第222話 出撃!火星圏の戦禍へ向けて!
彼女の凄惨な過去から来る男性への憎悪は、部隊編入当初でさえ一触即発が常の状況。
そこから過去を想像するだけでも、心さえ痛んで来る。
そのアシュリーなら、あのメンフィスと言う男の過去を聞き及べば、共感を覚えても不思議ではない。
さらに、すぐさまその点で動いたアシュリーには称賛さえ贈りたい所だ。
そう思考に宿し、向かうは指令室。
部隊指揮官たるオレと、救いの要へ押し出されたウォーロック少尉含めた救急救命部隊代表が呼集される。
今後の部隊が向かう先での作戦要項に加え、正式に救いの要へのメスを入れるためだ。
「クオン・サイガ少佐です。」
『うむ、来たか。入り給え。』
短い応答から、すぐに扉が排圧を伴い開放される。
すでに居並んだ面々も視界に入れた。
そこで、先に獅子奮迅の活躍を見せた
「では揃った所で話を始めよう。まずは先の作戦で、見事ファクトリーソシャール及び社員家族救出を成し遂げた作戦指揮官……
「いえ……。私も自分で初めて
「このクロノセイバーが構築して来た、仲間同士の絆と信頼。そして機動兵装をただの殺戮兵器に貶めぬと言う、気概と覚悟があってこそと考えております。」
指令の言葉へ凛々しき敬礼と共に、客観的意見で事を見定める
これこそが、オレの引き篭もっている間に前進機関を支え続けて来た素養だ。
こちらのごくろうさまとの視線へ「あなたの苦労が身に染みたわ。」と苦笑で返す彼女。
同時に、万一部隊が分断された際の要がまた一つ増えた今を噛み締める。
続いて指令の言葉は、救いの要へと移って行く。
「うむ、その心意気を忘れぬよう励んでくれる事を期待している。次に――ウォーロック少尉、こちらへ。」
「は、はいっ! 」
こちらはまだぎこちない感じが包むも、あの大災害を乗り越えた救急救命の要。
我らを影で支え続けてくれた医療の砦たるローナが、命に変えて守り抜いた……救急と医療の輝ける希望だ。
「今後ウォーロック少尉には救急救命部隊の指揮を拝命する事となるのだが……時が時だ。工藤大尉より進言があった中尉への昇格と言う内容では、まだ不足と感じている。」
「……はっ?それはどういう――」
そんな少尉は、指令が放つ想定外の解で呆けた様になり、横に居並んだシャーロット中尉に小突かれているな。
そして直後、それは放たれる。
クロノセイバーの本質的な部分へとメスを入れ、部隊を新生させる言葉が。
「今後我らは、想像を絶する戦火の只中へ飛び込む事となる。中でも救急救命隊の活動は、常時死と隣り合わせの極めて危険な任務だ。そこで軍部との連携を強める意味も含め、改めてウォーロック少尉昇格を言い渡す。」
「クリシャ・ウォーロックはこれより新設する〈武装救助隊 特務大尉〉となり、救急救命部隊が武器を取らねば生き残れぬ際の、救命部隊全体指揮を任せる事とする。合わせて
「と……特務大尉!? 私がっ!? 」
ウォーロック少尉だけではない、その姉に彼女を推した工藤大尉までもが驚愕していた。
だが、指令の言い分は理解出来る。
恐らく指令はバンハーロー大尉にシャーロット中尉より、戦火の惨状や救急救命に携わる者に降りかかる、過酷な因果を聞き及んでいるんだ。
この特例こそが、後に〈
そこまで考えて、ウォーロック特務大尉と言う希望を据えたに他ならなかった。
今回
けれど想定もしていなかった。
目的となる火星圏へ辿り着く前に、遂に覚醒を見た漆黒の刃が振り下ろされる現実など。
》》》》
すでに
艦隊戦を想定し、
本来、
それが監督官のみの臨時許可を得ての解除が叶うのは、今が人類史に於ける稀に見る由々しき事態と断言されているに等しかった。
『これから火星圏への、本格的な作戦へ向けた航行となる訳だが……許せよ? 事態が事態だけに、今この評議会で動かせる部隊に人員は限られる。』
「お心遣いだけでもありがたい所です、議長閣下。我らとしてもこの後方……火星圏からすれば最後の砦たる評議会に何かあれば、アル・カンデどころか海王星に天王星宙域祖国にまで、戦火が及びかねないと考えている所。」
「ですので閣下は、この評議会とセレス宙域へ住まう民の、剣に盾となって下さい。」
『委細承知した。武運を祈る、救世の志士達よ。』
戦場へと赴く志士へ、評議会代表である
議長とて出陣したい所であるも、ここは広大な宇宙空間。
一度場を離れれば、万一不測の事態が強襲した際手遅れとなる。
だからこそ、守りを固める武力を
それを理解した上での短い通信が切断され、
見送る同胞の想いをその背に受ける機動兵装パイロットらも、艦から宙域一帯を見渡せる強化ガラス防壁前へと、敬礼と共に居並んでいた。
「いよいよ火星圏だな。正直ただではすまないと思っているが、皆を信頼している。」
視線を皆へと戻し語るは
8年の引き篭もりと罵られた姿はもはや過去であり、多くの命に世界の救済を成し、たった一人の掛け替えのない同僚を失っての今を生きる。
その文字通りの英雄が、粛々と言葉を紡いで行く。
「火星圏の内情を議長閣下から聞き及ぶ限り、
「オレ達クロノセイバーは
通常戦争と言われる戦いで、相手を労る余裕など存在するものではない。
だが、それは拮抗する力の元での話であり、片方が圧倒的な力を有するならばそれも可能な場合も存在する。
且つ、彼らクロノセイバーは
故に……力を誇示する様な戦いを繰り広げるべきではないと、英雄少佐は皆へと伝えていたのだ。
「心得たわ、クオン。まあ私達は元々、お姉さまの元でそういう矜持を貫いてきた訳だし? 今更敵を蹂躙する様な暴虐は働けないわよ。それに――」
「その行為は、私から大切な家族を奪った星州と同じになってしまう。それこそ真っ平ごめんだわ。」
英雄の言葉へ真っ先に反応したのは
言うに及ばず、かつて死神と呼ばれた彼女は、
相手を制するとの言葉は、今の彼女に於ける生き様そのものであったから。
だが、眉根を寄せて反応を渋ったのは
彼は
即ち……命の奪い合いの渦中で生き延びた男であった。
「……サイガ少佐。貴君の言い分は理解している。私もこの部隊に属する限りは、それに従おう。だが、この部隊があの渦中に飛び込む前に、私が見た惨状を――」
「火星圏が何故戦火の火種となるかを、皆へと話しておきたい。この後、新たな特務大尉嬢も含めたメンバーで、小ミーティングの時間は取れるか? 」
「あの戦場で生き長らえたあなたの言葉は、何よりの情報源だ、バンハーロー大尉。時間もすぐに用意しよう。皆もそれで構わないな? 」
なればこそ、経験者からの言葉の提供は己を知る上で重要なファクターとなる。
そう考えた英雄少佐は、パイロットを一瞥し告げた。
程なく、鉄仮面の部隊長からの情報提供の場が準備される事となった。
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