第215話 フォースレイアーの背負し使命



 沈黙の出撃サイレント・イグニッション

 ファクトリーソシャールが有する索敵レーダーに掛からない手段とし、旗艦から先行して発艦したライジングサンとΑアルファ・フォース。

 光学視界では捉えられないが、作戦が開始された事を確認した。


 言うに及ばず……そこへ通信とは概念が異なる重なりし者の力を存分に活かした形であり――高次元感覚で事を察知しての今だ。


「先行した潜入部隊はファクトリー近隣宙域へ到達。作戦行動に入った。米国上がりのメンフィスに感付かれた様子はない。そのままファクトリーへ接近の後、打ち合わせ通り進むだろう。」


『こちらジーナ、状況了解。エクちゃんのスタンバイも怠りありません。』


 現在Ωオメガエクセルテグと、有線で繋ぎ慣性航行に徹するブルーライトニング。

 機体直上に構えたジーナとのMSVマッシヴレセプターでのやり取り……高次意識領域で感じた情報を伝達して行く。


 作戦概要の重要点には、オレに加えいつきにジーナがフォースレイアーへと覚醒している事に加え、そうした覚醒者ゆえの能力を如何なく発揮する方向で組み上げている。

 そのオレ達を起点とした、潜入からのファクトリー奪還作戦だった。


「潜入部隊がファクトリーへ取り付く数百m手前より、廃棄した微小惑星からヴァルキリージャベリンをパージ。その後、目標までの軌道上へバラ撒いた残るジャベリンユニットを、ディン中尉のシグムントへ接続出来るよう直列配置――」


「その後、潜入予定時間到達でリンクを開始。奴に気付かれぬ規模でファクトリー各管制施設をクラッキングだ。合図はオレの指示を待て。」


『はい、クオンさん。VKJヴァルキリー・ジャベリンはそれぞれオートコントロールで稼働中。ディン中尉の機体位置を確認……リンクスタンバイ完了。』


 そんなやり取りの中。

 オレはファクトリー方向に感じるいつきの高次霊量子感応に混じり、今新たな霊力震イスタール・ヴィブレードさざなみが生まれている事態を確認する。

 すでに自分やいつきにジーナと言った、重なりし者の目覚めを数度経験したオレは双眸を閉じ……新たなる幕開けを待ち侘びる様に深淵を見据えた。

 同時にその意識領域の感覚を察したジーナが問うて来る。


『クオンさん。あの、勘違いだったらすみません。けど……私、自分でも経験したあの感覚をファクトリー方向から感じるんですが。』


「ああ、問題ない。それはオレも意識していた所だ。もはやそれは偶然などではなく、この霊装機セロフラームと言ういにしえの技術になぞらえる巨人が関係しているんだろう。」


「……間もなくその時は訪れるさ。新たな超新星爆発の如き目覚め――。」


 前触れはジーナも感じていた。

 何の事はない……これまで共に死線を潜り抜けて来た家族が、ようやくその頂きへと上り詰めたんだ。

 それを察せぬオレ達ではない。


 きっと本来ならばもっと早く、その時が訪れてもおかしくはなかったはずだ。

 けれど彼女は、己の私欲や願いさえ封じ込め……力無き人々のために戦い続けて来たんだ。


 ならばもう、彼女にその耐え凌いだ恩恵が降り注いでも良いはずだ。


 地球から宇宙そらへと上がり、力無き女性達の人生を救い上げ、自らが目指したその座を勇者へと明け渡した――


 今こそ我が古き同僚、神倶羅 綾奈かぐら あやなに因果の導きが示す未来が齎される時なんだ。



 故に作戦がとどこおりなく進む中待つ。

 四人目の覚醒の輝きが、この宇宙そらを照らし出す瞬間を。



》》》》



 S・A・Fセレシオル・アームズ・ファクトリー社―― 

 宇宙人そらびと社会は小惑星アステロイド帯宙域から準惑星セレス宙域の、あらゆる機動兵装から民間旅客船、引いては生活の基盤となるソシャール開発さえも網羅した太陽系の工業系生産拠点。

 そこが今、歪んだ正義の暴走により点火を前にした宇宙人そらびと社会最大の火薬庫と化す。


 引き金を引くは、地球地上は米国上がりのメンフィス・ザリッド。

 しかし宇宙人そらびと側もそれを黙って見過ごすほど、平和の海で揺蕩たゆたうだけの愚か者ではなかった。


 その最大戦力となる救いし者部隊クロノセイバーから出撃した部隊が、沈黙の進軍サイレント・ランを開始する。

 それを最前線で指揮するは……地上から宇宙そらへと上がりし、日いづる国より訪れた大和撫子だ。


「ファクトリー・ソシャールよりの迎撃は確認されず。これより外壁へと張り付き突入を開始。」


 変貌を遂げた赤き霊機ライジングサンメインコックピットとなるは、以前より赤き大尉綾奈が座している場所。

 そこで行動記録と共に、同機体で今回サポートに回る炎陽の勇者とやり取りする方向の言葉を放つ。


 沈黙の作戦サイレント・ミッションである現在、後方を行く女性を目指す者達Α・フォースのシグムント・ヒュレイカ三機には通信が伝わっていない。


 しかしそんなモノが、必要なしと言わんばかりの追従を見せる彼女達の動きは、無言の潜入で活きるハンドサイン――機体の手指を器用に動かし、あらかじめ取る行動に合わせて赤き大尉が後方へと指示を飛ばしているのだ。


