第216話 ソシャールを救うサイレント・ミッション
現在
当然機体間の通信を断絶したままであるが、その程度のハンデはエリート達の足枷にもならなかった。
「まず部隊指揮官殿のご要望はと……。セレシオル・ファクトリーへの電子介入は、あくまで米国上がりが関与した回路への攻撃のみとし、また同時にその電子攻撃パターンに対する防御プログラミングを構築――」
「今後ファクトリーへ電子防壁強化を進言する上で、不穏な電子介入に対する相応の防壁提供を踏まえた対電子汚染防御プログラム確立、と。全く無茶振りですなぁ、指揮官殿は……。」
部隊でも屈指の電子戦担当である中華系中尉は、苦笑ながらも淡々と
英雄よりの指示には、此度のファクトリー奪還作戦から
言うに及ばず――その際
部隊を始めとした
部隊内ではその裏切りの少尉と、一二を争う電子戦専門を地で行く中華系中尉。
それこそが英雄からの無茶振りが意味する所でもあったのだ。
やれやれと中尉が嘆息の中、流れるようなプログラミング処理にてクラッキングに専念する一方――
断たれた通信の中、
「あのイクス・トリムでの電子戦から、今回のファクトリー奪還に
部隊長の思考をエリートゆえの直感が震わせる。
全ての始まりは
多くの戦いの中で、不測の事態に予想を遥かに上回る窮地の連続であった。
だが――
彼はエリートであるからこそ、その一連の事態へ壮絶な違和感を覚えていたのだ。
「あのサイガ少佐の事だ……私が口にせずとも勘付いているだろうが。全てが順調に運び過ぎている。ここは
「そこでこの様に我ら部隊が、導かれる様に結成の後……あらゆる事態の渦中へ居合わせる事自体が不自然だ。」
漆黒の襲撃からこちら、部隊があらゆる事件へ巻き込まれる時間的なタイミングが異常なまでに一致していた。
そこで掛け替えのない命を失う事もあった
暫し逡巡した鉄仮面の部隊長だが、疑念を振り払い作戦へと意識を戻して行く。
己が抱いた
「……我らはすでに救世の任に就く同胞だ。いずれその点は少佐殿の口から語られるだろう。ならば我らはエリートとして、かの大和撫子が舞う前線フォローに従事しよう。」
かつては僅かな
しかしエリートと呼ばれたクリュッフェル・バンハーローは今、
そんな思考を抱きつつ、機体越しに無言のアクションで背後へと合図を送れば、共にクラッキングに専念する中華系中尉を守る位置……強面中尉から「準備滞りなく」とハンドサインを返される。
そして舞台は前線へ……
》》》》
クラッキングからの搬入口侵入を経て、私達はライジングサン率いるファクトリー奪還チームをソシャールへ滑り込ませる。
ここは位置的にもソシャール管制機能も持つ居住区画から真反対――クラッキングによる監視カメラ網の映像ジャックがすんなりと運べば、施設を貫通する巨大な建造区画を無理なく進んで行けるはず。
しかし相手は地上の米国上がり。
詳しくは聞き及ばないけれど、それが米国の特殊部隊に属していた者であれば迂闊な動きは禁物だ。
「
『了解っす、
「ええ、頼りにしてるわ。」
機体内でのレセプター通信が、一般的な通信設備での傍受が不可能とは言え、やはりサイレント・ミッションである今は小声でのやり取りとなってしまう。
辛うじて通信が出来る彼も、不慣れな機体調整含めた処理を
機体を搬入通路際へと寄せてすぐ、今度は通信が叶わないアシュリー達の動きを確認……と視線をモニターへ移せば、一切の無駄なき動きで各機が通路それぞれへ張り付いた。
通路各所に見える監視カメラへのクラッキングも良好。
そこを全て把握し素早く動く彼女達の頼もしさは、あの女性権威解放戦線からなんら変わりはない。
いえ?――あの時以上の鋭さが身に付いている様で安心した。
「(米国はトランピア・エッジ所属のメンフィス・ザリッド。判明している素性は、彼が米国から上がり火星圏政府中枢へ取り入ったと言う程度。調べてもヒットしなかったのは情報統制か……はたまた、火星圏 過激派の悪いクセが出たのか――)」
「(地上の同胞を
有線誘導式のマイクロビットカメラを通路角から僅かに覗かせ、通路クリアを背後に送ればアシュリーが私に続く。
残る二機のシグムント・ヒュレイカもそれに反応し、向かいの通路角へ滑り込む。
『
「ええ、確認したわ。空気による反響を考慮し、重機関砲をサプレッサー仕様で運用します。そして機体のアクセルカヴァー作動効率を最大に。各関節部で、自重軽減を優先して機体を稼働させます。」
空気があるなら音が響く。
それを考慮し通信をくれる
その全てが
「(これが機動兵装……これが、
私がメインパイロットとなる前提のシステムで、今まさに炎陽の名を頂く巨人がソシャールと言う大地を踏みしめる。
きっとここへ最初に乗り込んだ
そしてこの高揚感も感じていたはずだ。
けれど感慨は後回し。
目の前の作戦遂行こそが主眼。
クリアとなる通路で、ギリギリまで機体の動きを絞る。
反響音で反応する何かしらがないとも限らない現状は、いくらクラッキングによる妨害を入れているとはいえ油断は出来ない。
すると搬入通路をいくつかスニーク状態で曲がった先で、カノエのシグムントから停止と警戒のハンドサイン。
先頭を行く私の視覚となる、開けた区画で異常を確認した合図だ。
続いて指を器用に使い続く合図を送るカノエの機体。
アシュリー達には異常――即ちソシャール内での、敵方迎撃設備等を発見した際の合図をいくつか伝えてある。
今のメンフィスが用立てられる限りのモノで言うなら、ソシャール内の建造中システムに、ロールアウト待ちの機動兵装……そして彼が持ち込める唯一の自軍戦力 無人の殺戮兵器群だ。
そこで彼女が報告して来たモノは――
「……なるほど、敵はいくつかの無人兵器を後方へ待機させていたようね。けれどそこへ、ファクトリー製の機体も混ぜた混成迎撃部隊。数にして二十五……仕留めている間に、気付かれるレベルだわ。」
待ち構える機体群の戦力で言えば物の数ではない。
ないがそれは、確実に時間稼ぎを念頭に置いた戦力。
あちらは万一索敵に難が生じた場合、施設内に侵入された時点でそれを察知するため、重力制御と大気循環を利用して罠を仕掛けていたと見て間違いない。
「ファクトリー居住民が居住区画へ拉致されているとした場合、ここでの時間ロスは致命的。さて……。」
時間稼ぎの戦力全てをこちらの四機で、しかも勘付かれぬよ様音もなく、最速で仕留めて居住民がいる区画へとイッキに踏み込む。
双眸を閉じて思案する。
このライジングサンに秘められた可能性と、私と共に数多の任務を
そして――
『これは面倒っすね。けど……ただの格闘家な俺にも、何か出来ないかと考えてたっす。そしたら、こいつがその可能性を教えてくれたっす。』
レセプターを介して彼が見せ付けて来る。
置かれた状況が困難なのに、それを意にも介さないしたり顔を。
彼がライジングサンの可能性として示唆する、メインコンソールに浮かんだ〈
それをさらに拡張させた、ダブルフェイズ・チェーン・ドライブと銘打ったシステム提示と共に。
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