第225話 その喉元に突き付けられるは死の刃
境界監視中継ソシャール〈アーレス・リングス〉。
そこは太陽系の外縁と内縁の国境とも言える場所であり、小ソシャールを中心とした微小惑星帯公転軌道上の各
それらから数多のデータを集積する事で、火星圏と木星圏間を行き来する渡来者などを検閲する機関である。
そこには宇宙空間の艦船航行に於いて可能な限り燃料を節約出来る点に加え、指定航路を取り決める事で内外星系の治安維持を保つと言う側面があったからだ。
多分に漏れず、木星圏を代表する
『ようこそ、木星圏はアル・カンデ防衛軍所属のクロノセイバー。当方はあなた方を歓迎します。』
「それはありがたい所ですが、良いのですか? この様な身勝手な優遇処置が、火星圏政府の耳に入れば――」
『何……今政府は、内紛への対応に奔走中。皆様も知り得ているでしょうが、かのボンホース派閥が
『その災禍に巻き込まれる我らは、あなた方の様な義を翳す者にすがるしかないのが、今の火星圏と言う世界です。』
火星までの通行ゲートの役割を担う小ソシャールは、同公転軌道上
ソシャール単体では小規模であるが、構造物全体からすれば重力連結アームを含め全高・幅30kmに及ぶ宇宙施設である。
その一角である宇宙港へ寄港した
彼が直々に部隊を迎え入れていたのだ。
その通信を警戒態勢のまま聞き入るフレームパイロット達。
だが通信内容を耳にした彼らは、一層火星圏に足を踏み入れたとの警戒心を高めさせる。
「各員、警戒態勢は旗艦がドックで連結終了を見るまで。その後はそれぞれの判断で、施設内での制限付き自由行動を言い渡されている。そこで火星圏の現状を把握するのが、ここでの任務だ。」
『『『『了解。』』』』
中でも、警戒の鋭さが群を抜いていたのは
そこにはただならぬ感覚が渦巻いていたから。
「(嫌な感覚だ……。まさか、近くにいるのか?奴は。)」
彼が感じるはドス黒い漆黒の漣。
この宙域の何処かに、漆黒の嘲笑が潜んでいるとの感覚を。
程なく寄港後、ドックアームとのドッキングを経た
それぞれ
「ではこの後、調査結果を取りまとめるまでの間、各自自由行動を装い情報洗い出しに向かってくれ。」
敢えてパイロットらへ私服での行動を言い渡した、英雄少佐が号令をかけるが……諸々の事情後でもあるため、英雄少佐と連れ立つ
「……クオンさんとジーナさん、雰囲気(汗)。これは、調査任務も含まれてるっすよね? なんでこう、イチャイチャ感が全面に押し出されてるんすか? 」
「あなたもそれが分かる様になったのね。いつまでも朴念仁では、翔子ちゃんとアシュリーにも悪いし……いい傾向だわ。」
「つか、
「ふぅ……生意気。こうしてやる。」
得も言われぬ英雄と少女の関係を口にする
すでに別れての行動に移る支援部隊側パイロット達。
その中で一人、モールへと続く高架上から勇者を見下ろし、寂しげな視線を振りまく
「ムーンベルク大尉、遊びに来ているのではない。私情で思考を曇らせるな。」
「ぬあっ!? なんでクリフ大尉に、そこを突っ込まれなければならないのよっ!」
それを察する
両支援隊皆も、図星で声を上げる恋する少年な少女を見やり苦笑を交わし合う。
時を置かずして、情報収集任務が開始される事となった。
》》》》
アーレス・リングスは外縁との境界を守護する役目の他に、あのセレスが擁する小ソシャール同様の商業地としての一面も
詰まる所、小惑星帯を挟んだ内縁と外縁が
「一部では戒厳令が出されているらしいな。このショッピングモールも人がまばらだ。」
「ですね。あのセレスにあるニルバ・ニアと比べても、人足がまるで及ばない……。これが戦争と言うものなんですね。」
まばらに見える者は、そのほとんどが一般人を装う軍事関係者に安全保障管理会社関係の者だろう……オレ達クロノセイバー寄港の事を耳に入れているらしい皆は、こちらが私服にも拘わらず敬礼を返して来る。
隣り合うジーナも感じているだろう……これが戦時下にある街の現実だ。
「地球では、こう言った紛争に戦争などが未だ溢れているんだろう? いつかそれが無くなるといいな。」
気休めだが、ここはジーナの心境を汲んでおく。
地球の大地は、一見進んだ文明に彩られた華やかしい所ばかりがネット情報網を占拠するが、それは一種のプロパガンタ。
今彼女が心を痛めている様に、決して止む事のない戦火が今も罪なき者を焼き続けている。
何より彼女は、その戦火が飛び火し惨劇を経験してしまった者だ。
「……はい。無くなると、いいですね。」
オレの言葉へ無理な作り笑いを浮かべる彼女は、
今の彼女は力なき者ではない……力持ちてその戦火を止める資格を有する者だから。
そこから僅かな沈黙を挟んだオレ達は、どちらとなしに近くのテーブルを視界に入れ言葉を放つ。が――
「「何か飲み物でも……――」」
口を突いて出た言葉が被ってしまった。
そこでようやくいつもの雰囲気へと戻るジーナが、こちらを制し近くの店舗内にある簡易ドリンクバーへ足を向ける。
その間オレは、すでに愛しき相手となった少女の
ベンチシートは2つのテーブルへ背を向け合う様に並び、当然の如くそこにはオレ達以外の客足は皆無だ。
まるで一人取り残された様な既視感の中、思わず苦笑が込み上げて来る。
かつて一人で、マンション一室へ引き篭もっていた時が脳裏を掠めたから。
「思えばあの時、再び
自嘲気味に独りごちるオレは、当時の情けなく、惨めだった自分へ言葉を投げた。
前へと進む今のオレを誇りながら。
「だが安心していいぞ?過去のオレ。お前はもう独りじゃない。失った友も帰還した。掛け替えのない家族も手に入れた。だからお前は……オレは、これから前へと進んで行ける。」
空調設備から吹く疑似的に自然を模した風が、オレの髪を撫で上げて行く。
過去のオレが「そうか、頑張ったな」と投げかけたかの様に。
ジーナが飲み物を運んで来るまでの間。
それが何時間もの時を刻む錯覚を覚えた、刹那。
氷の刃が通過したかの気配が――オレの喉元を襲った。
瞬時に己の警戒を最大に引き上げ、周囲の気配を探りにかかる。
だがその気配の元は……あろう事かオレのすぐ背後で、殺意の波動を浴びせかけて来たんだ。
「ほう……? 随分と余裕がある様だな、英雄とやらは。」
「……っ!? エイワス――」
「ああ、その手にかけた銃を抜くは判断の誤りだ。俺は丸腰。よもや救いの英雄たる者が、丸腰相手に銃を向ける様な真似は……しないだろう?クオン・サイガ。」
背後より響いた声は、戦慄。
幾度と耳にし、オレの因果を8年前のあの日より狂わせて来た、忘れるはずもない深淵の闇。
すぐ背にあるベンチシートで座しているであろうその存在を、オレは気取る事さえ出来なかった。
否――
僅かな違和感を、背後から感じ取っていた。
「エイワス・ヒュビネット!なぜお前がここに……! 」
振り向けぬ強烈な威圧と、壮絶な違和感が襲う中……ヤツはオレへと語り出したんだ。
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