綾奈あやなお姉さま、輝いてるわね。ほんとにあの頃に戻ったみたい。」


 誰にも届くでない三機の内、翡翠色ジェイダイトに染め上げられた魔改造機体ヒュレイカ・ジェイダイト内で男の娘大尉アシュリーが独りごちる。

 彼女としては、その昔……正しく赤き大尉がフリーで所属していた女性権威開放戦線によって救われた身。

 程なく彼女も、その戦線で活躍する事になった過去が蘇る。


 赤き霊機ライジングサンがファクトリーの外壁へ取り付くや、隆起した工場区画の最後端……メインとなる社員生活区と兼用のソシャール管理棟群から最も遠い場所である事を再確認する。

 機動兵装搬入口であろうそこからの潜入のため、ハッチへ掛かる強制ロック解除と、準備した外部アクセス介入システムを起動。


 手慣れた手付きで機体を操り、緊急アクセス基盤を発見するやクラッキング準備に入る。

 ちょうどそれは、コックピット内にあるタイマー時間で4分を指す頃である。


綾奈あやなさん、ジーナさんのエクセルテグより。クラッキング介入……来ます。』


 それは準備されたタイミング。

 事前打ち合わせ通りの時間で、双光の少女ジーナが駆る蒼き先鋭機エクセルテグよりクラッキング波が絶妙の呼吸で送られた。

 先鋭機エクセルテグが持つ半自立無線誘導兵装ヴァルキリー・ジャベリンを経由した、エリート部隊内 電子戦担当であるディン中尉の機体からの電子戦闘波。


 そう……通信さえ切断したこの作戦は、それを物ともしない連携で進んでいたのだ。


 そしてその電子網侵入は、あくまでファクトリーの電子回路網への一時的・局所的な侵入。

 今作戦の目的は当然、テロ同然に拉致された施設の社員家族の保護だけではない、宇宙人そらびと社会の生活基盤を生み出すも含まれている。

 故に、部隊側としてもいたずらな施設破壊は電子機器群に於いても望むべき物ではない。


 その到達目標こそが、作戦の運用を困難にする要因でもあった。


 作戦開始を前に、蒼き霊機ブルーライトニング内で独りごちるは英雄少佐クオン

 彼もこの作戦に於ける目標達成には、並々ならぬ意思をたぎらせていた。


「ソシャールとは、そこに住まうあらゆる者達の故郷。最初はあのイクス・トリムを救う事が叶ったが、次は通信ソシャール ニベルを崩壊させてしまった。大自然の驚異へ、オレ達は確かに成すすべなどない。だからこそ――」


「だからこそ、オレ達が為せる範囲であれば一切の手抜きは許されない。。それが、同胞と敵対する事になっても。」


 部隊の現場指揮をたまわり、数多の作戦指揮を取って来た彼は故に心を研ぎ澄ます。

 ソシャールを救う事は即ち、そこに住まう人々の世界を救う事に他ならない。

 それは聖人君子めいた矜持ではない……掛け替えのない日々を、必死に生きる同胞を想う慈愛こそが全てであった。


 彼はすでに、宿


『けれど敵対した者に対し、あくまで法にのっとる対応を取り……そしてその敵であった者が贖罪を求めるなら、しかとそれを聞き届け配慮する――ですよね? 』


 独りごちていたはずの英雄少佐の耳に届くは、現在レセプターを介しての索敵対応通信に終始する双光の少女ジーナの声。


 独り言に含まれた、との点への言及が投げかけられたのだ。


「ああ、その通りだジーナ。そして君も、しっかりそれを脳裏へ刻んでいてくれたんだんだな。」


『当然ですよ?クオンさん。クオンさんが見せる宇宙そらの武士道は、元々あの日いづる国は日本が生んだ〈海の武士道〉こそが元です。悲劇的な大戦争の中で生まれたその心根――』


『きっとそれは私達人類が、絶対見失ってはいけない魂の真髄だと思います。』


 英雄へ堂々たる言葉を放つ少女もまた、覚醒の頂きへ導かれた者。

 故に相応しき矜持を口にする。


 元来宇宙と重なりし者フォースレイアーは、そういった人類を導く言葉を、行動を、そしてそれによって生まれた世界を先導する役目を担うのだ。

 そんな中……ほどなくそれは訪れる事となる。



 蒼き霊機ブルーライトニング赤き霊機ライジングサン、そこへ関わる三人の覚醒者に次ぐ――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る