第223話 古代戦神文明紛争



 赤き星と呼ばれる世界は、マルス星王国滅亡と共に泥沼化した紛争多発地帯へと変貌した。


 英雄殿よりミーティング時間を設けて頂いた我らは、場所を旗艦内の大ブリーフィングルームへと移し腰を据えた。

 そこでその泥沼化となる要因についてを語って行く事とする。


 当時、星王国滅亡の引き金を退いたとされる火星地上の中心星州〈アレッサ首相国〉は協力各国を従え、火星宙域側治安に務める保守評議会と対立。

 そこには星王国と言う最大の障害排除実現に加え、彼らが発見・独占したとされる火星地上の遺跡が要因と言われていた。


「火星地上……確か、ムーラ・カナ皇王国が管理所有するロスト・エイジ・テクノロジーに準ずる技術体系。歴史上では、先文明技術以降に世界へ広がったとされるものね?クリフ大尉。」


「そうだ。歴史的に見て数千年単位後発のため、違う時代線の後継的な文明と、考古学者らも結論付けている。さらには――」


「その文明へ、観測者になぞらえる者が関与しない……言わば無秩序に栄えた技術体系か。」


 神倶羅かぐら嬢に英雄殿が口にした通り、私としてもあくまで学者からの意見と言う受け売りレベルだが、持ち得る情報としてはその程度。

 だが……英雄殿はその点へ、一家言ある観測者の下りを追加する。


 その観測者の監視下にないと言う事実こそが、終わりなき紛争助長の引き金でもあったのだ。


「私が火星圏へ、中央評議会出向部隊として派遣されたのは、一度は聞いただろう……息子を見殺しにした事件と前後する時期。言わば紛争の悲惨な状況こそが、その事態を招いたと言っても過言ではない。」


 皆を前に改めて口にする過去の惨状は、己の中へ義とは一体何かと疑念をもたげさせるに充分だった。


 紛争に次々送り出された、古の技術に準える機動兵装群。

 それを独占的に支配するアレッサ連合諸国はやがて、火星圏の勢力を二分するまでに成長を遂げた。


 あの火星圏を御していたはずの保守派議会も、すでに彼らの横暴を止める事が出来ぬ現状――


 それが現在の、クロノセイバーによる防衛的武力介入を行わざるを得ない事態を招いている。


 そこで沈黙と共に少しの間を置く。

 少なくとも英雄殿に神倶羅かぐら嬢、加えてΑアルファ・フォースの面々は軍民を越えた所での理解を有する者。


 差し当たっての問題は、新参からようやく上り詰めた紅円寺こうえんじ少尉とメレーデン少尉。

 加えて、新たに武装所持許可を言い渡されたウォーロック特務大尉だ。


「皆さんこちらをご覧下さい。これは我らがまだ、キルス隊として火星圏で任務に当たっていた頃のデータ群でが……ここへかの火星圏 地上連合政府が所有する、機動兵装に艦隊群詳細をまとめてあります。」


「この雑兵の如き兵装と上位に値する汎用機体、それにスーパーロボットに属する機体は厄介ですぜ? 雑兵たる武装は、どうやってるかは知らねぇですが、。」


「対する上位兵装には、かのエースパイロット排出では宇宙人そらびと社会一と名高い、マーズリヒト首相国からの精鋭がゾロゾロ雁首がんくび揃えてる様ですぜ。」


 話を切るや、若者らの心情をおもんばかる我が隊の精鋭らが、こぞって情報公開に乗りした。

 すでに部隊が家族と言わんばかりの彼ら……パボロもディンも、進んで協力したいとの心持ちが見て取れる。


 だからこそ告げて置かねばならなかった。

 これからおもむく宙域は、


「少佐殿、神倶羅かぐら大尉、Αアルファ・フォースは兎も角……死地が初めての者はそのデータをよく頭に入れて置く事だ。我らはそんな者を相手取る覚悟で、振るう武器に義を翳し、立ち回らねばならんからな。」


 ここに集まる者に、今の言葉が理解出来ぬ輩などいない。

 私はただ、その事だけは心からの安堵を覚える事となった。



 若者らに、息子同様の悲劇を辿らせる訳には行かなかったから。



》》》》



 禁忌の聖剣キャリバーンは一路、火星圏は最初の関門となる小惑星アステロイド帯宙域内縁果てへと航路を取る。


 中央評議会が防衛の拠点とするのはその内縁果てまでであり、そこから火星より地球圏の外縁までを管轄するのが、火星圏を代表する火星評議会である。


 が実情、評議会が保守派と改革派に別れ、さらにはそれらの支配を受けぬ独立弱小国との対立が深まり――


 まさにその小惑星アステロイド帯内縁宙域よりが、紛争の多発地域と見ても過言ではなかった。


「いよっ! あんたがファクトリーをまとめてたってお人だな! クオン……もとい、少佐から話は聞いてんぜ!? 確かマツダとか言ってたな! 」


「おお、こちらの整備部門を取りまとめるマケディ殿か。これからはお世話になるサダハル・コーラル・マツダです。すでに会社社長の座を退いた手前、一技術専門スタッフとして扱ってもらって結構です。」


