宇宙を貫く蒼き不死鳥

第224話 戦神の星へ集う力



 蒼き霊機ブルーライトニングの大改修の旨を聞き及ぶ、残された支援部隊パイロットの面々は盛大に嘆息していた。

 それは言うに及ばず、大改修の号令をかけ先陣切って出向いたのが英雄少佐クオンであったからだ。


「全く……ブルーライトニングの大改修が必要とは言え、あいつは致命傷を負ってたはずじゃなかったかしら?」


「ほんとびっくりよね……(汗)。愚直な真面目さも、ここまで行くと病気だわ。」


「あら〜〜そうよね〜〜。少佐が飛び出した時も、だったものね〜〜。」


「そ、それはいいのよ!? なんでそこで、それを暴露すんのよエリュ!」


 大格納庫でいつもの乙女なやり取りに終始するΑアルファ・フォースの面々は、仕方ないとする一方無茶な行動もいとわない英雄への苦言も辞さなかった。


 それを横目に、機動兵装状況へ見入るはΩオメガ・フォースのエリートサイド。

 彼らが睨め付けるモニターでは、今まさに装備される追加兵装データの戦力数値が叩き出されていた。


「先のヒュビネットからの攻撃は、実質回避がほぼ不可能との提示がありました。それに臨時対応するべく、各機の出力数値を回避機動に振ったハイマニューバシステムの増設――」


「しかしそれでも、このシグムントであれを回避出来るとは思えねぇですがね。」


「これは保険だ。今までの戦闘経緯から察するに、エイワス・ヒュビネットと言う男はΩオメガに異常な執着を見せている。実際、他の機体を攻撃してくるのはとの推測だ。」


たぁ、舐められてますぜ?隊長。これじゃエリート部隊と呼ばれていた頃のメンツが丸つぶれでさぁ。」


 先の見えぬ戦況に恐るべき相手の登場。

 しかしその中にあって、脇役扱いな点へ憤慨を見せる無骨な中尉パボロ

 中華系中尉ディンもそんな同僚へ苦笑を浮かべつつも、心情は同じか多くを語らない。


 当然、エリートの名をほしいままにした鉄仮面の部隊長クリュッフェルが一番その状況に不満を抱いているのは、長い付き合いな二人も見抜いた上でのやり取りである。


 両支援隊がそれぞれの思惑を浮かべる中、粛々と機動兵装の増設改修が施されて行く。

 今後の過酷な戦況を鑑みた上での追加装備は、機動力の大幅アップと各機体の装甲強化――

 並びに、戦術観測から得られたデータを計測し、システム面でのアップデートが行われる。


 装備各種が備わる光景を睨め付けるは、すでに尉官の風格が漂い始めた旗條きじょうディスケスだ。


Ωオメガ班はそのまま、シグムントへバスターガーヴ換装をよろしく頼むっす。ああ、Αアルファ班は気を付けて。アシュリーさんの機体は、他の二人の装備では追いつかないっすから、。」


 モニターを睨め付け的確な指示を飛ばす新鋭の准尉ディスケス

 勇ましき後進の姿を見やるイカツイチーフマケディも、今は口を挟むべきではないと潔く裏方を演じていた。


 蒼き霊機ブルーライトニングがすぐに戻らぬ以上、そこにある戦力だけで事態に当たらねばならないのは誰もが理解している。


 大格納庫上の展望室で一部始終を確認する双炎の大尉綾奈は、決意を新たに双眸を引き締めた。


いつき君。現在クオンとブルーライトニング不在の状況下で、全体指揮は私へと移譲されています。つまりは、と言う事。それだけは忘れない様に。」


 隣に居並ぶ炎陽の勇者へ、重き言葉が投げられる。

 だが少年はハナから承知ずみと首肯を返すに留めた。


 そもそも、双炎の大尉が前線で指揮を取る事を望んだのは彼であるから。


 決意の中、救いし者部隊クロノセイバーの反撃の牙が研ぎ澄まされて行く。

 が――



 事態は、思わぬ展開へと突き進もうとしていたのだ。



》》》》



 火星圏からの混成艦隊が出撃するに先立ち、一足先に事態悪化を想定した飄々とした大尉グラジオス――

 否……その正体が皇王国の親衛隊とも名高い調律騎士クラウンナイツであり准将であるグラジオスは、火星圏政府要所からの離脱を図っていた。


 機体は先に双子の闇サソリ達とやりあった際の己が手足、エータフレーム ウーラニア・バサースト

 各所に刻まれる生傷は、まさに


 すでに火星政府の防衛領域を越えたそれは、肩口に堂々と調律騎士の紋章を掲げていた。


「いやはや、全く忙しないことこの上ないねぇ。このまま行けば、良くてソシャール管理局民の拘束は免れないだろう。それにあの禁忌の船だったかい? あの、、接収と言う手も取りかねない――」


