第233話 禁忌の機体を再生せよ!
未だ傷が癒えていないはずの
さらには、同席した者達と併せて語られた言葉で、さらなる絶句を生む事態となる。
「……待つんだクオン。昨日の今日だぞ? リヒテン軍曹からも、君はまだ傷の完治がなっていないと報告を受けたばかりだ。それがその君主導となり、この宙域にあるファクトリー別工場へ赴くなど――」
「はい、無茶は承知の上です。しかしながら……先程
まだ傷も癒えぬ英雄は語る。
火星圏の外れに当たる砦宙域の、ある施設へ赴く許可を取り付けに来たと。
英雄が指し示す宙域には、セレシオル・アームズ・ファクトリー社の別工場となる小ソシャールが存在し、中でもそこは型付き兵装を始めとした極秘兵装大改修の叶う施設。
英雄少佐は
その旨を携帯端末にて確認した旗艦指令。
眉根を寄せ思案しつつも、今後を鑑みた決断を取捨選択する。
何より、部隊指揮を担う英雄少佐がそれを必要としているのならばと、重い口を開いた。
「確かにブルーライトニングの破損状況は、長期任務の最中であるキャリバーン内では、時間的に見ても修復遅延の恐れは拭えない。ならばいっそ、セレシオル・ファクトリーが持つ施設へ運び、整う専用設備を用いて大改修を試みる――」
「加えて、護衛も兼ねた
「はい。オレの傷に関しては、一応生体修復ナノマシン注入の元大事は取る方向です。が、何分ブルーライトニングの本質である、
旗艦指令へと語られる英雄少佐の作戦案はこうである。
さらには元々
最前線に於ける最強の一角の復活と、その背を守る
同時にそれは、部隊に於ける中核の三分の一を一時的に離脱させる事でもあり、それなりのリスクも伴う案件でもある。
そこへ、機体共々部隊指揮代理の叶う様になった
旗艦指令は、今後訪れる危機的事態が生むリスクと、得られる成果を思考で照らし合わせ、苦渋の決断で言葉を放った。
「やむを得まい。許可しよう。それが最善策以外の何物でもないのは、もはや決定付けられているのだからな。」
「ありがとうございます指令。では只今より、クオン・サイガ率いる臨時兵装改修メンバーは一路、セレシオル・ファクトリー別工場ソシャールへと向かいます。」
決を下した旗艦指令へ、一同に介した兵装改修メンバーが敬礼を成し――
そこから善は急げと、英雄少佐の指示の元
全ては、
》》》》
無理を押し通す形となったオレ達は、セレシオル・ファクトリーが所有すると言う別工場へと進路を取る。
そこまでの進路を取る
加えて、ブルーライトニングの改修を一手に引き受け、さらにはファクトリーとの代理交渉を進言してくれたマツダ技術顧問。
今エクセルテグに搭乗しているジーナを含めたメンバーだ。
そんな中――
「少佐はそのままベッドで休んでいて下さい。先の
「分かっているさ。けど……らしくなって来たじゃないか、ウォーロック特務大尉。これならば宇宙特殊自衛隊発足の未来も明るいな。」
「……か、からかっても何も出ませんよ!? ファクトリーまでの道中で、お身体に異常があれば必ず私の方へ報告を! いいですか!?」
ウォーロック大尉のお言葉に圧倒されるオレは、当然無理を出来る状況ではなく、
そのまま大尉のお小言を浴びせられる視界の端に、端末映像先のエクセルテグ搭乗中であるジーナが、クスクスと漏らす笑いと共に映し出された。
『もうクオンさんを、医療的な側面で叱れるローナさんはいません。けど、アレットさんにピチカちゃんと……クリシャさんがいれば大丈夫みたいです。』
「ジーナ、面白がってるだろ(汗)。けど……それが彼女の残した希望だからな。甘んじて受ける他はないさ。」
笑いを零す彼女の言葉にローナの名が紛れ込む。
しかしそれは、偉大なる女医の死をいつまでも引き摺る感じではない、その死を刻み前へと進む決意からのものだ。
そんなやり取りをするオレ達を乗せた
セレシオル・ファクトリーが有する別工場ソシャールへと辿り着く。
工場施設は周囲の小惑星から隠れる様に陣取っており、それだけでこの火星圏の危機的内情を突き付けるには十分と言えた。
「では、工場との交渉は私めにお任せ下さい。ですが、何……この工場で働く従業員はみな、私の右腕達ばかり。それこそ私が地上の誇る唯一の内燃機関の名を口にすれば、仕事も忘れてのめり込む者達――」
「ブルーライトニングの大改修を嫌と言う者は、存在しますまい。」
「色々と助かるよ、マツダ技術顧問。これもロータリーエンジン様々だな。」
オレ自身は、身体状況改善が見えるまでベッド上での指示とし、交渉から何からをマツダ顧問へと任せる方向だ。
万一を鑑み、ウォーロック大尉率いる武装救助隊をジーナのエクセルテグと連携の上、優先で改修にあたる
肝心の武装救助隊にエクセルテグも、今回は改修対象だ。
そこでウォーロック大尉を呼び出し、優先的に成すべき事を成すため、病室で彼女を手にした携帯端末と共に待つ。
「ウォーロック特務大尉です。少佐殿、お呼びでしょうか?」
「ああ、すまないな。ブルーライトニング曳航まで任せている中、オレがこんな状況で。本題だが、まだ君に報告していない件がある。これを見るんだ。」
「はぁ……。救助隊の私に?ですか。拝見します。」
バタバタする中での呼び出しにも文句一つ言わぬ彼女の愚直さは、流石あのシャーロット中尉が育て上げただけの事はあると感嘆を漏らしながらも、彼女へ伝える旨を収めた携帯端末を差し出した。
何事かと眉根を寄せた彼女が、疑問符から驚愕で目を見開いた後、弾かれた様に顔を上げた。
「しょ……少佐! これは、この機体はっ!?」
「分かるか? それは
「なのだが、彼女が救急救命隊に武装を備えた機体を配するなど言語道断と、封印されたままだった個体だ。」
端末に映る機体は、
救急救命隊の機体は10mに満たぬが、それはサイズからしても武装機動兵装に近しい規模。
加えた機体装甲色が、白地を基盤とし赤のワンポイントが各所へ輝く時点で、救急救命隊専用と判断出来る。
その背に各部にと配される、デフォルト装備の武装群を除けば。
「これは、君の姉であるシャム・シャーロット中尉よりの言伝だ。この武装した新型救急救命機、〈
「私に……この武装救命機を!? これを、姉さまが私に……。」
ハトが豆鉄砲を食らった様に見開く彼女の双眸から、程なく涙が溢れ落ちた。
ウォーロック大尉は確かに姉が望まぬ道を行ったかも知れないが、同時にそれは救急救命隊の新たな道を切り開いたも同義だった。
故にその機体は、姉が妹の巣立ちのために準備した、
端末映像を凝視したまま一頻り涙を流した大尉はそれを拭い、凛々しき敬礼を以って返答とする。
そこでまた新たな戦力追加が成ったと、安堵したオレであった。
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