り、あの露軍の女官が姿を現した。


『遠路はるばる我が旗艦、へようこそ。木星圏で惰眠を貪る宇宙人うちゅうじんを招き入れるのは、遺憾ではあるのだが……あの火星圏政府のお達しでね。』


、か。ならばこの拘束具は、少しやり過ぎと感じるのは気のせいかね?」


『ああ、怖い怖い。宇宙人うちゅうじん共はどうも地球以上に、男の顕示力が強いと見える。私はむしろ、共感を得られるのだけどねぇ。』


 月読つくよみ指令の口撃を軽く流す露軍の女官。

 確かフランツィースカと言った彼女は、指令を蔑む様に見下した後、恍惚な表情で視線を私へと向けて来る。


 アシュリーの様な怖気おぞけが纏わり付く様な視線で。


「お褒めに預かり恐縮です、フランツィースカ殿。しかし先の旗艦の名……かつて地球は日本の帝国海軍時代、であったはず。それをあなたの様な、流石の私もヘドが出ます。」


「ふふ、良いわ……それでこその女性指揮官。減らず口もなかなか堂に入る。むしろそんなあなたを、私は同志へと迎え入れたい所だ。」


 怖気おぞけは私の口撃さえも軽々受け流し、現代の一部の露軍高官らしい、危うい雰囲気で纏わり付いて来る。

 すでに感じていた取り付く島もない感は、私を視界に入れ一層膨れ上がっていた。


 、私も冷静に対処が出来た。

 けど――


 それ以降に放たれた言葉で……自身の思考が酷く掻き回されたのを覚えている。


「ではこうしましょう。、そちらの部隊クルー拘束を解く事を約束しましょうか。しかし断ると言うなら――」


「私が、機動兵装部隊とは別に用立てた強襲突撃艦よりの、。」


「……っ!? 今なんて……核熱、弾頭……!?」


 地球に於いて――

 過去の戦時下、尤も悲惨な仕打ちを受けた国家出生なら知り得る、地獄の申し子にして破壊の権化。



 その生と死の天秤にかけられたのだから。



》》》》



 絶望が、救いし者部隊クロノセイバー主力たちへと突き付けられる中。

 禁忌の聖剣キャリバーン艦内では、いくつもの希望が勇猛果敢に立ち上がり始めていた。


「……隊長からの伝令が届かない? 何かあった……っが!?」


「おい……どうし……ぐふっ……。」


いつき君、こっちはいいですよ!」


「……えーっと(汗)。ナスティさんて、こんなに強かったんだ。」


 旗艦へ侵入した政府軍パイロットらが次々へと、死角からの不意打ちで手折たおられて行く。

 それを成していたのは、


「だってナスティさん、防衛軍入隊時には?」


「でも私、(汗)。でもでも、訓練は欠かさないようにしてたんだから!」


「ふむ、これは思わぬ戦力確保か。ならば紅円寺こうえんじ少尉、あとは手筈通りに。」


「ああ、もうヤケだ! ナスティさん、こっちは任せするっす! ピチカちゃん達にマケディさん達の安全確保を!」


「ええ、お任せです! いつき君とペティアさんは私に続いて下さい!」


「わわ、私は戦闘ってからっきしですからね!?」


 宇宙人そらびとと言う民をあなどった政府軍は、、思わぬ戦力を得た希望達は三手に分かれる事となる。


 格納庫と医療艦へ潜む兵へは鬼美化の雄ナスティ

 旗艦ブリッジへは諜報部少佐ロイック

 残る各セクションの残党を戯けた准将グラジオスが受け持った。


 そして――


いつき君は私に構わず、格納庫を制圧したら迷わずライジングサンへ! いつでも出撃できる準備を整えておいて!」


「分かりました、ナスティさん! 後はお任せするっす!」


 格納庫を真っ先に制圧するのは、赤き霊機ライジングサン起動が何をおいても最優先でる故。

 想定していなかった鬼美化の雄参戦には、炎陽の勇者も奮起せずにはいられなかった。


 程なく、辿り着いた先から格納庫の兵が鬼美化の雄によって次々穿たれるのを尻目に、勇者は機体へと駆けた。


『少尉、ブリッジは少々手間取りそうだ! すでに奴らも異変に気付き始めている! 幸いにも、こんな時のために仕込んだ通信妨害システムが効いているが、敵高官が状況を知れば指令らが危険に晒されるぞ!』


「了解っす! ハイデンベルグ少佐はそのまま、ブリッジをお願いするっす!」


 手間取る少佐の応援に向かおうにも、生身の格闘技では軍人に太刀打ち出来ぬを知る勇者は、己が成すべき事にすべてを注ぐ。

 それは言うに及ばず、彼が速やかに機体起動準備を済ませる事である。


『こっちはあらかた片付いたねぇ。しかし少年……君がセロフレームとは言え一機で出たとて、。勝算はあるのかい?』


「勝算は……! けれど俺に与えられた任務は、クオンさんの背中を守る事。即ち、使! 俺はこの部隊で嫌というほど学びました――」


「相手を力で制するよりも、己の背に守るべき者を背負って戦う方が、遥かに過酷であると! !」


『……いいねぇ、気に入った。それだけの啖呵を切ったんだ……旗艦を曳航する船の無力化は私に任せて、君は君が取るべき責務を全うするがいいさ。』


「ご理解感謝するっす、グラジオス准将!」


 希望がいくつも絡み合い、炎陽の起動準備を後押しする。

 宇宙人そらびとのみならず、太陽系の命運背負う恒星の如き巨人が、反撃の狼煙を上げる時を待ち続けていた。



 己の選択が命運の分かれ道になってしまった、双炎の大尉綾奈が思考を大きく揺らされる中で――

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