「全くもって面倒な事だねぇ。私一人で一体どうしろというのか。」


 星間航行ブースターシステムで、一気に火星圏連合艦隊を置き去る戯けた准将グラジオス

 機体内で愚痴るも、面持ちには毛ほども不安を乗せてはいなかった。


 その意図は――


「しかし、あの部隊が本物であれば、私のお節介も杞憂に終わると言うものだろうねぇ。何せあの、。さらには私の知らない所で、殿――」


「くくっ……これは合流するのが楽しみだねぇ。」


 彼が持ち得る情報筋からの物か、救いし者部隊クロノセイバーに関わる詳細が口を突く。

 双子の闇サソリの情報はもちろんの事、旧サソリの革命軍の事さえ知り尽くした彼は、口角を上げこれより向かう先にある部隊への称賛も辞さない。


 そこには彼が、救いし者部隊クロノセイバーとの合流を待ち侘びる意思が宿されていた。


 思惑を乗せ深淵を飛ぶ戯けた准将。

 彼が搭乗する機体内モニターの先で、いくつかの点が浮かび識別信号が送られる。

 それを見越した准将も、声をかけるべきであろう存在へ先制のお言葉を投げた。


「いやぁ、申し訳ない。地球のマドモアゼルが早まった様で、私としても傍観を決め込む訳にはいかなくなった次第で。」


『相変わらずじゃのぅ、お主は。まあ大婆おおばば様の元にいる時から変わらずなのは、こちらとしても与し易いが。見習わせたいくらいじゃ。』


『……殿下(汗)。ここにその将軍がいるんですが? はぁ……息災でなによりです、グラジオス准将。共に裏方で骨を折る仲、またお会いできて光栄です。』


「いえいえ、こちらこそ。かの不死身の将軍と名高い、カツシ・ミドー卿のお眼鏡に叶うは感慨の至り。そうかしこまられては、こちらが恐縮してしまうねぇ。」


 先んじた言葉に返すは、准将のノリと最も相性の良い返し。

 彼がかしまるは当然である存在の、紅真こうま皇子殿下その人である。

 次いで嘆息ののち言葉を繋ぐは、現在破天荒皇子と共にある女神とその乗機者――


 皇王国調律騎士クラウンナイツ、カツシ・ミドーであった。


『なんだ……この御方は、また皇王国に絡む人って奴か? 味方で間違いはないんだろうな。』


「おや? 君は……ほほう。なるほどなるほど、そう来たか。」


 その会話で置いてけぼりを食らった影。

 己をアピールする様に高貴なる者の会話に紛れ込むは、言わずと知れた彼らとの共闘を宣言した戦狼 アーガス・ファーマーである。


 だが戦狼アーガスが醸し出す雰囲気を察した戯けた准将は、僅かに双眸を見開き納得と言った首肯で猛き戦狼を見定めた。

 同時に今の彼に必要と言える、持ち得る情報でも相応しきモノを選別して贈呈したのだ。


「話には聞いているよ?元ザガー・カルツの狂拳 アーガス・ファーマー。しかし皇子殿下のお側にいる時点で、もはや狂拳などと呼ぶのは失礼千万。お相手せねば。ああ、それと――」


「君の同僚であるユーテリス・フォリジンの事だけどね。彼女も現在かの部隊とたもとを分かち、今や力無き子供達を守護する古巣……革命の志士 アンタレスニードルへの復帰を果たした。何れ彼女と君の道が交わる時も近いねぇ。」


『……っ!?ユーテリスを知ってんのか!? それに、アンタレスニードルは聞いたことがあるって奴だ! まさかあいつ、そんな所の出だったのかよ……。』


 准将の言葉で驚愕を覚えた戦狼は、語られた元同僚の無事と今の姿を聞き胸を踊らせた。

 同じ部隊でいがみ合うが常であったのは、その先に似た未来を行く因果を持っていた故と。


 、彼女の決断こそを尊び賛美した。


『ではグラジオス准将。ここから、彼らの所へ向かうまでの補給を済ませておいて下さい。こちらは火星圏政府への睨みを効かせている今、動く事が叶いません。どうか――』


『どうかあの、太陽系の未来背負う奇跡の部隊をお守り頂けたらと……。』


「委細承知。このグラジオス・ロデル・ウーラニアス……アマテラス大婆おおばば様の名に懸けて、かの部隊へのお力添えをして差し上げましょう。」


 破天荒皇子の視線に調律騎士の深く垂れたこうべ

 そして新たに守護者の名乗りを上げた戦狼へ敬意を表し――



 いつもの飄々とした雰囲気を捨て、敬礼を以って応える准将がそこにいた。

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