第231話 火星圏の嵐は救いし者達を巻き込んで
救世の部隊へ、致命的な一撃を見舞う事に成功した
しかしテストと銘打ち襲撃を敢行した漆黒側も、想定以上のダメージを被っていた。
「あの
「はい、その方向で火星圏拠点との調整を進めて置きます。」
『それは中々興味深いな。この
当の漆黒は、
古代技術に準える医療設備の管に巻かれて、後の部隊に於ける戦力的な詰めを行っていた。
漏れ出る新型との言葉には、
そこへ――
『ヒュビネット隊長。指示のあった情報を、火星圏連合の宇宙軍へ流して置きました。じき、クロノセイバーを許可なくソシャールへ駐留させた件で、アーレス・リングスの管理局は問いただされる事となるでしょう。』
「いいタイミングだ、ユミークル。こちらもすぐフレスベルグへ帰投するが、しばらくデスクロウズの調整も必要だ。だが、それが終われば遂に我らの戦いの本懐へと進む事になる。心しておけ。」
現在
ようやく戻ったトレードマークたる嘲笑を浮かべる漆黒と、隣り合い電脳姫の声を疎ましく聞き流す狂気の狩人。
程なく大型高速艇は、巻き起こる嵐から遠ざかる様に火星圏砦たる宙域を後にしていた。
そこから時間を置き、漆黒の企み通りの通信を傍受した火星圏連合宇宙軍は、宇宙の砦へ向けた軍を編成。
旗艦を中心とした戦術航宙艦艇十数隻に加え、虎の子であるフレーム搭載空母を配備する。
加えて、およそ十機のエリート型付き兵装、
さらにその混成艦隊を、互いが
『あのトランピア・エッジは、すでに指揮官を失っている。と言う訳で、貴官へその部隊取りまとめを移譲する。せいぜい成果を出して見せるのだな。』
「了解した。こちらはあの、サソリ共に舐められた屈辱を晴らす機会を欲していた所。願ってもない。」
アレッサ連合政府よりの通信へ答えるは、先に
未だ治りきらぬ片足をかばう様杖を付き、双眸へ復讐の紅蓮抱く彼女はすでに、戦いへ多分の私情を混ぜ込んでいた。
その大艦隊が組織される最中。
憂う眼差しで全てを監視する影が、火星圏衛星軌道上の小ソシャールで独りごちる。
「おやおや、なんて事だ。これはもはや、監視で留められる状況ではないねぇ。こいつは困った……あのマドモアゼル、サソリの毒にやられる所かそれを根に持ち、復讐と言う武器に変えてしまうとは――そろそろ私も潮時かねぇ。」
眉根を寄せ憂う言葉漏らすは、かつてアンタレス・ニードルの前に立ち塞がった飄々とした大尉、グラジオス・マーグである。
望まずして視界に捉えた惨状を踏まえ、彼が仕えると思しき存在に向けた通信を行う。
それも只の通信ではない……
「こちらグラジオス・マーグ。あ〜あ〜聞こえますか?
『ええ、それはもうよく聞こえていますよ?グラジオス――
「いえいえ……(汗)。こちらは誰が聞いてるか分からないのですよ?
耳にした者が卒倒するであろう名で呼び称される、
通信先……ムーラ・カナ皇王国 最高権力機関にして、王国最年長となる古代王国ラ・ムーの血統に連なる存在との、気の知れたやり取りに終始していた。
》》》》
ヒュビネットの襲撃から二日が立つ現在。
クオンさんは未だ病室での安静が言い渡されていた。
俺も部隊指揮官たる彼がまさかの行動不能に陥る中、何も出来なかった事を悔やむ様に、旗艦内の現状把握と足を運ぶ。
それは
「
「ああ、今日も給仕ごくろうさまっすペティアさん。まだ本調子とは行きませんけど、クオンさんの身体も順調な回復を見せてるっすよ。」
「よ……良かった。私ども給仕班もみな、少佐のお身体をどれほど心配した事か。あの方はいつも、我らが戦場である給仕場への見回りさえも怠らず、一人一人声をかけて下さるのです。」
「そうっすか。クオンさんはやっぱり、旗艦に属する皆の心まで考えられるお人っすね。」
食堂付近で心配そうに声をかけてきたペティア曹長。
言うに及ばず……彼女率いる給仕班は、俺達の後方も後方――生活に於ける食の面でのサポートを熟してくれるかけがえないクルー。
流石のクオンさん、そんな所にまで目がいってたのかと、本当に誇らしく思える。
頼れる食堂の将へ労りを送りつつ、その足でキャリバーンの階層を下へ。
居住区画も視界に止めながら歩む先。
今では気軽に話す事も叶う清掃任務の雄、鬼美化で知られるナスティさんの姿が映った。
当然彼女もクオンさんを何より心配する点は変わらずで、こちらを目に止めるや走り寄って来た。
「
「し、四六時中清掃っすか……流石はナスティさんっす(汗)。けど、それなら心配ないっすよ? クオンさんは現在順調に、怪我の復調を見せている所っす。ナスティさんもそうっすけど――」
「居住区画をあら方回った感じでは、皆さんクオンさんを心配してたっすから、今俺が見回りがてらに、あの人の無事を直に伝えて回ってる所っす。むしろ皆が心配しすぎると、クオンさんの事だから、逆に無茶しそうなのが恐いぐらいっす(汗)。」
自分で口にしててあれだけど、クオンさんほどの責任感がある人なら、無理して戦場に出そうな予感が過り嫌な汗が溢れてしまう。
するとナスティさんも、それはそれで困るとの苦笑で落ち着きを見せてくれた。
「あ、ありえますねぇ(汗)。じゃあ少佐が完全復帰したら、
「すわっ!? それ俺の役目っすか!? 」
状況を確認し安堵するや、無茶振りのまま颯爽と作業に戻る鬼美化の化身。
これはあれだ……部隊を指揮するお人の事が気になりすぎて、自分の仕事が手につかなかった感じだな。
こちらもこちらで頼もしいと思う一方、深く刻まれた事がある。
それはこのキャリバーンに、戦場で戦う者だけではない生活環境管理を一手に引き受ける人達がいる事実。
過酷な戦場へ赴くと気負う余り、忘却しそうになってしまった大切な事。
俺達は彼女達の支えがあるからこそ、厳しい戦いを乗り越えられた。
きっとそれを忘れたならば、戦う意味が根本から変容してしまう。
そんな思考を抱きつつ、
脳裏でクオンさんの負傷からこちら、感じて止まない不穏の
フォースレイアーに覚醒したからこそ、鋭敏に研ぎ澄まされたそれが俺の魂へ警鐘を鳴らす。
すぐに機体を動かせるのは、実質俺のライジングサンとクリシャ特務大尉のレスキュリオだけである事実を踏まえ――
静かなる不穏の予兆を見逃さない様、心を
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