「と言う事で軍曹、マツダさんを含めた整備チームでこれから仲良くやっていくっす! また整備にも技術開発にも、精が出るっすよ? 」


 その道すがら、機動兵装パイロットらがパイロットに必須のあれこれをやり取りする中、機動兵装を始めとしたデータ収集を任された旗條きじょう・ディスケスに連れられ……元ファクトリー社長が格納庫へ赴いていた。


 それを話に聞き及ぶイカツイチーフマケディも、同部門へ新たな仲間が増えるとありご満悦。

 迎え入れていた。


「おうおう、あの旗條きじょうがえらくなったもんだな! 嬉しいぜ、こんちくしょう! マツダさんも分かんだろ!? 自分の育てた若集が、ドンドン勢い付けて出世する感動が! 」


「なるほど、旗條きじょう准尉はマケディ軍曹の……。実に同感です。私もつい先日、若者へ我が会社の明日を任せて来た所。みな信頼出来る気鋭ばかりでしたよ。」


「チ、チーフは煽てても何も出ないっすからね!? それより――」


 そこへ整備チームをまとめてはや幾星霜なイカツイチーフも、育て上げた新進気鋭たる若者賛美の言葉を放てば、同じ穴のムジナたる挑戦する老齢サダハルもしたり顔を浮かべるや応じる。


 煽てられた気鋭の若者ディスケスも紅潮し視線を泳がせた。


 だが積もる話をさて置いても優先すべき事項があると、気鋭の若者が切り出した。

 言うに及ばず、挑戦する老齢がこの整備部門として配属された最大の点についてだ。


「このマツダスタッフが、本人立っての要望である機体専属を申し出てくれたっす。それはΩオメガ……今は機体正式名称を与えられた、ブルーライトニングの専属って訳っす。」


「あの機体の……。そりゃ助かるが、大丈夫か? ありゃロスト・エイジ・テクノロジー中でも、旗艦キャリバーンに並ぶ禁忌中の禁忌だ。俺達でもまともに手出し出来ねぇ所がある。それに――」


「機体の本質的な所は英雄さんが理解してる様だが、俺達にはてんでさっぱりな気難しいやっこさんだぜ? 」


 気鋭の若者が語る言葉で歓迎ムードが一転、難しい表情をチラつかせるイカツイチーフ。

 それもそのはず……かのチーフがまとめる整備部門でも、蒼き霊機ブルーライトニングが持つ古代技術の産物ゆえの特性に、頭を悩ませた今までが脳裏を掠めていたのだ。


 それでも……その言葉はむしろ挑戦する老齢にとって、


「ふふ……技術者が頭をひねる難題へ挑む、か。良いではありませんか。――その方がここへ便乗した甲斐もあると言うもの。さっそく、参照可能なデータを拝見できますか? 」


 新しいオモチャを見つけた子供の様に双眸を輝かせた老齢へ、むしろ呆気にとられたのは気鋭の若者とイカツイチーフ。

 程なく二人は、整備部門へまたとない強力な助っ人が舞い込んだと視線を交わし合う。


 つつが無く進む技術者達の共演。

 そしてその邂逅が、遂に一つの道を開く引き金となる。


 挑戦する老齢の熱を覚ますまいと、イカツイチーフが案内したデータルーム。

 そこには、現在旗艦に搭載される全ての機体データに整備手順が閲覧出来る場所。


 旗艦に於いては、第一級の極秘施設に相当する場所である。


「ではこちらをご覧下さいっす。マツダスタッフ念願の、Ωオメガ・フレーム グラディウス・ブルーライトニングに関するデータ欄っす。ですが――」


「この中でも俺達が手に負えず、さらにはあの英雄様も未だ手つかずなのがこれ。コードΩオメガを冠して以来、何人たりともメスを入れられなかった統一場粒子クインテシオンリアクター。ただ出力調整に於いては、あのジーナ嬢ちゃんが見事御して見せてはいるんだがな。」


 眉根を寄せる二人。

 整備部門では、イカツイチーフと気鋭の若者は一級の技術者で通る。

 その二人が揃って眉根を歪めると言う事は即ち、整備部門でも難題中難題である事は想像に難くなかった。


 だが……だがである。

 新しいオモチャを見定める挑戦する老齢が、双眸を見開いた。

 そこにはありえないモノが映し出されていたから。


「……お二人共、これがあのΩオメガに搭載される機関と? こんなものが……。」


「あんた、これ分かるのかい? 俺達には、どうやったらこの形状からあれだけの膨大なエネルギーが生み出されるのかが、検討もつかないんだ。」


「でしょうね。これはサイズさえ違えど間違いなく、。けれどそれがこの規模となると――」


 滴る汗は、今までお目にかかった事がない未知の存在に遭遇した様な――

 否……それは、言うものだった。


 そこまでを口にした挑戦する老齢はデータ室の席へ陣取るや、旗艦データベースに存在する可能な限りのデータ閲覧へ乗り出した。


「お二方……しばしお時間を頂けないでしょうか。私なりに調べてみたいのです、この禁忌と名付けられた霊機が生み出された経緯を。」


 席に座するや人が変わった様にデータ閲覧を初めた協力者へ、羨望を送り二人は首肯を交わす。



 それから、かの禁忌と言われた機体を彼へと任せる様に、二人は静かにその場を後にしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る